【財界BEST AI 100】ZVC JAPAN会長兼社長・下垣典弘「『気がついたらそこにZoomがある』という世界の実現を」

「人と人が会うことで心を動かすということは変わりません」─こう話すのは、ZVC JAPAN会長兼社長の下垣典弘氏。ビデオ会議システム「Zoom Meetings」などを展開する同社はコロナ禍を経て、急速に社会に浸透。今は「AIファースト」を掲げて、プラットフォームにAIを組み込んで、ユーザーの利便性を高めている。そして今は地方自治体とも連携して、地方創生にも貢献。下垣氏が目指すコミュニケーションのあり方とは─。

 「人と人が会うことの重要性は変わらない」

 ─ ZVC JAPANはビデオ会議システム「Zoom」など人と人をつなぐコミュニケーション関連事業を展開していますね。世界は混沌とした状況にありますが、現状をどう見ていますか。

 下垣 昔から人と人との関係は、お会いすることで距離を縮めてきました。その後、電子媒体など、コミュニケーションのあり方は多様性が出てきましたが、人と人が会うことで心を動かすということは変わりません。

 一方で、電話で声だけを伝えたり、テキストメッセージを送ることが多くなり、私自身、電話する時間が非常に減りました。今の若い人たちも電話をかけなくなっています。

 人と人の接点が変わる中、当社は「Zoom Workplace」というプラットフォームを展開しています。コロナ禍が普及の1つの契機となっていますが、おそらく、このパンデミックがなければ日本人はZoomを使わなかっただろうと思うんです。

 人と人との接点のあり方が変わってきたというのが、Zoomの一番ベーシックな部分です。

 ─ 時代の変化とともにZoomは役割を果たしてきたと。

 下垣 ええ。お陰様で、Zoomは多くの方に知っていただいていますが、私が名刺交換をすると「ありがとう」と言っていただくことがあります。私の社会人人生で感謝していただいたのは、この会社だけです。

 当社の使命は「全ての人に幸せをお届けする」「Delivering happiness」です。パンデミックを経て、老若男女がユーザーというプラットフォームになりましたが、コミュニケーションのあり方が変わっても人と人が会うことの重要性は変わっておらず、我々は新しい形態で提供しているのだと考えています。

 コロナ禍以降、知名度が高まりましたが、米国本社は2011年に創業、19年にナスダックに上場しています。様々なコミュニケーションツールがあった中で、Zoomはつながりやすく、切れにくいということで多くのアワードをいただいています。

 ─ 新たな機能も付加しているんですか。

 下垣 最近では「AIファースト」の製品開発を行っており、会う、電話をする、チャットする、Eメールを送る、Zoom会議を行うといった人と人の接点を全てAIの素材として保管することができます。

 「Zoom AI Companion」をプラットフォームに組み込むことで、議事録やタスクを自動生成し、業務効率化を支援しています。

 加えて今、Zoomを使っていただくと、2分くらいでZoomの中で代わりに話してくれる自分の「アバター」ができます。多くの機能をご利用いただくことで、便利な人と人のつながりを広げていきます。

 他にも特徴として、他社を排除しないということがあります。通常、テクノロジーの世界では二者択一でどちらかを選ぶことが多いですが、当社のプラットフォームはマイクロソフトさんやグーグルさんなど、他社と共存できることを1つの価値にしています。

 ─ 日本社会では受け入れられる考え方だと思いますが、欧米でも成功していると。

 下垣 そうです。幅広いお客様に、安価で安定したAIファーストのプラットフォームを提供しているのが弊社です。

 ─ 基本哲学を踏まえて今後、日本市場でどのように普及させていきますか。

 下垣 先程お伝えした 「Delivering happiness」をベースに「Zoomする」という言葉を残したいと考えています。そして今後も様々なところでZoomが使われると思いますが、「気がついたらそこにZoomがある」という世界をお届けしたいと思っています。

 経営としては会社の成長はもちろん大事ですが、日本の課題解決にも貢献したいと考えています。例えば教育です。政府の「GIGAスクール構想」で、これまでインターネット、PCが普及していなかった日本の学校のインフラが揃いつつあります。

 そこにZoomを加えることで、不登校の生徒や人口減で学校が閉校される地域の生徒にリモートで教育を提供できます。

 また、弊社の事業で今、成長しているのがインターネット回線を利用したクラウド型電話「Zoom Phone」です。多くの学校は固定電話回線が2回線しかなく、不測の事態の際に通じないことが考えられますが、インターネット電話になることで、どこでも電話を受けることができるようになります。

 これは災害時にも有効です。東日本大震災でも多くの方が学校に避難しましたが、家族が離散しても学校でZoomがつながっていれば、すぐに連絡がつながります。そして衣食住の手配、何が起きているかといったことがわかるのです。

 さらに言えば、家族の安否確認と、衣食住が整った後、次に来るのが病院です。これもZoomによってリモートで患者さんを診察することができます。

 つまり、人と人とをつなぐプラットフォームとして、日本社会の安全、何があっても皆さんがつながることができる世界をつくりたいというのが、大変大きなテーマとしてあります。

 地方創生に向けて地方自治体と連携

 ─ 地方創生は日本の課題の1つですが、地方自治体との連携も進んでいますか。

 下垣 ええ。まだ途上ではありますが、先日も連携協定を結んでいる14 自治体の首長さんにお集まりいただいて勉強会を開催しました。

 もう1つの日本の課題としてインバウンド(訪日外国人観光客)がありますが、地方自治体に外国人の方が来たら、ほとんどの人が話せないという問題があります。これに対してZoomはボタン1つで30以上の言語に対応した日本語の字幕を出すことができます。

 この機能には自治体の皆さんが非常に興味を持たれています。

 また、人口減少、高齢化が進む中、特に中山間地の自治体ではご高齢の方が車を運転できなくなった時などに支所などで手続きができるようにしたいというご要望があります。自治体からしても職員の負担を減らす意味でリモート化が望ましいということで取り組みを進めているところです。

 もう1つ、地方創生の観点で言うと、日本の魅力を世界に伝えることにも貢献したいと考えています。

 例えば、高知県の「高知よさこい祭り」には毎年100万人以上の方が訪れますが、外国人も多いんです。こうしたお祭りを見たいという外国の方は多いのですが、今はSNSで個人が発信するのがメインです。

 それを今回、我々のサービスであるバーチャルイベント開催・参加プラットフォーム「Zoom Events」でライブ配信しました。これによって海外の方はもちろんのこと、離れた場所に暮らす家族、親族にもお祭りを見てもらうことができます。

 こうした地域の魅力を発信してもらうことで、実際に訪れてもらうというサポートも、Zoomにはできると思っています。

 ─ 社会課題の解決を意識した取り組みをしていると。

 下垣 ええ。我々が何のために事業活動をしているかを考えたら、もちろん企業として売り上げ、利益を上げることは大事ですが、人と人をつなぐ、幸せをお届けするという原点が大事です。

 社会のインフラとして、皆さんの新しい人生の楽しみ方を見つけていただくことができたらというのが、我々が求めていることです。

 厳しい時に思い出す「疾風に勁草を知る」

 ─ 下垣さんは大学を卒業した後、日本アイ・ビー・エムなど外資系企業で働いてきましたね。厳しい時もあったと思いますが、どういう気持ちで乗り越えてきましたか。

 下垣 実はあまり厳しいと思ったことがないんです(笑)。私のコンピテンシー(行動特性)は人が大変だと思うことを、笑顔でできることなのではないかと思っています。

 私の好きな言葉は「疾風に勁草を知る」なのですが、厳しい風が吹いた時に、人はどう振る舞えるのか。そういう時にこそ、柔軟な草が見極められるのだと思うんです。

 私は大学時代、生活費を自分で稼いでいました。それは父が経営していた会社の状況が厳しく、3年生の時には倒産してしまったからです。

 この時、人はお金で変わること、契約書が大事であること、保証人がこんなにも重いということを知りました。結局、会社を整理するまでに1年かかりましたが、この時の経験から、何があっても、進むべき道を進めばいいことがあると思えるようになったんです。

 これまで働いてきた会社でも、難しい仕事に携わるように言われることが多くありましたが、全てが後で自分の実になっています。今も経営する上でチャレンジはたくさんあります。

 Zoomは最も知られているけれども、最も知られていない会社ですから、これを皆さんに知っていただくことは重要な使命です。

 最近も、例えば自動車の世界でテスラやメルセデスベンツ、テレビの世界ではソニーの「ブラビア」にZoomが導入されています。さらにはソニー・ホンダモビリティが開発しているEVにも導入されることが発表されています。

 このように、気がつくとそこにZoomがある世界をつくっていきたいのです。

 人材に求める3つの重要ポイント

 ─ やはり最後は「人」が大事だと思うのですが、Zoomが求める人材像、育成方法を聞かせて下さい。

 下垣 人を思う、お客様を思う、何かに熱い思いを持って走ることができるといった、人材に求められるものは今も昔も変わっていないと思います。その中で採用にあっては3つの重要なポイントを常に言っています。

 第一に「好奇心」です。私のスマートフォンは、背中をトントンと叩くと音楽アプリが立ち上がるのですが、この話をした時に「ふーん」と言って終わるのか、スマホを出して叩くことができるかどうかです。強い好奇心がなければ、実際に叩くことはできません。

 ネットで知ったことを自分が体験したかのように話す人よりも、一度自分で使ってみて、「やってみたけど使えなかった」、「やり方が難しかった」という人の方がいいんです。

 第二に「失敗」です。玉ねぎの皮を向くように人の内面を1枚1枚むいていくと丸裸になります。その本質にはいい部分だけでなく、これまでの歩みの中で失敗もあるはずです。

 時には失敗していない人もいますが、失敗していない人は、失敗した人の気持ちがわからないだけでなく、失敗するようなことをしなかったんです。チャレンジや手が届かなそうなことをやっていない人は成功しかしていない。その意味でも失敗のストーリーは非常に大事です。

 第三に「忍耐力」です。会社に入ったら、ないものだらけです。私は面接の時に「グランピングとワイルドキャンプ、どちらが好きですか」と聞くことがあります。

 グランピングは駐車場も、泊場も、食事も全て与えられたものですが、ワイルドキャンプは火をどう起こすか、泊まる場所をどうするか、川の水は飲めるのかといった課題を解いていきます。ないものをつくっていく企業活動に通じます。

 ─ 3要素を持った人は成長しているということですね。

 下垣 そうです。そして、自分自身もそうありたいと思っています。特に好奇心です。先程お話した弊社のサービスでも、自分でアバターをつくってみたり、若手がデモをやっていたら、似たようなデモを自分も勉強して、お客様の前でやってみるといったことに取り組んでいます。

 他社の新しいアプリもいち早く使うようにしています。流行ったと思ったら3カ月で駄目になるものもありますが、浮き沈みも使ってみたからこそわかることです。何でもやってみることは大事だと思っています。

 好奇心を持ち続ける、自分が届かないと思うチャレンジをし続けることが、いつまでできるかはわかりませんが、「できないだろう」と言う人がいる中で、それを目指すことが事業の本質ではないかと思っています。