世の中にコンサルティングファームというものがあります。

クライアントの課題や悩みを解決することを目的としており、そのために優れた人材が集まる組織であると一般的には言われています。事実、優秀な人材は集まっているのですが、一方でこんな話を耳にしたことのある方もいるのではないでしょうか。

・私よりも経験の浅いコンサルタントが来たせいで、一から業界の知識を教えなきゃいけなかった。

・口を開けば一般論しか出てこない。このコンサルタントはうちの会社のことを本当に理解して提案しているのか疑問だ。

・コンサルに入ってもらったのに結局課題は解決しないまま。ムダに高いカネを払っただけで意味がなかった。

これが世界最大と言われるコンサルティングファームのコンサルタントに対する評判だと聞いて、はたしてあなたはどう思うでしょうか? 高い金だけ払わせて残した成果は大したものではなかった、これなら自分でやった方が良い結果が出せた、そう感じたクライアントがいることを聞いて「大したことないね」と思ったのなら、ちょっと耳を傾けてください。

唐突ですが、ここでマクドナルドという会社に注目してみたいと思います。

世界最大のハンバーガーチェーンであるマクドナルドは世界中で同じハンバーガーを売っていますが、これは文字通り、寸分狂わぬ”同じ味”のハンバーガーを消費者に提供し続けていることを意味しています。あなたが最近食べたマクドナルドのハンバーガーの味を思い出してください。

「それほどうまくないけど不味くて吐き出すほどでもない、まあいつも通り可もなく不可もない味だよ」

そんな感想を持つ人が多いと思います。そしてそれは世界の何処に行っても変わる事なく同じ感想を抱くことでしょう。こうした、いつどこで食べても同じような味わいを持つ食事を作るということに秘密があります。

ご存知の通り、マクドナルドは世界中のどこの店舗に行っても同じマニュアルを使ってハンバーガーを作っています。東京銀座のマクドナルドでパティ(肉)が焼かれる時間が38秒だとすれば、それはシンガポールのマクドナルドでもそうですし、ニューヨークでも変わりません。およそ38秒で焼き上げるのがマクドナルドのハンバーガーなのであり、それより焼き時間が長くても短くてもマクドナルドのハンバーガーではないのです。

さて、このマクドナルドと世界最大のコンサルティングファームにある共通点があることをあなたは知っていますか?

ヒントはもう出ています。さきほどマクドナルドのハンバーガーの焼き方について説明しましたが、これはマクドナルドのハンバーガー大学で開発された方法論(メソドロジー)にしたがっているだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。その結果が、あの美味くもなく不味くもない”あの味”を作り出しています、常にね。

では、マクドナルドよりも美味いハンバーガーを作ることが難しいかといえば、答えはNo。簡単とは言いませんが、頑張ればあなたでも美味しく作ることはできるでしょうし、実際にモスバーガーなどは明らかにマクドナルドよりも美味しいハンバーガーをチェーン展開で提供しています。

しかし、まったく同じ味のハンバーガーを世界中で常に提供し続けることができるかといえば、その答えもNo。作り方が厳密に定義されていないから作り手によって味が微妙に変わってきますし、材料の品質にも地域差が出てくることでしょう。とある天才料理人がものすごく美味しいハンバーガーを作ることに成功したとしても、その味を楽しめるのは天才料理人が実際に腕をふるうお店だけなのです。

どんな素人でも同じ味のハンバーガーを作れるよう、マクドナルドは膨大なメソドロジーによって調理方法を厳密に定義しました。どんな素人も失敗せずにハンバーガーを作れるためにはこれがベターな方法だったのです。

ここまで読んだあなたはもう気付いたかもしれませんね。

この話はJoel on Softwareというソフトウェア技術者向けに書かれた書籍の「ビッグマック 対 裸のシェフ」という話で触れられている話題です。

この話の要点は、

1. ある種のことをうまくやるには才能が必要
2. 個人の才能を他者にスケールさせるのは困難
3. 人々が才能をスケールしようとしてやるのは、才能ある者に作らせたルールに才能のない者を従わせる、ということ
4. 結果として得られるものの品質は一定だが低くなる

ということなのですが、これをITコンサルタントに当てはめて論理展開をしているのがジョエルの面白いところ。この方、もともとはマイクロソフトでソフトウェア設計を担当していた経歴を持っています。

コンサルティングに当てはめた話は読み物として純粋に面白いのですけど、少し文章が長いので以下リンクで読めるようにしておきました。ITコンサルタント、SE、PGなどIT業界に生きる方は読んでおくと参考になりそうです。

【Joel on Software:ビッグマック 対 裸のシェフ】
 → http://it-ura.seesaa.net/article/114822481.html

著者紹介

吉澤準特 (ヨシザワジュントク)

外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。

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この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。