【 歌舞伎ルネサンス到来! 】自らの資源を掘り起こす─ 松竹の〝歌舞伎〟掘り起こし策

映画『国宝』ブーム 歌舞伎座への効果はいかに

 

「映画館に4回観に行きました」「美しい歌舞伎の世界に魅了されました」─映画『国宝』について、こうした声が多く聞こえてくる。 

 昨年6月に劇場公開してから、26年3月8日時点での興行収入は203.4億円にのぼり、邦画実写映画歴代1位の座についている。その人気は留まることなく、現在も映画館でロングラン上映となっており、海外でも2月から上映開始している。日本の400年続く伝統芸能である歌舞伎が題材となった本作。『国宝』ヒットにより、歌舞伎の魅力が国内外で見直され、実際歌舞伎座にも好影響となっているようだ。歌舞伎座を運営する松竹・副社長(演劇本部長)の山根成之氏は次のように語る。

「『国宝』に感化されて、歌舞伎座に足を運んでくれている人が増えている。この映画は若い人のSNS拡散により作品がヒットしたという印象があるが、歌舞伎座にいらっしゃるのは若い人だけではなく、どの年齢層もまんべんなく増えている状況」 

 『国宝』が公開された6月以降、歌舞伎座の7月から12月までの新規来場者数は、2.5万人ほど増加した。これは月換算で平均すると4000人のペースで増加していることになる。全観客数では50代~60代が最も分厚い層だ。 

「2013年に歌舞伎座タワーをオープンしたときの賑わい。ロビーも人が集まり観客席も満席。チケットが売り切れる興行も出てきている」と山根氏。 

 松竹は2025年で130周年を迎えた。記念企画として昨年3月から『仮名手本忠臣蔵』など歌舞伎の三大名作が上演され、ベテラン役者と若い役者の共演で人も集まり、人気もじわじわ上昇。そこに6月から『国宝』の公開がタイミングよく重なり追い風となったともいえる。 

 昨年大晦日には、『国宝』配給会社の東宝と組み、松竹・歌舞伎座での上映イベントも開催。応募が殺到し抽選販売となる盛況で、特別上映会の模様は全国の映画館でも生中継された。普段両社は映画業界でライバル関係にあり、共同主催のイベントは極めて異例。協業に関し、「ヒット作品を一緒に盛り上げられるのは映画界にとっても良いこと。歌舞伎をもっと知っていただける機会にもつながる。双方にとって非常に意義のあるイベントだった」(同) 

 また、『国宝』ブームは歌舞伎座公演だけでなく、同社が20年前から手掛ける、映画館での歌舞伎上映〝シネマ歌舞伎〟にも人を運んでいる。 

 例えば昨年11月に公開した『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』の来場者数は、前回上映時(2024年10月)と比較し110%増加した。 

 歌舞伎座でのチケット料金は通常約5千円~2万円だが、シネマ歌舞伎は大人2200円と手頃。音響も良く、カメラのズームアップで観客に観てもらいたい部分に焦点をあてることで、綺麗な衣裳もよくみえる利点もある。シネマ歌舞伎はライトに楽しみたい歌舞伎初心者の受け皿にもなっているのだろう。 

 400年続く日本の伝統芸能・歌舞伎。いま再び世間からの注目が集まっているのは、時代の変化速度が著しい中で、先祖がつないできた歴史・文化から、日本人としてのアイデンティティを見直す人々の無意識も働いているように感じる。

 

26年にはジブリ作品歌舞伎も

 

 現在映画業界では、東宝、東映に次ぐ位置の松竹。26年2月期の通期連結業績予想は売上高970億円、営業利益は55億円と前期比3.3倍の見通し。演劇事業は6年ぶりに黒字化を見込む。 

 松竹が持つ唯一無二の資産である歌舞伎。この独自IPをいかに資産として活用できるかが同社の成長の鍵にもなる。グッズはもちろん、文化継承のためには若年層へのアプローチ強化も課題の1つ。これまで人気漫画『ワンピース』などを、進化した歌舞伎で演じることで若年層を惹きつけてきた。 

 歌舞伎への敷居の高さは、古典理解の難しさの他に、鑑賞料金の高さも大きい点。歌舞伎の指定席料金は先述の通り席により幅があるが、学生が「試しに観てみよう」というにはややハードルが高い。 

 そこで昨年10月から、25歳以下を対象とした当日券の割引制度「歌舞伎座U25 当日半額チケット」を開始。当日の空席をネットで確認し、席が残っていれば窓口で購入ができる仕組み。「これを利用して来てくださる若い人も多い」と山根氏は手応えを語る。 

 また、昨年YOTUBEチャンネル「かぶチャン」も開設。ここでは歌舞伎の見方や見どころを、俳優自ら親しみやすく発信している。その他、せりふがわからない年齢の子どもが歌舞伎に触れられる親子での体験イベントも開催し、次世代ファンの掘り起こしを進行中。 

 これまで演劇畑が長く、現在演劇本部長としても指揮をとる山根氏は、今後の展望について次のように語る。 

「われわれの業界は経験則や勘がものを言う世界。しかし今後はそれを大事にしながらも、データや数字根拠による合理的な理論を構築していく。ベテランの人の知恵を可視化、平準化し、ビジネスを展開していくことが重要。芸の継承だけでなく、衣装、鬘、床山(歌舞伎の鬘の髪を結う職人)など、そういう人たちも含めて歌舞伎が未来永劫続けられるような仕組みを構築したい。歌舞伎の持つアナログの価値を大事にしていく」 

 26年夏にはジブリ作品『もののけ姫』のスーパー歌舞伎が上演予定だ。「伝承と革新のバランスをとって現代の歌舞伎にしていく」と同氏は意気込む。古典を大事にしながら、時代とともに変化・革新していく同社の挑戦は続く。