EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)は3月4日、ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)を軸に、IT・デジタル投資の意思決定を資本効率の観点で再設計する新サービス「ROICを重視した経営環境における事業価値と資本効率を高めるIT・デジタル投資のマネジメント支援」の提供を開始すると発表した。同日には、オンラインで説明会が開催された。
ROIC経営とIT・デジタル投資が直面する課題
新サービスは、同社の独自フレームワーク「EY-ISAO-RX(Integrated Strategic Alignment and Optimization ROIC eXecution)」を用いている。事業ごとの資本効率性を測る各種指標(ROIC、ROA、ROEなど)に対して、IT・デジタル投資やビジネスのKGI(重要目標達成指標)・KPI(重要業績評価指標)を対応付け、事業価値および資本効率向上への寄与を事業別に可視化するというもの。
同社によると、東証の資本効率改善に向けた制度整備が進む中、機関投資家やアクティビストの圧力も重なり、PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)を意識した経営は上場企業にとって不可欠な経営要件となりつつある。こうした環境変化を受け、ROICやROE(Return On Equity:自己資本利益率)を経営管理や投資判断の指標として活用する動きが広がっているという。
一方で、事業価値の向上には企業のIT・デジタル投資のマネジメントが求められるにもかかわらず、ROICを軸にした経営改革という議論で、IT・デジタル投資のマネジメントの重要性が見逃されがちになっている。IT・デジタル投資の管理やROI(Return on Investment:投資利益率)評価、ビジネス戦略との連携が不十分な場合、資本効率の各種指標の改善や企業価値の最大化が困難だという。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング EY-Parthenon ストラテジー・アンド・エグゼキューション ストラテジー パートナーの岩泉謙吾氏は、企業を取り巻く変化として「PBRを意識したROIC経営の高まり」「成長ドライバーとしてのIT・デジタル投資の重要性向上」「ビジネス戦略とIT戦略が不可分に」の3つを挙げている。
岩泉氏は「事業価値と資本効率性をともに高める場合には、ITデジタル投資が必要となるが手法自体が世の中に中々ない状況のため、そこに向き合うようなサービスを立ち上げた。ROIC経営について、これまで事業ポートフォリオや資本配分などの議論はあった。一方で、外部の機関投資家をはじめとしたステークホルダーが企業の成長のために、どのようなことを重視しているかと言えば無形資産への投資であり、人材やR&Dへの投資に加え、IT・デジタル投資も重要視されている。企業でも重要との認識はあるものの、いかに事業価値向上や資本効率に結び付けられているかという観点が欠落している」と話す。
続けて、同氏は「ITデジタル投資はコストや技術という観点ではなく、ROIC経営を実践していく、ないしは事業価値、資本効率を向上させていく手段として、投資のマネジメントに取り組むことが重要であると考え、今回のサービスを提供する」と強調した。
IT・デジタル投資管理とPBRの相関を示す調査結果
同社の独自調査(2025年8月に実施、回答数は約400)では、IT・デジタル投資の管理レベルとPBRに相関があり、管理レベルが相対的に高い企業において、PBRが高い傾向が見られたとのこと。
調査では、ROEは企業・投資家ともに最重視の指標とする一方、ROICは投資家が重視(ランキング2位)するものの、企業においては重要性が高まっていない(同8位)。また、中長期的な投資として、企業は設備投資や株主還元を重視する一方で、投資家はIT・デジタル投資を成長ドライバーとしてより重視しており、両者が重視するポイントにはギャップが存在する。
また、PBRの高い企業は、AI・顧客接点・R&D(研究開発)などの成長領域にIT・デジタル投資を配分するとともに、それらをビジネス戦略や事業KPIと連動させている点に特徴が見られたとしている。
一方、PBRが低い企業は基幹刷新など守りの投資に偏る傾向が確認されたほか、IT・デジタル投資を事業ポートフォリオやビジネス部門のKPIに連動させている企業ほど、IT・デジタル投資のマネジメントの管理レベルが高いという結果も得られているという。
企業価値の主役が有形資産からデータやクラウドなどの無形資産にシフトする中で、IT・デジタル投資は単なるコストではなく企業価値に直結する戦略的資源となっている。これまでビジネス戦略とIT戦略は分離、もしくは緩やかな連携の関係にあったが、ROIC経営の時代はビジネス戦略とIT戦略が融合していくことが求められている。
こうしたことから、PBRとIT・デジタル投資、ビジネス戦略の関連性で見ると、ITとビジネス戦略との連携度合いを高め、IT・デジタル投資の管理も高めると高いPBRの実現に有効であるとしている。
ROICを軸にIT・デジタル投資を再設計する新サービスの概要
そのため、同社のROICを重視した経営環境における事業価値と資本効率を高めるIT・デジタル投資のマネジメント支援を提供するというわけだ。これは、IT・デジタル投資の意思決定を資本効率の観点で再設計し、マネジメントの高度化を総合的に支援するコンサルティングサービスとなる。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング デジタル・エンジニアリングリーダー/マイクロソフト リーダー パートナーの松本剛氏は、新サービスに関して「ROIC経営とITマネジメントを実現するために、何を見ていけばいいのかということを因数分解し、それぞれが取り組むことをまとめている」と、説明した。
経営が求める資本効率の向上に対し、IT・デジタル投資と事業のKGI・KPIを事業別ROICに対応付け、データ基盤で可視化・分析できる体制の整備まで包括的に提供する。EY-ISAO-RXを用いて、現状評価・設計、データ基盤の実装、運用定着までを包括的に展開し、IT投資と事業KPIを事業別ROICへ対応付け、利益率・回転率・投下資本への影響を可視化・評価した判断材料を継続的に活用できる体制の構築実現を目指す。
サービスの提供にあたり、企業価値向上を起点に戦略策定から実行・変革までを一気通貫で担うEY Parthenonのストラテジー・アンド・エグゼキューションチームと、テクノロジーを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の戦略策定から導入までを手掛ける、デジタル・エンジニアリングチームが取り組む。
松本氏は「IT部門に対して必要な管理というテーマであるものの、主導するのは経営層。今回の新サービスは短期的にはROICに紐づく仕組みを構築し、当社としてはIT部門を次のステージに押し上げることをミッションとし、サポートしている。現状の日本におけるIT部門はベンダーマネジメントを行う総管理職となっており、内製化などIT部門の在り方を変えていくことも並行してサポートする」と力を込めていた。





