【「クロネコヤマトの宅急便」誕生から50年】ヤマトHD次期社長・櫻井敏之に課せられた再成長戦略

7年ぶりの社長交代

「宅配市場そのものが、これまでのように順調に伸びていくわけではない。その中で付加価値を更に向上すると共に、宅急便以外の事業を拡大する転換点にある」─。このように意気込みを語るのはヤマト運輸常務執行役員(宅急便事業統括)の櫻井敏之氏。同氏は4月1日付でヤマトHD社長に就任する。

 同社が社長交代を発表したのは1月22日。その2日前、宅急便が誕生50周年を迎えた。そんな節目にあっての同社の社長交代は7年ぶりとなる。現社長で4月1日から代表取締役会長に就く長尾裕氏(60)は櫻井氏を「現場や海外、法人向け営業、HDでの事業戦略など、多様な経験を持っている。そして何より人柄が誠実だ」と評する。

 その櫻井氏は1974年生まれの51歳だ。長尾氏もヤマト運輸の社長に就いたのは50歳と若かったが、HD社長に就いたのは54歳。物流業界の経営者の平均年齢は約60歳と言われる中では大きく若返る格好となる。

 櫻井氏はヤマト運輸入社後、EC(電子商取引)営業部門を起点に、ヤマトWebソリューションズ社長、HD経営戦略部門、ヤマトロジスティクスの営業統括などを歴任。シンガポールでの営業責任者も経験し、直近では宅急便事業を統括していた。そんな櫻井氏に求められるのは主力の宅急便を含む宅配事業の立て直しだ。

 誕生初日は11個に過ぎなかった宅急便の取扱個数。2025年3月期の宅急便などの取扱個数は約23億個へと拡大。宅配便市場の個数ベースのシェアは47%を占めるほどに成長した。社会インフラに育った宅急便だが、ヤマトHDの宅急便を含む25年3月期のエクスプレス事業は128億円の営業赤字。人件費や燃料費が高騰し、大口顧客である法人企業などとの運賃交渉が今後のポイントになる。

誕生50年を迎えた宅急便(©ヤマト運輸株式会社)

 櫻井氏も「適正なプライシング」が今後の経営課題だと認識。昨今でも運賃については同氏が主導して新たな取り組みを始めた。それが個人向けの同一都道府県内の発着分を実質的に値下げするというもの。値下げする分、収益率の低下が懸念されるが、そう単純でもない。「一般的に法人よりも個人の方が、単価が高い」(関係者)からだ。

 同一都道府県内であれば、全国にネットワークを構築済のヤマトにとっては輸送コストを抑えることができる。これまで取りこぼしていた近距離配送の需要を獲得しつつも、輸送コストを抑えながら利益率の高い荷物を運ぶため、利益率は高まる。

 さらに櫻井氏が宅急便以外の事業の拡大を目指すことに言及したように、今後の成長を担う領域が「3PL(企業向け物流受託)」だ。同社には全国に約2800の営業所があり、順次建て替えや移転・集約している。その数はライバル・佐川急便の429カ所の6倍超となる。

 このうち、いくつかの拠点を「統合型ビジネスソリューション拠点」と位置づけて荷物の仕分けをするターミナルを顧客も利用できるようにする。例えば、家電メーカーであれば、消費者から送られてきた故障品をその拠点で修理し、それを宅急便でその消費者に届けるといったケースだ。長尾氏は「お客様の商品の在庫を管理・調達したり、次の工程に向けた付加価値を付けたりすることができる拠点にしていく」と語る。

 また、宅急便のネットワークを地方創生と1次産業の活性化にも活用する。ヤマトHDは食品卸大手の国分グループ本社と連携協定を締結。日本各地で埋もれている名産品をヤマトが自社で保有する航空便で輸送して全国に流通させたり、ECサイトの共同開設も検討中で、「生産者と消費者を直接結ぶ」と同社幹部は強調する。

 例えば、九州の鮮魚や北海道のもぎたてのトウモロコシ、低温殺菌した牛乳などを北九州空港や新千歳空港に集めて航空機で羽田空港に運び、そこから国分の拠点を経由して同社の顧客であるスーパーや外食店舗などに届けるといったものだ。数日かかっていた輸送日数が最短で収穫当日に消費者に届く。

SDは本来の役割に専念

 このような新たな宅急便のネットワークの活用策が展開されるようになった背景には「荷物の中身の変化」(同)がある。誕生当初の宅急便は個人から個人への輸送だったが、ECが普及した今は企業から個人という荷物が全体の約9割を占める。

 その結果、「都心から郊外に運ぶ〝一方通行〟の荷物が激増し、当社の拠点も届けるためだけの拠点になってしまっている」と同幹部。ただ見方を変えれば、各拠点には空いているスペースや人的リソースが生まれていることを意味する。同社はこれらの経営資源を活用して新たな価値を生もうとしていている。

 それは約5.4万人のセールスドライバー(SD)にも当てはまる。もともとヤマトのSDは集荷・配送・営業の役割を担っていたが、EC荷物の急増によって「営業の機能が少し疎かになっていた」(櫻井氏)。顧客の軒先に出向いて困り事を聞き出すという本来のSDの役割に専念させることで、3PLの事業を生み出せると同氏は考える。

 既に過疎地である北海道の奥尻島では北海道でドラッグストアを展開するサツドラホールディングスと移動販売車を運営。他にも貨客混載による住民や観光客の輸送を始めている。

「顧客のニーズを一つひとつ確実に捉え、経営資源を大胆にシフトさせる」と宣言する櫻井氏。26年3月期の業績予想で下方修正を余儀なくされる中、自らが持つ経営資源を見つめ直し、次の50年を生き抜くサービスに生まれ変わらせることが同氏に課せられた使命となる。

【2026年をどう占いますか?】 答える人 ヤマトホールディングス社長・長尾 裕