
日本企業の生産性向上が叫ばれて久しい中で、いまだ十分に可視化されていない経営課題があります。それが、女性特有の健康課題によって生じる「プレゼンティーズム」です。
プレゼンティーズムとは、出勤していても、体調不良などにより本来のパフォーマンスを発揮できていない状態を指します。生理痛やPMS(月経前症候群)はその代表例ですが、日本では長らく「個人の問題」「我慢すべきもの」として扱われてきました。しかしこれは、精神論で片づけられる話ではありません。経営の視点で見れば、明確な生産性ロスに直結する課題です。
実際、女性の約7~8割が生理に伴う不調を経験し、多くが「仕事のパフォーマンスが下がる」と感じています。それにもかかわらず、職場で気軽に相談できる環境や、適切な医療につながる導線が整っている企業はまだ少数派です。結果、集中力の低下や判断スピードの鈍化、欠勤・遅刻の増加、長期的な離職といった、企業にとって無視できない損失が生まれています。これらは一人ひとりの体調不良として表面化しますが、積み重なれば組織全体の生産性や競争力を静かに毀損していきます。
かつての日本企業では、「多少体調が悪くても出社する」「弱音を吐かずにやり切る」ことが美徳とされてきました。しかし、労働力人口が減少し、働き方の多様化が進む今、そうした組織運営は持続可能とは言えません。象徴的なのが、生理休暇の取得率です。労働基準法で定められている制度にもかかわらず、取得率は約0.9%にとどまっています。制度があっても、「取りづらさ」や「評価への影響を懸念する空気」によって、十分に機能していないのが実情です。
重要なのは、「休ませるかどうか」ではありません。不調を早期にケアし、通常のパフォーマンスに戻すための仕組みを、企業として持っているかどうかです。休暇という選択肢だけでは、不調そのものは解消されません。その結果、不調を抱えたまま働き続ける人が増え、見えにくい生産性ロスが組織の中に蓄積されていきます。今、企業に求められているのは、不調を個人の我慢や自己判断に委ねるのではなく、不調を前提にしない働き方へと転換することです。
この課題は女性社員だけの問題ではありません。女性社員のコンディションは、チーム全体の生産性や意思決定の質にも影響します。管理職や経営層にとっては、理由の見えにくい成果のばらつきや育成・配置の難しさとして現れ、最終的には企業価値に跳ね返ってきます。女性の健康課題への対応は、福利厚生やダイバーシティ施策の延長ではなく、人的資本を最大限に活かすための経営インフラと捉えるべきものです。
私たちは医療を「特別なもの」ではなく、「日常の意思決定を支える社会インフラ」にしたいと考えています。体調に違和感を覚えたとき、「無理をして働き続けるか」「仕事を止めるか」という二択に追い込まれるのではなく、その前に相談する選択肢を持てる状態をつくること。必要なタイミングで医療につながれれば、不調が深刻化する前にケアでき、従業員は本来のパフォーマンスに戻りやすくなります。
人的資本経営が注目される今、問われているのは制度の数ではありません。従業員一人ひとりが持つ力を、企業としてどこまで引き出し、支えられているかです。「我慢」を前提としないこと。不調を自己責任にしないこと。その積み重ねこそが、日本企業に求められる、生産性向上の本質だと私は考えています。