
「日本は人口減でGDPは下がる一方ですが、誰かと一緒に何かをやって生み出せる価値を増やしていければ、まだ日本は戦える」─。こう話すのはアトミカ社長の嶋田瑞生氏。全国に約60拠点のコワーキングスペースをつくり、人と人、企業を結び、共創の発信地になる場所をつくっている。繋がりが薄れる社会の中で、コミュニティマネージャーの育成・普及に努めているという嶋田氏である。
大学生のときの起業経験が今の事業のベースに
─ 嶋田さんが起業した理由と、アトミカという社名の由来を聞かせてくれませんか。
嶋田 まず社名のアトミカは原子(アトム)・分子から来ています。原子電子の1個「が」別の原子とぶつかるとまた別の分子になる。これは「誰かと出会い、新しい可能性が生まれるという」人間の一生の営みと同じだと思ってつけました。
Atomについてはそういう思いがあって、micaの部分については半分語感です(笑)。
われわれは、まさに人と人をつなぐ、結ぶということで地域のコワーキングスペースや共創施設を運営しています。この名の通り、人と人、企業と企業をつなぎマッチングさせ、新たなものを生み出すということを主な軸に事業を行っています。
─ 違うもの同士が遭遇することで別のものが生まれるという発想ですね。
嶋田 ええ。実は大学時代の3年間で1度起業していまして、卒業する時にたたんだのですが、その事業を始める時に先輩経営者にすごくかわいがってもらったというのが原体験です。ここでわたしが直接経験した「お節介」が、非常に重要なベースになっています。
例えば「いいから黙ってこれをやって」とか「飲みに行くからついてこい」といった声かけなのですが、もしそういう声かけがなかったら、自分からは絶対に踏み出せないようなことが世の中にたくさんあります。
わたし自身もともと引っ込み思案で、いろいろな先輩にこの「お節介」を存分にいただきまして、これがなければ恐らくこの人と出会わなかったし、成し得なかったということがたくさんあるんです。
その原体験があって、もっと社会に「頼り頼られる関係性」をつくっていくということをやろうと思いました。
─ 人と人との関係は非常に大事ですね。
嶋田 そうですね。わたしの場合は将来起業するという気持ちが最初からあった訳ではありませんでした。大学を卒業して2年間エンジニアをやって、転職活動をしてみようかなと思ったんです。
その時に出会った経営者の先輩方から、嶋田君は人に対する興味関心の度合いが飛びぬけているから、自分で起業した方がいいと思うよ、という言葉をいただいて背中を押してもらいました。
大学生のときに、もう1つやっていたビジネスで靴磨き団体というものもやっていました。どうやったら大学生が大人ともっと触れ合えるんだろうというテーマを考えた時に靴磨き団体に到着したんです。
これはどういうサービスかというと、居酒屋さんなどで飲んでいる時に、靴箱に大学生が千円で靴磨きますと貼り紙をしておいて、注文していただくと大学生が現れて、飲んでいる間に靴を磨くというものでした。
─ その人の靴を磨きながら交流もするんですか。
嶋田 そうです。学生さんが靴を磨きながら、お酒を飲んでいる大人たちのキャリアの話を聞くと。大人も飲みながら若造に自分の話をしているうちにだんだん良い気持ちになってくれるんですね。
乗ってくるとそのお客さんが一緒に飲んでいけと言ってくださったり、お店側もリピーターにつながるという三方よしの話になると。
ピーク時60人の学生団体にまで広がって、仙台市長からも学生起業家ということで表彰してもらったこともありました。
この経験があって、どこかでこの人と人がつながり、結ばれる仕組みづくりを、もう一回チャレンジしたいという気持ちがあったんですね。それが今のアトミカにつながっています。
オフィスはいろいろな人たちの出入りがあって、一緒に仕事をしていく中で共創体験が必要です。それで、コワーキングスペースという領域で立ち上げたという経緯です。
コミュニティマネージャーという視線が重要
─ 起業当時はコワーキングという概念は既にあったんですか。
嶋田 はい。出始めていましたが、まだやり始めたのは不動産業者だけでした。われわれはいま約60の拠点がある中で、自分たちで床を借りているのは宮崎と北九州の2つしかありません。
他は全て他社さんの持っている不動産に、場とコミュニティの企画運営者というかたちで入らせてもらっています。
テクノロジーとコミュニティマネージャーの価値向上モデルでこれまでコミュニティづくりに一点特化した事業者というのも実はいるようでいませんでした。このコミュニティマネージャーというのがわれわれの特徴です。
─ コロナ禍にはオフィスの意義が見直されましたね。
嶋田 そうですね。コロナのタイミングが1つの時代の転換期でした。人と人が出会うとか、誰かと一緒に考えるという環境はやはり必要だと。
それで、シェアオフィスではなく共に創るコワーキングスペースをやろうというのが最初の議論だったんです。共創環境をつくり出会いをつくる、そしてコミュニティマネージャーという概念に変わっていきました。
現在、例えば創業支援施設で共創支援を行ったり、大学や銀行の中に共創空間やコワーキングを作っています。最近では企業のオフィスの中の交流づくりもして欲しいという声もいただいています。
─ 新たな依頼もあると。
嶋田 ええ。実際60拠点のうち、いわゆるコワーキングスペースは半分もなく、先ほど出した例のような新しい依頼が多いですね。
コミュニティマネージャーが、企業、自治体、老人介護福祉施設、小学校、美術館、スポーツクラブなどに行ったらどうなるかというアイディアも出てきています。
現在コミュマネ・インオフィスとか、コミュマネ・インコワーキングという名でサービスを展開していますが、今後は横展開で増やしていきたいと考えています。
─ このニーズは企業側も行政側もありますか。
嶋田 非常に高いニーズを感じます。三井不動産さんに当社のご出資をいただいているのもそういうことの取り組みで、これはまちづくりでもあります。
─ 株主はどういったところがあるんですか。
嶋田 主なところでは三井不動産のほか、大阪ガス、KDDI、イオンモールからもご出資いただいています。宮崎銀行や宮崎太陽銀行からも出資を受けています。
KDDIさんは本社が最近高輪に移転したのですが、そこの受付フロアに当社のコミュニティマネージャーが常駐している共創スペース「TSUNAGU BASE」というのがあります。
JR東日本さんとも、高輪ゲートウェイの駅が開発された中で、「LiSH」という広域スタートアップエコシステムの取り組みを注力してやっています。まちをつくるという構想で、建設中のビル4棟の中に、このようなインキュベーション施設3つをつくっています。
─ このつなぐ意義はどこにありますか。
嶋田 特に大企業はアセットやネットワークをたくさん有していますが、それをもっと他のものと結んでいくみたいな動きは、あるようでない機能だとご相談いただくことが多いです。つまりハードは持っていても、ソフトウェア機能がなかなかないと。それで当社に依頼いただいています。
─ 競合他社はどこになるのでしょうか。
嶋田 そのご質問はよく投資家からもいただきますが、類似事業を行う企業があまりいないんです。われわれはご覧のとおり不動産を持ってないので、不動産事業者ではなくて、デロイトトーマツさんのようなアクセラレーションプログラムをやっている企業でもありません。
各地域でご当地の顔役の方が町のハブとしてコワーキング場所として成立しているということはありますが、それと同じものを他の町でもやって欲しいという話をされても対応はできないのではないかと。
当社は年商13億円、正社員が約160人の規模ですが、全国各地で場とコミュニティづくりができるという企業は大きいところはあまりないように思います。
地方創生ではなく ‶地域活性〟
─ コワーキングスペースというのは地方創生の鍵になりますが、地方創生についての考えを聞かせてくれませんか。
嶋田 われわれはあまり地方創生というワードを意識していません。私が実際感じていることでもありますが、仙台は都会なのか田舎なのか、実際そこにいると分からないんです。
なぜ私たちが地方創生というワードを直接考えないかというと、地方の対極にある都心、例えば東京も一地域だと思っているんですね。わたしどもが話をしている中で、実は「地方」というワードを一回も使っていないのは、どうしてもあっち側という感じで距離を感じてしまうと思っているからなんです。
ですから地方創生ではなく、地域活性といった方が、われわれの考えと近いと思っています。
─ 活性の方がその地域を尊重しているような感じがしますかね。
嶋田 そう思って使っています。では地域活性とは何かを考えたときに、活性化をどう測るのかということが出てくると思います。GDPなどいろいろあると思いますが、わたしは個人にフォーカスしています。
わたし個人の話ですが、明日が楽しみだなと思って眠れる状態というのは人間としてすごく幸せな状態だなと思っています。
例えば、あした『財界』の取材だな、早めに寝ておこう。そのちょっと早めに寝ておこうと布団に入ることがものすごく幸せなことだと思っているんです。これは「頼り頼られる関係性」という当社が大事にしている考え方にも関係するのです。
もしこのことで地域活性を測れるのだとしたら、夜寝る前に、明日楽しみかというものをその地域の一人一人に調査をしていって、楽しみという回答が多い町が活性化している町だといっているんですね。
─ 個人が幸福であれば、その集合体の町も幸せだと。
嶋田 その通りです。活性化という指標は、極力その中にいる個々人が幸せかどうかだと思っています。わたしは地域という概念というよりも、中にいる個々人たちに興味があって、この個々人たちの幸せの尺度は、明日楽しみかといって寝られるかどうかという話なんです。
─ これまでやってきて嬉しかったことは何ですか。
嶋田 昨年、内閣府から表彰を受けたのは嬉しかったです。社内のコミュニティマネージャーが追いかけている指標で、WISH(願い)とKNOT(出会い)という言葉があるのですが、いろいろな方々をマッチングしていこうと思った時に、人と人が気持ちよく出会うためには、大義名分や背景、ストーリーが必要だと思うんですね。
このWISHをコミュニティマネージャーがどれだけ言語化できたかというのが、われわれの介在価値という捉え方をしています。
例えば今、日本中で知り合い6人をたどっていけば、世界中、誰とでもつながるという論理がありますよね。SNSの力で、最近4人くらいになっているようですが、われわれの理論でいうと、アトミカに相談してもらえば、極論、高市早苗総理大臣とつなげない話はないと思っています。
われわれのやっている事業で、地域でどんどんいろいろな方と接触をしていった時に、数珠つなぎで絶対に最適な人とつなぐことができると思うのです。
要は頼れる人が増えればいいという話です。ですからKNOTの数ではなく、WISHをどれだけ言語化できたかの方が、当社としては思いが強いです。
─ 基本的には、つなぐということが重要だと。
嶋田 ええ。国と国、人と人、企業と企業をつなぐ。もっといえば、つなぐではまだ弱くて、結ぶという言い方をすることもあります。
当社のもう一人、南原一輝という共同代表取締役がいますが、彼とは大学3年生の就活時代に出会っているんです。東京の会社のインターンシップで仲良くなって、その後、お互い社会人になってからゆるくつながっている状態の中で、一緒に事業をやらないかということで、こうやって共同で事業をやっている。
これこそ人とのつながりが、結びになった良い例だと思います。
日本は人口減でGDPは下がる一方ですが、誰かと一緒に何かをやって、生み出せる価値を増やしていければ、わたしはまだ日本は戦えると。そこにわれわれがテーマにしている〝共創〟は必須駒だと思っています。