
自民党総裁で首相の高市早苗が賭けに出た衆院解散・総選挙は自民党が歴史的圧勝を収めた。衆院定数(465)の3分の2の310議席を超す316議席を獲得。政権基盤を強固にした第2次高市内閣では衆院選で掲げた公約の実行に取り組む。「高市1強」と呼ばれる巨大与党にスキはないのか。激動の国際情勢の中で、日本のかじ取りを担う高市の覚悟と手腕が問われるのはこれからだ。
笑顔なき圧勝
「重要な政策転換についての訴えが国民の皆様から理解、信任をいただけたものだと受け止めている。おごることなく、謙虚に受け止め、党一丸となって公約に掲げた政策を力強く推進していく」─。高市は衆院選から一夜明けた2月9日、自民党本部で記者会見し、圧勝した勝因についてそう語った。
そして「重要な政策転換」として挙げたのが、責任ある積極財政への転換や国家安全保障戦略など安保3文書の前倒し改定、そして国家情報局の創設といった政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化などだった。
そのほかにも、予算編成の単年度主義からの決別などにも言及。「政策転換を何としてもやり抜けという力強い形で背中を押していただいた。党一丸となって、歯を食いしばって、国民の皆様とのお約束を実現していく。私はその先頭に立ち、やり抜いていく」と訴えた。
株式市場も自民党圧勝を好感した。高市が積極財政路線を推し進め、様々なリスクを最小化する「危機管理投資」や先端技術を花開かせる「成長投資」の動きが加速するとの見方が広がり、2月9日は日経平均株価が一時3000円以上も急上昇し、終値は5万6363円と史上最高値を更新。10日も続伸して終値が5万7650円となり、連日の最高値更新となった。
期待が膨らみ、高揚感も漂うが、9日の記者会見では高市に笑顔はなく、緊張感を漂わせていた。「重い重い責任の始まりで、身の引き締まる思いだ」。自身が訴えてきた「重要な政策転換」が進まなければ、期待は失望に変わり、一気に失速しかねないからだ。
そもそも高市が賭けに出た衆院解散・総選挙は周到に戦略が練られていたとされる。まず、争点を封じたことだ。その争点のひとつが消費税減税だ。《飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します》。高市は自民党の衆院選公約に「悲願だった」という消費税減税を盛り込ませた。
国民にとって税金は安いにこしたことはない。物価高が家計を直撃しているから、なおさらだ。中道改革連合は「食料品消費税ゼロ」と公約で掲げ、国民民主党などは消費税全体を一定期間5%に引き下げると宣言している。消費税減税に慎重だった自民党が減税を打ち出したことで野党との対立軸はなくなった。
争点封じて結果
もっとも、食料品の消費税率をゼロにした場合、年間で約5兆円の税収が失われるとされる。一律5%に引き下げれば、約15兆円の税収減になる。消費税は年金、医療、介護など社会保障の財源に充てることになっており、当然、社会保障サービスを維持するための財源確保が欠かせない。
高市は当初、財源を巡り「2年間の限定であれば特例公債(赤字国債)に頼らなくても確保できる」と主張していたが、選挙戦が始まると「今後、設置される『国民会議』で検討を加速する」との説明にとどめた。
新たな国民負担につながりかねない財源論には野党も踏み込まず、「政府保有資産の運用益を充てる」(中道改革連合)、「ありとあらゆる財源を使う」(国民民主党)などと具体性に欠ける対策を示した。選挙期間中も財源を巡る議論は深まらなかった。
もうひとつの争点封じは外国人政策だ。国内の在留外国人は2025年6月末時点で約396万人となり、日本の総人口の3%を占める。外国人労働者数も約257万人(25年10月末)で、過去最多を記録。25年の訪日外国人旅行者数は約4268万人となり、初めて4000万人を突破した。
各地で外国人との摩擦も起き、国民の中に漠然とした不安が広がりつつある。先の参院選では「日本人ファースト」を掲げ、不法滞在の取り締まり強化などを訴えた参政党が躍進した。自民党支持層の一部が参政党支持に流れたとされ、自民党にとって今回の衆院選でも、その流れが止まらなければダメージは大きかったはずだ。
そのため、衆院選公示を目前に控えた1月23日、政府は外国人政策を検討する関係閣僚会議で、今後の基本方針を決定した。土地取得規制のルールを設け、在留管理を厳格化することなどで、国民と外国人が「共に繁栄する社会」を目指すとした。外国人が日本語や社会慣習を学ぶプログラムや、就学前の子供たちに日本語学習の機会を設ける共生策も盛り込んだ。
参政党は衆院選で労働力不足に関して「安易に外国人に委ねるべきではない」などと外国人政策の見直しを訴えた。日本保守党なども「移民」問題の是正を主張した。だが、政府・与党が外国人政策を打ち出していることから、大きな争点にはならなかった。
そうして争点を封じた高市は「高市早苗が首相でよいのかどうかを主権者たる国民の皆様に決めていただく」として日本のリーダー選びの選挙戦に持ち込んだ。野党の関係者は「首相のポジティブワードは相当練られていた。前向きなワードを繰り出す女性リーダーだと国民は受け止めたはずだ」と振り返った。
カギを握る国民会議
そうして圧勝した高市は、封印した重要政策の具体化を急ぐことになる。
2年間に限った食料品消費税ゼロは26年度中の実現を目指して関連法案を今秋の臨時国会にも提出する構えだ。ただ、衆院選公約で消費税減税を掲げなかったチームみらいが11議席を獲得したことは、財源があいまいなまま減税して大丈夫なのかという国民の「受け皿」になったといえる。
自民党内にも反対論は根強くあり、今後、財政規律を重視する財務省とともに巻き返してくる可能性がある。
そうした中で、カギを握るのが、政府や与野党、有識者で構成する「国民会議」だ。近く設置され、5兆円規模になる消費税減税の財源論などを協議する。
これまで高市は財源について「特例公債(赤字国債)発行に頼ることはしない」と明言し、「補助金や租税特別措置の見直し、税外収入などにより財源を確保した上で、できるだけ早く実現できるように知恵を絞る」としてきた。
また、国民会議では実現に向け、レジ設定の変更や会計システムの改修といった事業者負担の在り方や、店内飲食は10%のままとなることから外食業界への影響といったことも検討される。
さらに、高市は「〝本丸〟は給付付き税額控除。食料品消費税率ゼロから給付付き税額控除への移行を見据え、検討を進める」と語っており、中低所得者の負担軽減や格差是正に向けた給付付き税額控除の議論も行われる。
国民会議でそうした課題をクリアさせ、実行に移すことができなければ、財政規律に対する信頼が失墜し、さらなる金利や物価の高騰を招きかねない。議論を主導する高市のリーダーシップが問われることになる。
消費税減税や外国人政策だけではない。高市は「国論を二分するような大胆な政策や改革に果敢に挑戦していくために国民の信任が必要だ」と訴え、26年度予算の年度内成立を先送りしてまで世論の後押しを得ようとした政策の実現にも意欲を見せる。
日本維新の会との連立合意文書に明記したインテリジェンス機能強化のための国家情報局の創設や、スパイ防止法制定、安保3文書の前倒し改定などだ。自衛隊の明記といった憲法改正に向けた議論も加速させる構えだ。
高市は「決して右傾化などではなく、普通の国になるだけだ」とするが、共産党委員長の田村智子は「戦いはここからだと思っている。決して国民は高市首相に白紙委任状を渡したわけではない」と対決姿勢を鮮明にしている。
それだけに、国民の理解を広げるためには丁寧な議論の積み重ねと、それを国民に伝える発信が欠かせない。自民党幹事長の鈴木俊一は「謙虚な姿勢で臨んでいきたい。野党の方々の意見にも、しっかり耳を傾けてやっていく。決して数を頼みに強引に物事を前に進めようという姿勢はとらない」と語る。
また、自民党内には「ここまで自民党が勝つとは想像しなかった。『高市1強』体制ができあがったが、党内にはいろいろな意見を持つ人がいる。いかに結束できるかが大切」(若手)という声もあり、政策実現に向けて巨大与党をどう束ねていく手腕も問われることになる。
若者へのメッセージ
いずれにせよ、「政権選択」選挙で圧勝した高市。「日本列島を強く、豊かに」をスローガンに掲げ、「大きな政策転換を進める道を一緒に進んでいこう」と訴える姿が、閉塞感を打ち破れる、何かが変わるという期待と共に若者たちの共感を得たといえる。
高市は2月9日の記者会見で「未来は与えられるものではない。私たち一人ひとりが絶えず挑戦を続けることで、つくり上げていくものだ。これからも高市政権の未来への挑戦に対して、ご支援とご理解をお願いする」と強調し、こう訴えた。
「22世紀の日本が安全で豊かであるように。インド太平洋の輝く灯台となって、自由と民主主義の国として仰ぎ見られる、頼りにされる日本であるように。若者たちがこの国に生まれたことに誇りを感じ、未来は明るいと自信を持って言える、そうした日本を作り上げ、未来の世代へと引き渡していく」
この日の記者会見では「未来」という言葉を8回も繰り返しており、若者たちへのメッセージでもあった。若者の期待を裏切らないためにも、情熱と覚悟をもって日本のかじ取りを行うことが不可欠となる。(敬称略)