昨今のAI技術は、もはや一日見逃すだけでも置いていかれるほどの勢いで進化を続けている。そんな今だからこそ、確かな視点で情報をキャッチアップすることが重要だ。

本連載では、急速に進化すAI技術について、注目すべきニュースや技術トレンド、研究成果などをタイムリーにお届けする。また、AIの社会への影響や、規制の動きなど、新たに発生する問題も取り上げる。

今回は、2025年6月30日~7月11日に発表されたAI関連の注目すべきトピックを紹介する。Metaは「Meta Superintelligence Labs」を新設し、Llamaの次世代モデル開発に着手した。AppleはSiriの刷新に向けてClaudeやChatGPTの導入を検討中だという。OpenAIは独自のAI搭載Webブラウザを開発中であり、xAIはGrok 4を発表した。さらに、欧州では独立系出版社がGoogleのAI要約機能を反トラスト法違反で提訴し、AI規制の機運の高まりが見える。

それぞれ詳しく見ていこう。

META、次世代AIの開発に向けた「Meta Superintelligence Labs」設立

6月30日、MetaのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が、人工知能研究を強化する目的で「Meta Superintelligence Labs」と呼ばれる新部門を設立したことがわかった。Scale AIの創業者で元CEOのAlexandr Wang氏が最高AI責任者(CAI)に就任し、元GitHub CEOのNat Friedman氏と共同で組織を率いるという。

同社は今年4月にLLM(大規模言語モデル)の最新版となる「Llama 4」をリリースしたが、評判はいまいちで、OpenAIやGoogleなどのライバルに遅れを取る形になっている。新組織では、Llama 4の改良版である4.1および4.2モデルを軸に据えつつ、さらに次世代モデルの開発にも本格的に着手して巻き返しを図る。

そしてさらに先の未来として、人間よりも優れた思考力を持つ人工汎用知能(AGI)の実現も視野に入れているという。現状では短期的な収益化は不透明なものの、中長期的にはMeta AIアプリやスマートグラス、画像広告生成ツールなどの商用化によって新たな収益の確保を目指すとのことだ。

  • Meta AIアプリの画面例 引用:Meta

Appleが外部AIを活用して「Siri」の刷新を検討か

6月30日、Bloombergは「Apple Weighs Replacing Siri’s AI, LLMs With Anthropic Claude or OpenAI ChatGPT」において、Appleが音声アシスタント「Siri」の刷新に向けて外部のAIモデルの導入を検討していると報じた。

Siriは現在、自社開発の「Apple Foundation Model」を内部AIとして使用しているが、ChatGPTをはじめとする生成AIベースのチャットサービスが登場して以来、同社のAIは他社に大きく水を開けられた印象が否めない。この苦境を跳ね返すべく、AppleはAnthropicのClaudeやOpenAIのChatGPTといったLLMの導入を検討しており、両社に対して自社クラウド向けのモデルのトレーニングを依頼したという。

  • 「Apple Foundation Model」の構造 引用:Apple

現行で、Siriの音声アシスタントは独自AIだが、Web検索支援では限定的にChatGPTも活用している。新しいSiriでは、この統合がさらに深いものになり、ユーザー体験を一変させる可能性がある。ただし、Appleによる外部モデルの検討はまだ初期段階であり、採用に関する最終判断はまだ未定とのことだ。

欧州の独立系出版社グループがGoogleのAI要約機能を反トラスト法違反で提訴

7月4日、Reutersは「Exclusive: Google's AI Overviews hit by EU antitrust complaint from independent publishers」において、独立系出版社グループがGoogleのAI要約機能について反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴したことを伝えた。Google検索では、Webサイトの内容を生成AIで要約して表示する機能を提供している。

出版社側は、GoogleがこのAI要約を検索結果のトップに表示することで、ユーザーを元記事へ誘導せず、出版社へのアクセスや収益を削減していると主張している。また、出版社側にAIによる要約の生成を拒否する手段がないことも問題視している。

欧州におけるこの動きは、検索市場におけるAI統合に対するコンテンツ提供側の懸念を反映したものであり、各業界から注目を集めている。

折しも欧州委員会では、6月に施行されたEUのAI規制(AI Act)の実施について「一切の停止や猶予期間は設けない」と決定したばかりである(参考記事: EU sticks with timeline for AI rules | Reuters)。

AI Actは、リスクに応じた分類と義務を定めることで、高リスクなAIの安全性や透明性を強化することを目的としているが、規制が厳格であることから、とくに中小企業やAI開発者にとって負担が大きく、技術革新を妨げる可能性があるとして多くの企業や政府が延期を要請している。

OpenAIが近くAI搭載の新Webブラウザ発表へ

7月10日、Reutersは「Exclusive: OpenAI to release web browser in challenge to Google Chrome」において、OpenAIがAIを搭載した独自のWebブラウザの開発に取り組んでおり、数週間以内にリリースする見込みだと報じた。

このWebブラウザは、リンクをクリックしてWebサイトにアクセスするのではなく、ChatGPT風のチャットインタフェースでインタラクティブにユーザーとやりとりする設計になっているという。

Webブラウザがユーザーのインターネット上でのアクティビティに直接アクセスできるようになれば、OpenAIが提供する「Operator」のようなAIエージェントは、このWebブラウザー経由で予約やフォームへの入力といった操作を行えるようになる。これは、ハイパーリンクと検索を中心に発展してきた従来のWebブラウジング体験を大きく変える可能性を秘めている。

イーロン・マスク氏のxAIが最新AIモデル「Grok 4」を発表

7月10日、イーロン・マスク氏が運営するxAIが、AIモデルの最新バージョンとなる「Grok 4」を発表した。Grok 4は、テキストと画像の入力が可能なマルチモーダルモデルであり、推論能力の向上、インタフェースの改良、そして音声コミュニケーション機能の向上などが特徴となっている。

xAIによると、Grok 4は科学者レベルの高度な推論能力を持ち、従来の「Grok 3」と比較して10倍のパフォーマンスを実現したとのこと。OpenAI o3、Google Gemini 2.5 Pro、Anthropic Claude 4 Opusといった競合他社の最新AIモデルに対しても主要なベンチマークで上回っているという。

  • Grog 4と他の競合モデルとの比較 出典:xAI

    Grog 4と他の競合モデルとの比較 出典:xAI