日本製鉄グループは、2026年3月17日から19日にかけて東京ビッグサイトで開催された「H2&FC EXPO 水素・燃料電池展」に出展し、水素社会の実現に向けた材料技術を紹介した。
ブースでは、高圧水素に対応したステンレス鋼「HRX19」や液体水素向けの「HYDLIQUID」といった水素インフラを支える技術が展示され、来場者の関心を集めていた。
高圧水素×溶接を両立する「HRX19」、水素ステーションで採用約60%
水素はクリーンエネルギーとして期待される一方、高圧での取り扱いや材料の耐久性など、インフラ整備には技術的なハードルがある。
今回の展示の目玉は、日鉄ステンレスが開発した高圧水素用ステンレス鋼「HRX19」だ。HRX19の特徴は、「強度が高い」「水素に強い」「漏れない」という3点がある。
まず強度は、従来材であるSUS316Lと比べて約1.5倍だ。この高強度により、設備のコンパクト化や軽量化を実現している。
同時に、強度が上がったことにより、配管の薄肉化も可能となった。パイプの内径を広く確保できることで、水素の流量を増やすことができ、充填時間の短縮にもつながる。特にバスやトラックといった大容量タンクを持つ商用車では、高圧かつ迅速な充填が求められるため、その性能が生かされている。
次に、水素特有の課題である「水素脆化(鋼材中に吸収された水素により鋼材の強度が低下する現象)」への耐性だ。水素は原子が非常に小さく、金属内部に侵入して材料を脆くする性質を持つが、HRX19はニッケルの成分設計を最適化することで、最高クラスの耐水素脆化特性を実現している。
さらに特筆すべきは、溶接が可能である点だ。HRX19は高圧水素用途で唯一溶接が可能な材料とされており、溶接継手も母材と同等の強度と耐水素脆化性を維持できる。これにより、従来のネジ式接合と比べて配管の一体化が可能となり、水素漏れリスクの低減や、ネジの緩みの点検・締め直しといったメンテナンス負荷の軽減につながる。
こうした性能によるメリットから、水素ステーションのさまざまな部分にHRX19が採用されており、全国の水素ステーションでの採用実績はおよそ60%に上る(移動式水素ステーションを除く)。
極低温(−253℃)に耐える液体水素材料「HYDLIQUID」
会場では、液体水素向け材料「HYDLIQUID」も展示された。
水素は気体のままでは体積が大きく輸送効率が低いため、輸送時には極低温(約マイナス253度)で液化して運ばれる。こうしたプロセスでは、極低温環境における材料特性が重要となる。HYDLIQUIDは、バナジウムやニオブ、窒素の成分を最適化することで、低温環境下でも高い靭性を確保している。また、HYDLIQUIDもHRX19と同様、溶接加工が可能である。
HRX19が高圧の気体水素を扱う領域を担うのに対し、HYDLIQUIDは液体水素を扱う領域を支える材料であり、水素インフラにおいてそれぞれ異なる工程で使用される。
水素配管の信頼性を支える溶接技術
HRX19の性能を最大限に生かすためには、材料だけでなく施工技術も重要となる。ブースでは、今回共同出展を行った高田工業所による溶接技術も紹介されていた。
同社では、水素ステーションの高圧水素環境下で使用する溶接継手の安全性・信頼性の向上を図ることができる溶接施工法を確立している。溶接時には内圧コントロール工法により溶接部内面の平滑化が図られ、また溶接スケールの付着しない酸化フリーの品質も実現している。溶接部は母材と同等の強度と耐水素脆化特性を維持するだけでなく、評価試験では180度近く曲げても割れが生じないことが確認されている。
水素は燃焼時にCO₂を排出しないクリーンエネルギーとして期待される一方、供給体制はまだ発展途上にある。一般車には利用可能な水素ステーションの数が限られているといった課題がある一方、バスやタクシーなど拠点を持つ分野では、水素の利用が徐々に進んでいるという。
今回の展示では、水素を「作る・運ぶ・貯める・使う」という一連のプロセスの中で、日本製鉄グループの材料技術がどのように関与しているかが示された。




