愛媛県今治市に本社を置く檜垣造船は、貨物船やタンカー、LNG船(液化天然ガス運搬船)などの設計開発から建造、修理を手掛けている。以前の同社では、顧客との打ち合わせの記録を紙で回覧しており、10人の承認を得るために1~2週間を要するような状況だったという。
そんな同社だが、kintoneを導入して社内のデータを集約する仕組みを構築したことで、業務の効率化が進んでいるそうだ。同社が造船の現場で挑戦したkintone活用と、AIを積極的に活用したいという今後の展望について取材した。
「紙と鉛筆」主義な造船の現場をkintoneでIT化
船の設計や建造を手掛ける檜垣造船では、紙と鉛筆を用い業務が進められており、PCも全社員には支給されておらず、一部の人だけが使えるような状況だった。船の設計図面は以前から紙が中心となっていたため、わざわざ業務プロセスを変更する動機がなかったという。
しかし2018年に現社長の檜垣宏彰氏が就任すると、転機が訪れた。社長に就任した檜垣氏がIT化とDX(デジタルトランスフォーメーション)を打ち出すメッセージを社内に発信したことから、kintone導入の機運が高まったそうだ。
まずは少人数からアカウントを付与してkintoneを使用開始し、少しずつ社内での利用実績を蓄積。社内説明会の開催やマニュアルの配布などを通じて、現場での理解を促した。これと並行して、全社員へのPC支給や無線LANの構築など、IT環境も整備した。
その結果、徐々にデジタル化による業務効率化の効果が現場に浸透し、理解者も増えた。これを契機に複数の部門が関係する業務のアプリ化を進めたことで、社内でkintone活用が加速している。
「IT管理者」を育成し社内でのkintone活用を加速
経営管理部 総務課でkintoneの運用を担当する髙橋翔氏は、「現在では、自分が目にするほとんどの業務にkintoneが使われている」と語る。
例えば、造船に必要な一連の案件の進捗をkintoneで管理しており、対応が必要な品質異常などが見つかった際のコード発番をkintone上で実行している。このコードには対応する部署や発生する金額などがひも付けられ、対応状況が可視化される。
これにより、「どの船で、どのような品質異常が、どれだけ見つかったか」をすぐに集計できるようになった。
その他にも、トヨクモが提供するkintone連携サービス「PrintCreator」を活用して、見積書や発注書などの書類作成を効率化しているという。
同社では現在、4人のメンバーが中心となりkintoneの運用を進めている。社内向けの講習会に参加した人にのみ「IT管理者」としてアプリ作成の権限を付与することで、現場でのアプリ作成を促進する。
以前はシステム管理者がすべてのアプリ作成の要望に対応していたが、これを各現場の人材に分散した。この取り組みも奏功し、以前と比較してアプリ活用が進んだという。
髙橋氏は社員からの要望に対応し、業務アプリの作成やフォーム編集、レコードの編集・削除、CSVファイルを用いたデータの一括登録などを担当。社内からの依頼が多く寄せられる同氏は、対応が難しい要望が出た際に、サイボウズの担当者と共に解決している。
その一例が、「プルダウンの表示順」に関する問題。アプリ内のフィルターで条件を絞り込む際に、プルダウンに選択肢が大量に表示され、目的の項目を見つけにくいケースがあったという。そのため、「よく使う選択肢はプルダウンの上の方に設定してほしい」という希望が挙げられた。
しかし現在の仕様ではプルダウンの順番を変更できないため、「頻繁に使用する選択肢は最初から選択する条件に設定しておく」という工夫により、現場の要望を叶えた。
「kintoneのサポート担当の方が、これはできる、これはできない、とはっきり教えてくれるので助かっている」と髙橋氏。
また、「現場でkintoneアプリにデータを入力する担当者は、必ずしもITやデータ分析が得意なわけではない。kintoneはデータを入力するテーブルがわかりやすいので、その後のフローにつなげやすい」とも語っていた。
さらなるkintone活用に向けてAIに期待
kintone導入後に檜垣造船へと入社した髙橋氏だが、「以前は役員が自席にいないことで承認が得られず、業務が止まってしまう場合もあったと聞いている。しかし承認フローをkintone上で管理できるようになったことで、業務が止まることがなくなった」と話していた。同社はkintoneの活用により、造船業では難しいとされた在宅勤務も実現している。
髙橋氏が特に気に入っているアプリは、前任の担当者が作成した「お弁当注文アプリ」だという。同社は複数のお弁当屋を利用しており、注文したいお弁当屋・拠点・人数に応じて、必要なお弁当を発注している。
本社事業所ではお弁当を食べるフロアが2階と3階に分かれているのだが、お弁当屋からの納品はすべて3階となる。そのため、注文人数に応じて担当者が2階と3階に振り分ける必要があり、これもkintoneで管理しているとのことだ。
「お弁当の発注業務は、納品場所と最終的に必要となる場所が異なる。そのため、電話やFAXによる注文では管理が難しい。kintoneであれば後から注文個数や請求額を確認しやすく、発注から支払いまで役に立っている」(髙橋氏)
同氏は今後、AIの活用も積極的に進める考えだ。kintoneはアプリ作成AIにより、自然言語で必要なフィールドを構築できるようになった。「自分でゼロからアプリを作るよりもAIに任せた方が便利」だと、髙橋氏も評している。次のステップとして、「アプリ内に蓄積したデータの分析やグラフなどの可視化にも、AIを活用したい」(髙橋氏)という。
さらに将来的には、kintoneがタブレットへの最適化を強化する方針を発表したことから、タブレット端末の現場活用も進めたいとしている。PCやスマホと比較して、写真撮影や図面確認など現場での使用に適したタブレットを活用することで、さらなる効率化を図る。
数年前まで全社員にPCが行き渡っていなかった檜垣造船だが、現在では現場でのタブレット活用にも意欲を見せている。小さな改善を積み重ねたことで、着実に次の航路へ進み始めているようだ。




