生成AIの業務導入が進むなか、多くの企業がいかに本質的な事業変革へつなげるかという壁に直面している。みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)は、AIを自らの“手の内”に収める内製開発へのこだわりと、人間の認知能力を超えるAIを前提とした非連続な業務プロセス変革で、この壁を越えようとしている。
3月23日~24日に開催されたオンラインセミナー「TECH+データ×イノベーション エキスポ 2026 Mar. データ駆動型組織を定着させるために、活用のその先へ」にて、みずほFG 執行役常務 グループCDO 上ノ山信宏氏が登壇。同グループの取り組みについて紹介した。
なぜCDTOを新設したのか――みずほが「変革」に踏み込む理由
上ノ山氏は入社以来、法人営業や人事領域を長く歩み、2024年からデジタル領域の推進を牽引してきた。2026年4月からは、役職名がCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)からCDTO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)へと変更になる。同氏は「トランスフォーメーション、つまり変革に重点を置きながら活動していきたいという思いを込めた」と、その意図を説明した。
CDTOの管掌領域は大きく4つの部門で構成される。スタートアップ投資を担う「事業共創部」、データ基盤・品質管理・ガバナンスを司る「データマネジメント部」、社内のデジタル・AIプロジェクトを推進する「デジタル戦略部」、そして量子コンピュータなど先端技術の研究を行う「情報数理工学研究所」だ。
なぜAIは“内製化”すべきなのか――みずほがこだわる「手の内化」戦略
現在、みずほFGでは、パートナー企業からのツール導入と並行して、AIツール開発の内製化を進めている。上ノ山氏は「AIのこれからの発展を考えると、できるだけ”手の内化”して自分たちで動かせるかたちにしていく必要がある。今の段階から自分たちでつくり、動かし、また壊してみるということを繰り返さないと、なかなか身体知になっていかない」とその理由を述べた。
具体的には、会議の議事録をAIで作成する「Wiz Create」、膨大な社内手続き書を生成AI(RAG)で横断検索する「Wiz Search」、社員がプロンプトテンプレートを共創するワークショップ型の「Wiz Chat Lab」などを展開している。なかでも社内で最もヒットしているのが、考え事の壁打ち相手としてAIを活用する「壁打ち魔人」だ。「社員のみならず役員たちも、自分で考え、このツールで壁打ちして戦略や方針をブラッシュアップしている」と、経営層まで浸透している状況を紹介した。
さらに、複数のAIツールをオーケストレートして動かすAIエージェント「RM Studio」にも着手している。過去の面談記録や顧客情報をインプットとし、Web検索・みずほ商品探索・行内情報探索の各サブエージェントが連携して、提案書のドラフトやトークスクリプトを自動生成する仕組みだ。
半歩先の取り組みとしては、金融業界特有の業務知識や自社独自のノウハウを学習させた「みずほLLM」の開発も進む。ベースとなる金融特化LLMは銀行の実務テストで合格水準を達成する精度に到達しており、今後は特定領域への深化と、複数の特化LLMが連携する協調型エキスパートLLMの実現を目指すという。
「現在は1つひとつのツールで『点』の課題を解決している段階ですが、これらが『線』になり『面』になっていくことで、AIのパフォーマンスは幾何級数的に向上していくと考えています」(上ノ山氏)
「No Data No AI」なぜデータが競争力を左右するのか
AIの実用化が進むなか、上ノ山氏が強調したのがデータの重要性である。
企業活動は、インプットからオペレーション(実行)を経てアウトプットを生み出し、その結果を再びインプットへと戻す「フィードバックループ」という系によって成り立っている。このループを媒介しているのがデータであり、企業活動にAIを組み込むということは、まさにこのループの中心にAIを配置することに他ならない。
「ループを高速に回していくためには、AIに適切なデータを供給しなければなりません。『No Data No AI』という言葉のとおり、データがAIの学習と性能の基盤となります。データの質が悪かったり偏りがあったりすれば、最終的な信頼性に影響を及ぼします。競争優位性は、単なるデータの量ではなく、意思決定の品質と実行スピードの変換能力にあります。だからこそ、根拠や生成プロセスが明確で、質の高いデータを取得・管理していくことが不可欠です」(上ノ山氏)
AIは「改善ツール」ではない――業務プロセスを作り替えるパラダイムシフトとは
続いて上ノ山氏は、経営的視点からAIがもたらすパラダイムシフトについて言及した。
企業の価値は「価値創出×価値提供」で表される。資本配分、決済システムの維持、リスク変換などといった金融機関における価値創出の役割は、AI時代になっても変わることはない。しかし、価値提供の在り方は、テクノロジーの進化によって根本的に変化していくという。
「難しい、専門知識が必要、手続きが煩雑……などといったお客さまの不満の多くは価値提供の部分に集中しています。伝統的な金融機関が手の届いていない部分を補うかたちでフィンテック企業が台頭していますが、私たち自身も提供価値を見直していく必要があり、その最大のキラーコンテンツがAIです」(上ノ山氏)
AIは「人間の認知能力を超えるツール」だと同氏は語る。現在の業務プロセスは人間の認知能力の限界を前提に設計されているため、バッチ処理や部分最適、標準対応にとどまっている。しかし、AIを前提とすれば、リアルタイム処理、予測型、全体最適、そして顧客視点での完全個別対応へとプロセスをつくり変えることが可能になるという。
「今あるプロセスの一部にAIを入れて改善するのではなく、人間の認知能力を超えるAIの力を前提に、プロセス全体を根本から見直すパラダイムシフトを起こす必要があります。改善ではなく非連続な改革、つまりトランスフォームに挑戦するためには、組織風土の変革や無駄な業務の廃止など、経営の総力戦で取り組まなければなりません」(上ノ山氏)
I時代、人間の役割はどう変わるのか――「共進」という考え方
講演の最後、上ノ山氏はAI時代における組織や人材の在り方にも触れた。ビジネスモデルのパラダイムシフトが起きるのであれば、組織構造や求められるスキルセットも大きく変わる可能性がある。それでも同氏が描く理想は、「人とAIが共進する世界」だ。
「全てをAIに任せるわけではありません。AIは万能ではなく、人間には人間にしかできない『知恵』『直感』『共感』といった領域があります。そして何より、AIを正しくコントロールする責任は人間にあります。AIも成長し、人間も成長していく。人間が血の通ったかたちで世界を動かし、人とAIが『共進』する世界を理想として、これからも企業活動に取り組んでいきます」(上ノ山氏)
変革の旗印を掲げつつ、地に足のついた内製開発で着実にAI活用の土台を固めるみずほFG。同グループが挑むDXの本丸は、テクノロジーの導入そのものではなく、データを軸にした事業・業務プロセスの根本的な再設計にある。



