セイコーエプソン神林事業所の工場見学前半では、リデュース/リユース/リサイクルの3点にこだわった「3R設計」についてご紹介し、工場でのプリンタの分解作業やボディ部分のリサイクル過程をご覧いただいた。後半となる今回は、プリンタのさらに細かい部分について、どのように再資源化されているのかを見ていこう。
分解しやすい=リサイクルしやすい製品
家庭でも最近は、ペットボトルはラベルをはがして捨てる、タバコやお菓子は外側のフィルムと内側の紙箱を分別して捨てる、などということがあたり前になってきている。しかし、その煩わしさから「分別しなくていい包装を考えてもらえないものか」と思っている人も多いだろう。リサイクルの現場でもまったく同じで、分別しやすい製品からは不純物の少ないリサイクル素材が作りやすい。分別を容易にするには、「分解しやすさ」が重要となる。分解に手間がかかったり分別がしづらい製品だと、リサイクルコストが跳ね上がり、なおかつ、不純物の多いリサイクル素材しか作れないということにもなり得るからだ。そのため、3R設計では「分解しやすさ」も大きなテーマになっているのだそうだ。
たとえば、本体の組立にはネジが使われるが、ネジはプリンタの一面側に集中するようになっている。これは、分解するときに、プリンタをひっくり返す手間を省くためだ。さらに、内部の見づらいところに使われているネジの場合、「ここにネジがある」ということを示す記号が表示されている。ネジを使わずに、はめこみ式で組み立てた方がエコのような気がするかもしれないが、はめこみ式は分解作業がやっかいなものとなってしまう。必要最低限のネジを使った方が分解しやすく、分別も容易になるそうだ。
また、プリンタ底面の振動を吸収するためのゴム足横には、妙な溝が切ってある。これは、分解するときに、溝部分にドライバーなどを入れて簡単にゴム足が外せるようにする工夫なのだそうだ。
このような工夫は、セイコーエプソン神林事業所にあるリサイクル現場で、実際に分解してみることで生まれたものだという。リサイクル現場から得られた情報に基づいて「3R設計ガイド」が作成され、商品設計はこのガイドに従って進められる。試作品ができあがると実際に分解をしてみて、分解のしやすさを評価し、その結果を設計にフィードバックする。この繰り返しによって、より次元の高いリサイクルに進化してきたという。
本当のエコ製品は「ライフサイクル」と「クローズド」がポイント
ばらばらに分解されたプリンタやインクカートリッジのプラスチック部分はリサイクル素材となり、再度プリンタやカートリッジの部品として使われたり、ボールペンなどになる。金属部分は種類ごとに分けられて素材メーカーに売却されるが、一部はエプソンアトミックス(セイコーエプソンの関係会社)で微粉末化され、時計の裏ぶたなどに使われているのだそうだ。
そのほか、プリンタからはアモルファス金属、ステンレススティール、アルニコ(アルミニウム、ニッケル、コバルトの合金を化合して作られた金属)などが回収できる |
回収された金属の一部は、素材メーカーに売却され、歯列矯正用の部品や剃刀等へと生まれ変わる。また、同社関連会社であるセイコーの腕時計の裏蓋にも利用されている |
エプソンが目指しているのはクローズドリサイクル。リサイクル素材を別の製品に使うのではなく、自社ですべて利用する、つまり、リサイクルした素材を外に出さず、自家消費することが目標なのだ。
一口に"エコ製品"といっても、内容は様々だ。単なる低電力製品だったり、リサイクルはしてもその素材を外部に売却し、その後どう使われようと関知しないという無責任なケースも存在する。私たち消費者は、ひとつの製品がライフサイクル全体で環境に与える負荷のうち、一部しか関与できない。それならば、ほんとうのエコ製品を見極める目をもちたいものだ。見極めのキーワードとなるのは「ライフサイクルでの環境負荷」と「クローズドリサイクル」だ。
ひとつの製品のライフサイクルは「素材製造」「製品製造」「輸送」「家庭での使用」「廃棄・リサイクル」の5つのステージがある。このすべてのステージでの環境負荷を考えていかなければエコ製品とは呼べない。インクジェットプリンタの場合、「素材製造」と「家庭での使用」の負荷の割合が大きく、素材製造では小型軽量化、部品点数減、リサイクル素材の使用を、家庭での使用では節電、カートリッジリサイクルを行うことで、ライフサイクル全体の環境負荷を大きく減らすことができる |