
米国は今までと違うフェーズに入ってしまった
─ 2026年の世界はどう動くのか。年明けからトランプ米政権はベネズエラ侵攻に続き、デンマーク自治領グリーンランドの領有を主張するなど、これまでの世界秩序を無視した行動を続けているわけですが、千本さんは現状をどのように受け止めていますか。
千本 今は世界の経済も政治も一種の大屈折点にあります。
世界最強国家の米国からトランプ氏のようなリーダーが誕生し、これまで米国がつくりあげてきた戦後の国際秩序や自由と民主主義というものを否定し、完璧に米国は今までと違うフェーズに入ってしまった。それによって、まず経済では高関税策を発動し、世界を混乱させている。関税というのは昔からの強国の武器でもあるんですが、その武器を使うことによって、世界経済のあり方に大きな石を投げたということです。
【どうなる?高市政権の経済対策】マーケットコンシェルジュ代表・上野泰也
また、政治については、米国第一主義という一種の(世界に介入せず南北アメリカの縄張りを守る)「モンロー主義」に戻って、米国だけの国益を第一に考えると。もはや、米国は世界の中の指導者という立場ではなく、孤立主義と言ってもいいような政策を打ち出しています。
─ 最近は彼の名前の「ドナルド」にひっかけて「ドンロー主義」とも言われていますね。
千本 ええ。結局、今の米国というのは、人口においても、所得においても、白人の米国人の存在が格段に弱くなってしまった。中南米やアジアから多くの移民が入ってきたことによって、特に大学卒でない白人の下級労働者の位置づけが低くなり、これに非常に反発や不満を抱えているわけです。
日本も昨年の参議院選挙あたりから移民に対してどうするべきかという議論がなされ始めましたが、これまで米国というのは移民政策が一番うまくいっていた国だと思うんですよ。米国は多くの移民を積極的に受け入れ、彼らとうまく共存しながら新しい革新的なリーダーを次々と生み出してきた。
例えば、電気自動車(EV)テスラのイーロン・マスク氏は南アフリカ出身ですし、IT系ではマイクロソフトのサティア・ナデラ氏はインド出身、ヤフーのジェリー・ヤン氏は台湾出身です。シリコンバレーのエクセレントカンパニーのトップはインド系や中国系の人たちが多くを占めています。
─ 本当ですね。本来はそうした多様性が米国のダイナミズムを生み出していたということですよね。
千本 欧州を見ていると、ドイツはトルコなどからの移民政策で国が混乱していますよね。ある意味では失敗したと言ってもいい。それが米国ではトランプ政権によって、これまでの移民政策に急ブレーキがかかっています。米国の今後の行方がどうなるのか気になるところです。
そういう意味では、日本もこれだけ人口減少が続いて、老齢化と人手不足が深刻化しているわけですから、日本でも移民政策について、もっと真剣に議論する時期が来ていると思いますね。
もう一つ大きな問題はエネルギーです。地球温暖化対策という欧州を中心に展開してきたエネルギー政策について、数年前までは地球全体で機運が高まっていたのが、石油資本をバックに当選したトランプ大統領がひっくり返してしまった。
【著者に聞く】『エネルギーの地政学』 日本エネルギー経済研究所 専務理事・小山 堅
トランプ大統領は再生可能エネルギーよりも、地球温暖化対策よりも、主に経済性に重きを置いて、石油などの化石燃料を復権させている。運悪く、そこにウクライナ戦争が重なり、再エネ導入を叫んでいた欧州でも脱炭素の動きが大きくスローダウンしています。
─ 確かに足元ではスローダウンしていますが、将来的には脱炭素化を目指す方向には行くんですよね。
千本 わたしは長い目で見れば、必ず脱炭素化を目指す方向に行くと思っています。
足元でいけば、欧州でも日本でも温暖化対策に一部ブレーキがかかっています。付随的にはEVもそうですよね。ドイツではエンジン車の完全な打ち切りは無理だと。いわゆるエンジン車が復権し、ハイブリッド車(HV)に改めて注目が集まっていて、そういう意味では、トヨタ自動車の「マルチパスウェイ(全方位)戦略」は大いに当たっています。
─ EVもやるけど、HVやプラグインハイブリッド車(PHV)の開発もやると。
千本 ええ。日本を代表するトヨタがガソリン車なのか、EVなのか、どっちつかずでいいのか? そんな中途半端なことをやっているから、EVの世界でイーロン・マスク氏が台頭し、中国メーカーにもどんどん引き離されているじゃないかと。
それこそ1周も、2周も差がついてしまったと思っていたんですが、ここにきてトヨタはすごいなと(笑)。欧州ではこうだとか、米国ではこうだとか関係なく、トヨタは独自でEVやPHVなどの混在政策を打ち出し、それを貫いてきた。
そこにトランプ大統領が登場し、米国、欧州も含めて、世界中でEV一辺倒からの揺り戻しを起こしている中で、世界の自動車マーケットが、豊田章男会長が描いていた戦略にビタッとはまっちゃった(笑)。わたしは改めて、トヨタの戦略に感心しています。