ワコールがシニア層に向けた新たなマーケティングに挑戦!

ジムに旅行に趣味に忙しい 令和の新シニアは活動的

 アクティブシニアに対してどうマーケティングをしていくか─。少子高齢化が進む日本では、人数が多く経済的にも余裕があるシニア層に向けたマーケティングが共通課題でもある。婦人下着大手のワコールが今、シニア層に向けて改めてマーケティングを見直している。

「われわれの想像以上に令和のシニアはアクティブだった」─。こう話すのはワコールブランドシニア事業開発課課長・シニア市場戦略ディレクターの石浦亜矢氏。

 2025年にワコールがさまざまな調査方法で複数回の調査を行った結果、見えてきた令和のシニア像のキーワードは〝おでかけ〟だった。

 令和のシニア層は旅行に行く人が多く、特に女性は毎日家にずっといるわけではなく、ジムや半日観光、趣味などに忙しく、想像以上に〝おでかけ〟をしていることがわかった。

「昔のように、シニア=隠居ではない。仕事や子育てなどがひと段落した60歳以降は、外出に前向きな価値観がある」と石浦氏。

 一方、シニア層に対する同社の商品を改めて見渡すと、「ワコール」「ウィング」にそれぞれ商品がある状態で、消費者は自分に合う商品を見つけづらかった。しかも、シニア向け商品というのはデザインが地味な商品が多く、購入時や着用時に気分が上がるというものは少ない。

 シニア特有の悩みにこたえた機能つきの商品開発を丁寧にしてきた同社だが、商品が散在していたために届けるべきお客様に届ききれていないということが課題としてあがっていた。

 そこで、同社は令和のシニア層向けに改めてマーケティングを行う新プロジェクト「アクティーバ」を開始。「Active(元気)」と「Diva(主役)」という言葉からつくった造語で、人生を謳歌するアクティブシニアの活動を手助けする商品提案を行うプロジェクトである。

 同社の調査では、令和のシニア層はアクティブにお出かけを楽しんでいるという実態とともに、一方で寂しさや、シニア特有の困りごとを抱えていたということも判明。特に人には言えない体の変化はデリケートな問題ゆえ共有ができず、一人で悩んでいることも多いとわかった。

 活動的なシニアのおでかけ時の悩みでトップにあがってくるのは、尿トラブル(47.1%※)と足腰トラブル(52.8%)であった(2025年ワコール社調べ)。「おでかけ時にトイレが間に合うか」、「屋外で転ばないか」という2点を、2人に1人は心配事として感じているという。 ※1年以内に尿もれ経験のある1400名(55〜78歳)

 そこで同社はこうした悩みに寄り添う既存商品を、改めてピックアップしてリニューアルをしている。

 例えば、尿もれの悩みに寄り添う「おでかけ楽パンツ」は、300㎖までの市販の吸水パッドを内側のあて布に装着し着用することが可能で、水分を含んでもずれにくい設計の商品。バスツアーなど長時間トイレに行けないときにも心の安心につながるアイテムだ。外出時の転倒の不安に対しては、脚の動きをサポートするために、股関節を支える機能付きの「綿メッシュガードル」を提案している。

パッケージもポジティブな気分になれるデザインを採用

あえてのアナログ戦略

「新商品はつくっていない。なぜならワコールには20年以上のロングセラー商品が多数ある。良い商品なのに埋もれてしまい、お客様が自分の商品を見つけられていない。そのため同プロジェクトでは、厳選したアイテムの価値を必要としているお客様にどうすれば届けられるかを試行錯誤している」と石浦氏。

 そこでまずは商品パッケージにテコ入れをした。地味なデザインパッケージのものから、購入時にテンションが上がるデザインに変更した。商品の中身はそのままだが、パッケージが違うだけで、顧客の反応は「これなら人にもプレゼントとしてあげたい」というポジティブな反応に変わった。

 また、情報発信の一環で、「アクティーバ」というカタログマガジンを同社で創刊。デジタルマーケティングの時代にあえてのアナログ戦略である。

 同社が行ったシニアの実態調査の結果と商品提案をまとめた薄いカタログ冊子を、昨年10月にワコールの会員3万人にダイレクトメールで送付。店頭でも配布した。当初DMの反応率は12%を目標としていたが、結果的に百貨店だけでも46%を達成し、非常に好調といえる。

 だがこの結果に対し、石浦氏は反省の念を込める。

「これまで商品企画の仕事をずっとしてきたが、物が良いだけではお客様には届かないということを実感した。デリケートなお客様の深層心理まで理解し、商品パッケージや届け方を考慮する必要があることを改めて学んだ。若々しくアクティブに活躍されているお客様とリアルに交流して、企画サイドのシニアの既成概念が変わった」

 日本は職人気質でモノづくりは得意だが、ブランディングやマーケティングは不得意だとよく言われる。商品は良いのにお客様へ届き切れていない─。こういった共通課題が今、日本中に溢れているように思う。

 また人口の4割を占める高齢者に向けた商品をどう掘り起こすかは人口減の中で各企業の共通課題でもある。  良い商品は十分ある。アプローチ方法を変えることで既存商品の価値の掘り起こしは十分に可能だと気付かされるワコールの取り組みである。