【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「出向者の働き方ルール」

大手生保4社から銀行等への出向者による情報無断持ち出しが3500件にも上り、不適切取り扱いが蔓延していた由だ。銀行業界でも多くの若手行員が数年間、人事異動として財務省や経産省等お役所とか親密取引先に出向している。

 

 私も課長時代、興銀が買収した米国債証券会社ランストン社に出向した。送別会で岡部進常務(後に興銀リース社長、コスモ石油副社長)からアドバイスを頂戴した。

 『君は出向、初めてだな。東京本社ばかり見ているのではなく、出向先で骨を埋めるくらいの覚悟で出向先の為だけに働くべきだよ』。

 ランストン側の一つの本音は「Primary Dealer 43社の議長職を何回もやったWall Streetの名門・我々のランストンが黄色い奴に買われてしまった。冗談じゃないよ」だったろう。買収直後、正直で率直な従業員も一部いた。

 Good Morning!と声掛けしても何日も無視し続けられた。トイレには「Jap,Go Home!」との落書き。2カ月ほど経つと、露骨な嫌がらせは収まって来たが『あいつは出向者。本社のスパイだ』という通奏低音が絶えず鳴っていた。

 半年ほどして、ランストンにとって非常にやっかいな問題が出て来る。ランストン経営陣が私に相談に来た。難題だった。熟慮した。唯一の解決策は興銀頭取の合意を取ることだけに見えた。

 ただ、人事評価者である私の興銀上司は、この策に反対と思われ、彼に内密で動く必要があった。再び熟慮したが「ランストンの為に」の一念で決意した。

 ランストン社長と中村金夫・興銀頭取の1対1の面談を密かに設定、直訴させたのだ。幸いにも中村頭取から満額回答を得ることが出来た。

 数日後だった。何と、あの無視・青年からGood Morningと初めて挨拶されたのだ!『長門はランストンの為にリスクを取って働いた』事実が全社に伝わっていた。『東京本社からの訪問客』という通奏低音が綺麗に消えていた。岡部常務の言葉を噛みしめた瞬間だった。

 これだけ多くの生保出向者が不適切行為を自身の信念でやったとは考えにくい。明確な規則が生保本社にある筈もないが、「出向者は本社の為に働く、役立つ情報は本社に伝える、この程度の情報を持ち出しても何の問題もない」という漠然とした常識が生保本社&出向者双方にあったのではないか。

 コンプラ常識も時代と共に進化する。今後は出向者の職責、権利と義務を受入側、送出側双方合意の上、明確に示すべきだ。出向者自身は学ぶことが多い。受入送出側双方もお互い、企業哲学&文化の理解が深まる。出向制度、前向きに活かしたい。