グローバルスタンダードとガラパゴスの違い

いよいよスマートフォン(以下、スマホ)を購入しようと家電量販店に足を運んだのですが、結局、溜息をついて帰宅しました。料金体系が複雑なのです。

auのサイトの料金表を見ると、「シンプルコース用プラン」で「E・SS・S・M・L・LL」と6種類も用意され、次のステップで割引プランが3種類提示されています。続いて、パケット通信の定額プランが2種類紹介され、「さらに」とスマホ購入の割引が登場し、とどめが固定電話とのセット販売が2種類。単純計算で、料金の組み合わせは432通りという「シンプル」さです。まるで、わざと複雑にしているかのようですが、その理由は最後に述べます。

日本で独自の進化を遂げた携帯電話を「ガラケー」と呼びます。外界と遮断されたことで、独自の生態系が生まれたガラパゴス諸島と「ケータイ」を組み合わせた造語です。世界基準から見て多機能すぎるガラケーを自嘲し、世界を席巻するスマホの潮流に乗り遅れていると嘆きます。「なるほど」と頷いて笑ってしまいます。

自国の製品を「えこひいき」して語るのがグローバルスタンダード。盲目的に他国製品を礼賛して、自国製品を躊躇なく卑下できるのは世界に類を見ない「ガラパゴス」な現象です。もしかすると、ガラパゴス化とは日本人らしさなのかもしれません。

体育会系の進学塾のGoogleにおける評価

S社長率いる進学塾の名前で検索すると、誹謗中傷するサイトが上位に表示されます。悪意ある検索結果が並べばイメージダウンは避けられません。

というのも、気合いや根性と言った精神論を多用する指導方法に、好みが両極化しているのです。袂を分かった生徒や講師が「2ちゃんねる」などの無料掲示板にあることないことを書き込んでおり、それが検索結果の上位をもたらしているというわけです。グーグルに削除要請をしても、著作権や名誉棄損など法に触れない限り対応は期待できず、これを逆手にとって競合他社の悪評を広める手法が問題になっています。

引きずり下ろすことができないのなら、それより上を目指せばよい。精神論の好きなS社長はシンプルな結論に達します。塾の名前の入った複数のサイトを作って検索結果の上位を埋め尽くすことで、誹謗中傷サイトが表示されないようにすればよいと考えたのです。この発想は正解です。健全な情報を発信するサイトを大量生産することで、検索順位を(結果的に)「操作」することは可能です。

S社長ファミリーによるリンク作戦は大失敗

S社長は一種のカリスマで、かつての教え子が生まれ故郷に戻って塾を開いており、全国に散らばる教え子が開く「支店」に通達を出します。

通達の内容はこうです。支店ごとにホームページを作らせたり、個人ブログを開かせたりした後、それぞれから「本店」にリンクを張らせました。検索順位は「リンク」を1票とする「美人投票」で決められ、リンクが多いほど順位は高くなりやすいのです。そのほかにも、「高校受験」「中学受験」「おちこぼれ」「補習」「エンカレッジスクール」など、さまざまなジャンルに特化したサイトを作り、そこからもリンクを張りました。ところが、「中傷掲示板」は消えません。

理由は「ガラパゴス0.2」です。グーグルが提唱する「ページランクテクノロジー」とは、前述の通り「美人投票」をもとにサイトを格付して検索結果に反映します。しかし、それは「開かれた世界」での話です。

S社長の塾は本支店間、支店間でリンクを張っていますが、塾以外のサイトからのリンクが皆無に等しく、また、塾から外の世界に繋がるリンクも張られていません。つまり、S社長のリンクは「閉じられた世界」であり、グーグルはこれを評価しません。親戚だけで行われた美人投票の結果は、赤の他人にとってどうでも良いことだからです。

携帯電話会社の裏事情か?

私がスマホに興味を持ったのは、「ワンセグ」や「お財布」といった「ガラケー」の機能が搭載されたからです。日本人のニーズを追求した結果のガラケーを卑下はしません。ガラパゴスゾウガメはガラパゴスの自然環境により育まれたように、独自の進化とは「個性」そのものなのです。とはいえ、インターネットというグローバルスタンダードの世界で勝負するのであれば「開かれた世界」のルールに適合しなければ淘汰されるのは自明です。

S社長の場合、教え子の多さから閉じられた世界の小ささに気づかず、精神論が現実を見る目を曇らせました。それは1億人という巨大なマーケットを抱え、戦後復興したという自負から世界の潮流に後れを取った日本に重なります。

それにつけても携帯電話の料金プランは複雑です。100円ショップがさまざまな仕入れ値(原価)の商品を100円で販売できるのは、「平均」して利益が出るように計算しているからで、すべての商売に通じる原則です。食べ放題の焼き肉店でも料金は力士も草食系も同じで、平均すれば利益が出るように設定されており、携帯電話における「定額制」に当たります。反対に注文した分だけ代金を払う「従量制」は普通のお店と同じです。

街の焼き肉屋にできることが、東証一部の上場企業の回線会社にできない理由を勘ぐってしまいます。複雑にすることで客を思考停止にし「高い料金」に追い込んでいるという邪推です。かつて、携帯電話への迷惑メールが社会問題化した時、回線会社の対応が後手に回る理由として、ある業界関係者はこういっていました。

「(迷惑メールの)受信でもパケット代がかかる」

真相はわかりません。しかし、「不透明」な料金体系もまた「ガラパゴス」なのです。

エンタープライズ1.0への箴言


「盲目的な努力はガラパゴス化する」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi