今回の選書

志を育てる リーダーとして自己を成長させ、道を切りひらくために(グロービス経営大学院/著 田久保善彦/執筆・監修) 東洋経済新報社

志を育てる リーダーとして自己を成長させ、道を切りひらくために(グロービス経営大学院/著 田久保善彦/執筆・監修) 東洋経済新報社

選書サマリー

「志」という言葉は、定義が難しい。おそらく、個々人にそれぞれによって意味づけが異なるはずだ。

古今東西、多くの人が志を抱いて生きていくことの大切さを説く言葉を残している。そうした言葉に触れ、「自分も志を抱いて生きていきたい」と考える人が増えていく。

しかし、そのうちの多くの人が、自分の「志」とは何かを自覚したり、意識することができない。

そのため「『志』がどうやって醸成されたのか」というプロセスや、「何がきっかけでその志が生まれたのか」といったことに関する研究や記述はほとんど存在ない。

その結果「志を胸に抱き、志を明確にして生きていきたい」と、思えば思うほど、参考にするものが見つからなくなる。そして「自分の志とは何なのか」という迷宮に入ってしまうのだ。

志がどのように醸成されていくのか、何がきっかけで志が生まれるのかを考えるにあたり、志という言葉を、どう定義するかを考えることが大切だ。

なぜなら「志」は概念自体が言語化しにくいからだ。その上、人によって異なるイメージを持たれている。そのため、意味づけが多様になされている。

ここでは、志を「一定期間、人生をかけてコミットできるような目標」と定義する。これでも抽象度が高いので、ポイントとなる言葉を解説する。

すなわち「一定の期間」とは、2~5年程度のことだ。1日や1カ月くらいでやろうとしていることは「志」ではない。あまりにも小さい、単なる行動目標だ。

また「人生をかけてコミット」とは、その人が何かに取り組む際、活用可能な「時間」や「意識」のかなり多くの部分を、自主的に割いて取り組んでいることだ。

この定義は、多くの読者が想定する「志」のイメージからは遠いかもしれない。一般的には「高尚なもの」「他人のために動くこと」が志のように思われているからだ。

しかし、志を「小志」と「大志」の2つに分けてみるとわかりやすくなる。「小志」とは「一定期間、人生をかけてコミットする目標」のこと、「大志」とは「一生涯を通じて達成しようとするもの」だ。

「大志」の実現は、無数の「小志」の実現の上に成されるのだ。そのように考えれば、志には大きく2つの定義の仕方があることに納得いただけるはずだ。

そして、確実に言えることは、まずはことを始めなければ、つまり、「小志」に向かって動き始めなければなければ、志の旅路は永遠に始まらないということだ。

実践・実行が伴わなければ、いくら小志の種をまいても、芽を出さない。いきなり生涯にわたる志を見つけようと苦心しても見つからないのだ。

それは、スタートラインでゴールがイメージできないと立ち止まっているようなものだ。日々の足元のことをしっかりやり遂げることこそが、生涯にわたる志に到達する最も近道なのだ。

今こそ、志を抱いて生きることが大切だ。なぜなら、現在は、自分から何かをつかみに行かなければ、誰も、何も、与えてくれないからだ。

経済発展が著しかった時代なら、人生をかけて取り組むことを、自分から探しに行く必要はなかった。会社の上司が次々に与えてくれたからだ。それに取り組んでいれば、目標達成できたのだ。

しかし、今は、そんなものを誰も与えてはくれない。だから、積極的になるべきだ。「自分は何を世の中に還元するのか」「何のために働くのか」という自分起点の志を見つけることが重要なのだ。

選書コメント

志をテーマにした、珍しい本です。志という、重要だが抽象的な概念の正体を解明し、それが醸成されるプロセスや、その育み方を、わかりやすく教えてくれます。

「成功するには、志が大事」などと、あらゆる局面で言われます。にもかかわらず、志に関する研究や、それに関する書籍は、これまでほとんどありませんでした。

理由は、おそらく、抽象的で分かりにくく、またきわめて個人的な事柄と考えられているからです。本書は、そんな手つかずだった「志」というテーマに正面から取り組んだ、意欲的な作品です。

書いたのは、ビジネス教育で定評のあるグロービス経営大学院です。彼らが、これまで語られてこなかった志を、ロジカルに、しかも体系的に解説してくれます。

著者たちは「志研究チーム」を発足させ、2年間にわたってインタビューを中心とした調査・研究に取り組んできたそうです。本書はその研究成果をお披露目する場になっています。

構成は、大きく理論編と事例編に分かれています。理論編では、30名を超えるインタビューから、志設定のプロセスなどを抽出し、方法論としてまとめています。

さらに、後半の事例編では、30名を超えるインタビューの中から、特に特徴的な8名を事例として詳細を紹介しています。彼らの歩んだ道を知ることで、自分の成長プロセスが思い描きやすくなります。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。