みなさん、こんにちは。 前回は、不幸にして実際に障害に出会ってしまったときに、自分自身で出来ること、出来ないことについて説明しました。今回は障害の発生を防ぐために気をつけなければならないことを紹介していこうと思います。ただ、世の中の人みんながこれを実行した場合、私たちの仕事は無くなってしまうのですが。

まずは、バックアップ

こう言うと、「当たり前でしょ」とおっしゃる方もいると思いますが、意外と知られていないんです。実際のお客さまの問い合わせの中でも、「パソコンから外付けHDDにバックアップしたんだけど、そのHDDが突然動かなくなった」という故障をよく聞きます。こちらから「バックアップしたデータなら、元のデータは無いのですか?」とお聞きすると、中には「何でそんな聞き方をするのか!」と怒り出す方もいるのです。

バックアップとは、"データを2箇所で持つことによって安全を確保すること"で、パソコンのHDDが一杯になったから、別のメディアに保存して元のデータを消してしまうのは、バックアップではないのです。しかし、バックアップの言葉の意味を正確に理解されていない方がときどき見受けられます。

ハードディスクは故障する

パソコンの故障の中で、一番の原因になっている部品は何だか知っていますか? 実はハードディスクなんです。実際にパソコンの修理をしている業者と話をすると、パソコンの修理で持ち込まれるもののうち、ハードディスクの交換を必要とするものが約半数を占めるのだそうです。ですから、大切なデータはバックアップ(2箇所に保存)することが必要なんです。

それでは、ハードディスクの故障を防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか? 実際に弊社に持ち込まれたときに、ユーザーから直接聞いた情報、私が実際に経験したことなどを含めて紹介しましょう。

「ハードディスクの故障と温度の関係」は存在しない、などと報告されているようですが、実際にデータ復旧サービスを行っている私たちの所に依頼いただく件数は、夏が多く、冬が少ないの実情です。最近では、世界統計でもノートパソコンの売上台数がデスクトップを越えたようですが、ノートパソコンはどこにでも持ち運んで使えるので、ベッドの上でネットを見たり、メールをチェックしたりする人も多いと思います。

最近のパソコンに使われているCPUは発熱量が多いため、冷却ファンが付いており、起動時にファンの回るものが多いと思います。そのパソコンを、ベッドの上で使っていて、排気口を毛布やシーツで塞いでしまったら、内部温度が上昇し、たいへん危険です。

ノートPCの排気口と毛布

あるデザイン屋さんから聞いた話ですが、最近の外付けHDDやLAN接続のHDDは容量が大きいので、ファイルサーバ代わりに使っているそうです。ただ、置き場所を節約するため、横にピッタリくっつけて並べ、さらにその上にまた並べるといった具合に配置していたそうで、その結果、夏になると毎年何台かは私たちのお世話になっていました。そこで、"普通は1台ずつで使うことを基本に考えているので、隙間を空けて風を通さないと・・・"と、アドバイスしたところ、それ以来データ復旧の依頼をいただくことはなくなりました。

ぎっしり並べた、外付けHDD

これは私自身の経験ですが、自宅で使っているデスクトップPCは自作で、フルタワーにハードディスクを3台搭載しています。ハードディスクは、3.5インチベイに搭載していたのですが、真ん中のドライブに不良セクターが発生したので、ケースを開けてドライブに触れてみると、とても熱いことに気づきました。そこで、一台を抜いて5インチベイに移動すると、そのドライブはそれから5年間、不良セクターが増えることなく使うことが出来たのです。

都市伝説?

ハードディスクの障害とその解決法について、ネットで「冷蔵庫に入れる」、さらに「フリーザに入れて、一晩置く」なんて書いてあるのを見たことはありませんか? これもある意味、ドライブを復活させる可能性があるんです。

みなさんご存知のように、ハードディスクは埃のない環境(クリーンルーム)で作られています。その理由は、ヘッドの浮上量(動作中のプラッタとの隙間)は、約10nm(ナノメートル:100万分の1mm)で、昔からよく言われる「ジャンボジェット機との比較」で言えば、高度0.5mmを飛んでいる状態ですから、その埃に対する管理がいかに大変なことかはご理解いただけると思います。そして、このクリーンルームは摂氏23度くらいで管理されています。

実際に許されているドライブの使用条件では、外気温が摂氏5-45度程度が普通だと思いますが、実際のドライブの温度は、使われているモータ、ヘッドを動かすVCM(ヴォイスコイルモータ)、コントロールICの発熱により上昇し、摂氏80度くらいになっていることも珍しくありません。

ヘッドを動かすVCM

ハードディスクのフレームは金属でできていて、そう簡単には変形しないと思うかもしれませんが、何しろ、ヘッドの浮上量は10nm位で、トラック間隔が1マイクロメートル(0.001mm)に満たないハードディスクですから、色々な影響を受けます。

温度の変化による熱膨張では、金属はタテ/ヨコ/ななめ、全ての方向に同じように膨張するのではなく、金属の結晶の縦方向に大きく、横方向に小さく膨張することが知られています。そして、溶けたアルミを金型に圧力をかけて流し込み、さらに精密切削されたハードディスクのフレームも、温度の変化でねじれを発生してしまいます。今の衆議院と参議院の関係ではないんですが、「ねじれ」は決してよい方向には働きません。温度によってヘッドとデータが記録してあるプラッタ上のトラックの位置関係に変化が起きます。簡単にいうと、「低温時に書き込まれたデータが高温になると読み取りにくくなる!」、あるいはその逆の場合も当然あります。

蓋を開けた、ハードディスク

実際に、連休後、私たちが取り扱うサーバの件数は増える傾向があります。なぜでしょう? 24時間稼動しているサーバも、連休中は電気代節約のために運転を停止することが影響しているのではないかと思われます。サーバルームはエアコンで温度管理していても、それは気温の管理であって、ハードディスクの温度ではないのです。いつも温度が上がった状態で使われているドライブも、連休中は室温まで下がってしまい、連休後に電源を入れるとデータが読み込めず、「起動できない!」場合があるのではないでしょうか? もちろん、原因はそればかりではないでしょうが。

サーバと温度

サーバはドライブが1台故障しても大丈夫なように、RAID5で組んである場合があります。私たちが取り扱うRAID5で多い例が、障害を起こしたドライブを1台交換して、リビルト(再構築)をしている最中に2台目が故障するケースです。

これは、再構築時はドライブに通常時に比べ大変な負荷(アクセス)がかかるため、温度が上昇し、それが影響しているとも考えられます。一方で「同時期に作られたドライブだから、大体同じ時期に故障する」という人もいますが。

最近は、HDDも低価格になっていますので、たとえRAID5であってもバックアップを取り、定期的に交換するのが安全だと思います。ただし、初期不良には注意が必要です。これを発見するためには、定期交換を行う際、別のサーバで最低1週間程度運転し、初期不良がないことを確認するのがいいと思います。

さて、温度について書いていたら、非常に長くなってしまいましたので、次回も続けて「気をつけなければいけないこと(温度以外)」を紹介したいと思います。

(ワイ・イー・データ オントラック事業部 尾形)

ワイ・イー・データ オントラック事業部

1994年末、データ復旧サービスの世界最大手である米オントラック社と独占的技術導入契約を締結し、ストレージ機器の製造・開発技術・経験・設備を活かしたデータ復旧サービス事業に進出。1995年、国内で最初のデータ復旧専用ラボを埼玉県入間市に開設し、国内及びアジア地区の拠点として、デジタルカメラ用メモリーカードからHDD、大規模サーバ、NAS等データなどの復旧サービスを提供している。業界で唯一の東証上場会社でもある。
参照:ワイ・イー・データ データ復旧サービス