エンタメ界で「推し活」と「ポイ活」が同時に実現 東宝の〝新ポイント経済圏〟

新たなポイント経済圏が誕生

 いま日本では「推し活」と「ポイ活」に励む人が多い。「推し活」とは自分が好きなアーティストや俳優、アニメや漫画のキャラクターのグッズ、公演、ライブなどに、自分の「推す」ものに時間もお金も投資する活動。

 また、長らく続く物価高、実質賃金マイナスという状況下、買い物などでポイントを貯めて賢く利用する活動「ポイ活」は今や生活の一部に溶け込んでいる。

 昨年6月に行われたGMOメディアの調査(10代から60代の男女 5468名)によれば、「ポイ活」を意識している人は約9割。うち、8割の人が毎日利用していることがわかった。企業は人々の消費が活発に行われる〝ポイント経済圏〟にいかに入り込むかが、商売の鍵にもなっている。

 そんな中、エンターテインメント企業の東宝が新ポイントサービス「TOHO︱ONEⓇ」を3月から開始する。エンタメ業界は、周知のとおり冒頭の「推し活」最前線の場。

 本サービスは、東宝の展開する映画、演劇、商業施設(日比谷シャンテ)、オンラインストアなどの利用で共通のポイントが貯まる、東宝エンタメに特化した新たな経済圏ができる。

 コロナ禍以降、映画館は映画観賞だけではなく、歌手などのアーティスト、スポーツ観戦、イベントのライブビューイングの新たな場として急速に普及した。それゆえ今回のポイントサービスは映画好きの人たちだけに留まらない。全国の東宝のサービスを利用しているライトユーザーから、ヘビーユーザーまでポイントが貯められる仕組み。

 東宝の強みは映画事業だけでなく、演劇事業や、ショッピングなどの複数の事業があること。特に「推し活」に励む人は、同時に「ポイ活」もでき、貯まったポイントを活用してさらに「推し活」を充実させることができるようになるのだ。

東宝の抱えていた課題

 同社は、映画館、演劇、商業施設、EC販売他の、各事業で会員サービスを有しており、バラバラに顧客管理を行っていた。そのためデータが分断されており、顧客分析ができないことが大きな課題でもあった。

 今回それらを1つに統合し、会員の利便性とメリットを高め、デジタルで顧客データを一括管理できるようにする。

「顧客目線で考えた時に、同じ東宝のサービスを受けるのに、それぞれ会員登録しなければいけなかった。同時にわれわれとしても正確な顧客データが貯まっておらず顧客像が見えてこないのが課題であった。例えばIP(知的財産)軸で『SPY×FAMILY』の顧客を捉えようとした時に、アニメ、映画、演劇、グッズ、それぞれの部門で切り取った情報でしか見ることができなかった」

 こう語るのは、TOHO Digital Lab.所長兼デジタルビジネス推進室長の平松義斗氏。

 今回のサービス開始により、顧客は複数登録の煩雑さから解放されることと、ポイントを貯めて活用できることが最大のメリットとなる。一方、東宝側はこれまでバラバラであった顧客データを一元管理し、今後の新規事業に役立てる。

 ポイントサービスの会員グレードは、無料会員(ライト)と有料会員(スタンダート、プレミアム)の計3つ。無料会員でもアプリ登録し、QRコードをかざせばポイントが貯まる仕組みであり、楽天ポイントやdポイントと同様に消費者の参入敷居は低い。ポイントは、東宝サービス内の劇場や店舗で100ポイント単位、オンラインサービスでは1ポイント1円で利用できる。

 有料会員は年間500円のスタンダード会員と、3000円のプレミアム会員。無料と比べて有料プランはポイント付与率が高く利用時の還元率も高い。会費は月換算で考えるとスタンダードが月41.7円、プレミアムが月250円という価格設定で、年会費を払っても顧客のメリットが高くなる設計となっている。

 有料プランは従来のTOHOシネマズのシネマイレージサービスを踏襲し、6回分相当の映画観賞(基本料金)で1回分の映画鑑賞券と交換できるポイントが貯まる。スタンダードとプレミアムの違いは、ポップコーン1回無料、演劇プログラム1冊引換(※プラン継続時、通常2000円程度)、演劇の先行抽選・先行先着販売・貸切公演など、さまざまなプラスサービスが用意されている。

 これまで劇場での飲食やグッズ購入にはポイント付与はなかった。つまり、今回の新サービスは、1回のチケット代が高い演劇をよく見る人や、映画館に行ったときにドリンクやポップコーンを食べる人、パンフレットなどの作品グッズをよく購入する人にとっては、貯まったポイントを活用することで新たな割引を得られることと同様の意味を持つといえる。

「各事業のお客様が得になるように、全体最適を意識してサービス設計をした。事前調査もしたが、例えば演劇に行く人の8割は映画に行く。年会費を払っても演劇に1回行くことで映画観賞券1回分のポイントがつく。各会員を統合することで、東宝サービス内で新たなお客様の行き来も期待している。ポイントを活用し、さらに東宝のファンになってもらいたい」(同)

 ファンが多ければ多いほどIPの価値も高まる。同社は創業100周年の2032年までに、本サービスの会員数1000万人規模を目指す。

 今回の東宝の新サービスは「推し活」をさらに後押しすることになる。顧客のエンゲージメントをIP軸で高めようという同社の取り組み。東宝が進めるデジタル戦略は、基幹産業として位置づけられたエンタメ業界の、新たなビジネス創出の土台となるものである。