高度なAIエージェントが人の作業を代替できるようになり、「SaaS is Dead」(SaaSは死んだ)論が話題を呼んでいることを背景に、ソフトウェア関連銘柄、とりわけSaaS企業の株価が相次いで下落している。AIネイティブな新興企業が既存のSaaS市場を大きく変革する動きも見られる。

本稿ではHelpfeelが開催した記者説明会から、AIエージェント時代のSaaS企業の勝ち筋について考えたい。HelpfeelのCEOを務める洛西一周氏は同社の北米展開を図るため、3カ月間ほどシリコンバレーに滞在。説明会ではその際の知見を中心に市場動向が解説された。

  • Helpfeel 代表取締役 CEO 洛西一周氏

    Helpfeel 代表取締役 CEO 洛西一周氏

「SaaS is Dead」とは何か?市場を揺るがすアンソロピック・ショック

米Anthropicが発表したAIエージェント「Claude Cowork」の性能が高く、従来のSaaSを代替し得ると考えられたことから、SaaS企業に対する風向きが強まった。こうした一連の市場の動きは「アンソロピック・ショック」と呼ばれる。

日本も例外ではなく、グロース市場を中心に大手SaaS企業株が10%以上下落したほか、AIスタートアップ企業の調達額も値が付きにくい状況だ。

AI時代、SaaSは本当に終わるのか?日米で異なる投資環境

しかし洛西氏は「シリコンバレーではOpenAIやAnthropicなどスタートアップ投資が活況。バブルとまでは呼べないが、色めき立っていることは間違いない。上場の基準は高いが、M&Aなども含めるとイグジットの価値が上がっている」と、日米の差を分析し紹介していた。

SaaSは4つに分かれる、投資家が見ている競争構造

シリコンバレーの投資家は、「単純にSaaSとAIを二項対立で見ているわけではない」(洛西氏)という。同氏は市場のプレイヤーを次のように4つに大別した。

まずは従来の「SaaS」。AI機能を持たず、特定の業務プロセスのための機能をクラウド型で提供するモデルだ。2つ目は、既存のSaaSにAI機能を後付けした「AI搭載SaaS」。日本国内でも業務特化のソフトウェアにAIを付加したSaaSを提供する企業は増えている。3つ目はAIの活用を前提に設計された「AI Native SaaS」である。

4つ目は、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)などを開発し、それをAPIを介して提供する「AIモデル企業」だ。

昨今は「AI搭載SaaS」から「AI Native SaaS」への移行が進んでいる。

  • SaaSプレイヤーの違い

    SaaSプレイヤーの違い

なぜ課金モデルが変わるのか?「ユーザー課金」から「AI使用量」へ

その際に重要なのは、課金モデルの変革だという。従来のSaaSやAI搭載SaaSは1ユーザー当たりの月額課金モデルで十分だったが、AI NativeなSaaSではAIエージェントが付加価値を発揮するため、エージェントの使用量に応じた課金体系が求められるとのことだ。

投資家が見る指標が変わった、人件費とAIコストの新しいバランス

洛西氏が「シリコンバレー滞在で最もショッキングだった」と話すのは、SaaS開発コストの内訳だ。複数の投資家が、人件費とAIトークンのコストの比率を気にしていたそうだ。

従来のSaaS開発費用は主に、サーバ費用と開発や運用の人件費で構成されていた。しかしAIを前提としたSaaS開発では、人件費をいかに抑えてAI利用に使っているのかが注目されているとのことだ。

「今後はSaaS開発をする企業やIT企業ではない、一般的な企業においても人件費とAI費用のバランスがAI活用の指標として比較されるだろう」と洛西氏は話していた。

  • AI利用を前提としたコストバランスが評価されるという

    AI利用を前提としたコストバランスが評価されるという

AI時代、SaaS企業の勝ち筋は「ソフトウェア」から「サービス」への転換

SaaSとは「Software as a Service」の頭文字を取ったものであるが、従来のSaaS企業は文字通りソフトウェアを提供して、ユーザーがそれを活用することで成果が生まれ、その対価をSaaS企業に支払うモデルで成り立っていた。

しかしAI Native SaaSの時代においては、AIエージェントが実務を行えるようになるため、サービス全体の成果に対して顧客が対価を支払うモデルへと移行する。

「ソフトウェア事業者はAIエージェント時代の中で、サービス事業者へと変化している」(洛西氏)

  • サービスの対価を支払うモデルへと変化するという

    サービスの対価を支払うモデルへと変化するという

表現を変えると、人が行う仕事の一部をソフトウェアが担っていたこれまでのモデルから、今後は人の仕事をサービス全体で置き換えるモデルへと変わる。そのため、高付加価値なサービスを提供できればTAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)の拡大につながる。

  • サービスの変化のイメージ

    サービスの変化のイメージ

「AIを活用して多くの人が簡単にソフトウェアを作れるようになっているので、SaaS企業の株価が下落する流れは繰り返されると考えている。しかしサービスとしてのインタフェースの需要がなくなるわけではないので、本質的な価値を提供できれば新興企業にも大きなチャンスはあると考えている」(洛西氏)