「Vtuber」という存在を知っているだろうか。Vtuberとは、「Virtual Youtuber(バーチャル ユーチューバー)」の略で、仮想のキャラクターを利用して、人間の動きをモーションキャプチャで反映させた動画や配信映像をYouTubeに投稿している人のことを指す。

近年、盛り上がりを見せるVtuber業界だが、そこに企業の名前を背負い参入する「企業公式Vtuber」が登場している。

本連載では、会社の顔としてVtuberを導入している企業の担当者に話を伺い、その誕生秘話や担当者の想いに迫る。

第11回となる今回は、カーナビゲーションやスマートフォンの地図制作・販売をはじめ、デジタル地図事業をメインに行うジオテクノロジーズの公式Vtuber「方位かなめ」。担当者である山口大希氏に話を聞いた。

  • 方位かなめ

    方位かなめ

「方位かなめ」はどんなVtuber?

方位かなめは、「ジオテクノロジーズの魅力をZ世代に伝える」というミッションのもと、未来からやってきたジオテクノロジーズの新入社員Vtuberだ。

2023年11月2日にデビューして以来、X(旧:Twitter)のフォロワー約1万人、YouTubeの登録者数3600人(2024年8月現在)と、順調にファンを獲得している。

  • 方位かなめの各種SNS

    方位かなめの各種SNS

ジオテクノロジーズが企業として公式Vtuberをスタートさせた経緯について、山口氏は、「ジオテクノロジーズはSNSでの発信力が低い」という課題を挙げた。

当時のジオテクノロジーズは、旧社名の「インクリメントP」から「ジオテクノロジーズ」に社名を変更したばかりで、自社の認知度向上に取り組んでいる最中だったという。

「元々、会社としてYouTubeのアカウント自体は所持していたのですが、投稿はほとんど行っていない状況でした。YouTubeを有効活用して自社の認知度を上げられないかと考え、企業公式Vtuberを運用することになりました」(山口氏)

  • 今回話を聞いた担当者の山口氏

    今回話を聞いた担当者の山口氏

山口氏がこのアイデアを2023年3月に会社に提案してから、7月~8月の間にキャラクターを制作、10月からは「30日後にデビューするVtuber」という企画動画を毎日投稿したという。

また「中の人」には自社の社員を採用しており、「地図会社の社員なのに方向音痴」といった性格や、「深夜残業扱いになるなので22時以降は配信できない」といった会社員らしさが、キャラクターとしての魅力をより引き出していると言えそうだ。

地図会社らしい企画でファンを獲得

このような経緯でデビューした方位かなめは週4日の動画投稿に加え、自社CM・イベントの出演、自社製品の広告動画制作、他企業公式Vtuberとのコラボ配信などを行っているという。

週4日の動画投稿では、ゲーム配信や歌ってみた動画といったVtuberらしい企画から、地図を扱う企業らしく旅行の思い出を配信したり、地図記号クイズをしたり、と地図にまつわる内容の企画も多く投稿している。

中でも「お告げに従っておさんぽ!!」という動画は、「ドロッセルマイヤーさんのさんぽ神」という、散歩の神様であるさんぽ神からお告げをもらい、それに従って実際に街を散歩するというカードゲームのプレイ動画となっており、視聴者からの反応が良かったという。

お告げに従っておさんぽ!! #ジオテクノロジーズ #さんぽ神

これらの活動に加えて、4月18日放送のテレビ東京「渡辺隆のいしとほしとタカシ」で地上波デビューも飾っており、さらに活躍の場を広げているそうだ。

視聴者のメインターゲットとしては10代後半~30代前半までを想定しており、Z世代が楽しめるコンテンツを多く発信しているという。

  • 方位かなめの新ビジュアル

    方位かなめの新ビジュアル

社内のコミュニケーションの「かなめ」に

山口氏は、方位かなめの活動でジオテクノロジーズが得たものとして「魅力的なキャラクター」「動画投稿ノウハウ」「若い世代のファン」「効率的な広告制作」という4点を挙げた。

「また、元々は想定していなかった効果ですが、方位かなめを公式Vtuberとして導入したことで、社内に一体感が生まれてきたと実感しています。特に最近、在宅勤務が当たり前になっているので、なかなか社員と社内で顔を合わす機会がなく、交流できる機会が少ない中で、『方位かなめ』という共通の話題があることがコミュニケーションの要になっています」(山口氏)

山口氏いわく、社員が家族と方位かなめの配信を見たり、みんなで配信の協力や応援したりするといった風潮が出てきているそうだ。中には方位かなめのグッズを手作りしている社員や、自分のロッカーや資料に方位かなめのイラストを張り付けている社員もいるという。

また、盛岡や大阪といった別拠点の社員から動画の感想やコメントが届くこともあると言い、「広報の手段として導入したものが社内でもポジティブな変化をもたらしている」と効果を語っていた。

最後に、今後社内でVtuberを導入するか検討している企業の担当者に向けて、企業系Vtuberの先輩としてアドバイスをいただいた。

「Vtuberに限った話ではありませんが、企業内に新しいものを導入することはどうしてもパワーが必要です。難しいこともあるかもしれませんが、社内外に応援してくれる人は必ずいて、自分が出せる以上のパワーを発揮できるチャンスでもあるので、ぜひ積極的に挑戦してほしい、と思っています」(山口氏)