日常の業務でも活用の機会が増えている生成AI。OpenAIやGoogleに代表される海外製のサービスは、開発スピードの速さと豊富なデータ量が武器だ。一方で国産AIもまた、日本語の微妙な言い回しや表現への対応や法令への配慮など、独自の進化を遂げつつある。
海外製の高性能なモデルも安価に利用できる環境の中、わざわざ国産AIを開発する意義はあるのだろうか。意見はさまざまあるだろうが、カラクリが開催した記者説明会「国産AIは海外勢に勝てるのか?」の中から、一つの考え方を紹介しよう。
国産AIはどこで勝てる?3つの有望領域とは
経済産業省は国内の生成AI開発を支援するプログラム「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」を立ち上げた。これまで3期にわたりモデル開発が進められ、2026年3月27日に24事業者が最終成果報告会に参加した。
この報告会に参加したカラクリのCPO(Chief Product Officer) 中山智文氏は、国産モデルが活躍する領域として次の3つを挙げた。
まずは「縦特化領域」のAIだ。バーティカルSaaS(Vertical SaaS)とも呼ばれ、医療や建設業など特定の領域、あるいは特定の業種に特化した専門的なサービスを提供する。汎用的なモデルでは性能要件を満たしにくい専門領域を強みとする。
2つ目は「独自のデータ領域」。インターネット上で公開されているような一般的なデータを用いた学習では実現困難な、独自のデータを強みとするサービスは活躍の機会があるという。独自データとは、例えば音声や動画、製造ラインのデータなどだ。
最後は「自前であることの価値」である。例えば防衛領域や金融、医療のように、外部と接続せずオンプレミスで稼働する国産AIは、それ自体に価値があるとのことだ。
海外AIが強い中で、なぜ国産AIを開発する必要があるのか
その一方で、QwenやDeepSeekといったオープンなモデルを無料で使える中、わざわざ多額の予算を使って国産モデルを開発することに対し、批判的な意見もある。
また、海外企業がAI開発に数兆円規模の投資を行う時代に、日本国内で数百億円の補助金を出すことにも、懐疑的な意見が出されている。
こうした意見に対し中山氏は、「経済安全保障の観点からも国産AIは重要」と指摘する。人の労働がAIに置き換えられていく中で、そのAIを海外製のものに依存することは富の流出を意味する。日本のデジタル赤字は年間数兆円規模と推定され、依然として増加中だ。
また、Qwenは開発の主要リーダーが一斉に退職したり、DeepSeekの利用を米国政府が明確に禁止したりするなど、中国製のモデルにはリスクも懸念されている。
しかし現実的に考えると、多くの企業では経済安全保障などの観点からAI導入を検討する例は少なく、最も役に立ちコストパフォーマンスの優れたモデルを導入するのが普通だと考えられる。
国産AIの勝ち筋は“現場力×特化モデル”にある理由
中山氏は国内で実際に使われる国産AIの勝ち筋について、「現場力」と「特化モデル」の組み合わせが重要だと話していた。
トヨタ式の「カイゼン」に代表されるように、日本は現場の作業員が主体となって効率化を進める点に強みを持つ。OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)の調査によると、日本人の平均的な能力の差が改善・効率化の質の差を生んでいるという。
また、特化型のモデルは汎用モデルと比較して開発コストを安価に抑えられるメリットもある。実際、GENIACでも約8割の企業が継続学習やファインチューニングの手法を採用しているとのことだ。
「エンジニアが現場に張り付いて開発を進めるのでは、本当の意味で現場力を生かすことにはならない。現場では毎分のように改善の機会が発生しているため、思い付いたときに現場担当者がすぐにAIを使う状況にする必要がある。重要なのは直感的にAIを使えるインタフェース」だと語り、中山氏は勉強会を締めくくった。



