
極という構造で今の世界を捉えてはいけない
─ 年明けから、トランプ米政権によるベネズエラ攻撃やグリーンランドを巡る欧米の対立など、世界情勢が目まぐるしく動いています。こうした激動の時代をどう見ていますか。
寺島 日本の報道を見ていると、国際法を無視したトランプ大統領に象徴されるように、今は中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領を加えた権威主義陣営が、力こそ正義という力学で共鳴し合いながら、そういう世界がつくられつつあるのではないかという論調ばかりです。
つまり、世界は分断と対立の権威主義の時代に入りつつあるという見方で、極構造で物事を捉えようとしている。奇しくもトランプ大統領自身が米国と中国の二極体制を意味する「G2」と言っているように、極という考え方で世界を捉える傾向が日本の中では強くなっています。
【高市政権の成否は速さ】ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト・矢嶋康次
二極で考えればわかりやすいし、単純明快に世界は分断されていると解釈している人が多いと思うのですが、しかし、それは違うというのがポイントです。
─ 二極構造ではないと。
寺島 要するに、冷戦が終わってからの1989年から90年代にかけて、社会主義が敗れて資本主義が勝ったという捉え方で、日本人の多くが世界は米国の一極支配になると見ていました。資本主義の総本山である米国がこれから世界の秩序のど真ん中に座って、その流れの中で世界が進んでいくと考えました。
米国が掲げていたロジックを分かりやすく言うとグローバリズムです。国境を越えてヒト、モノ、カネ、技術、情報をより自由に移動させて、世界はグローバル化、フラット化していくという流れで捉えて、日本は米国流資本主義の世界観、グローバル化に準拠していく。小泉改革やアベノミクスなどは、米国流の市場主義、競争主義のロジックに乗っかった舵取りをしたわけです。
ところが、昨秋以降、わたしがシンガポールやロンドンに足を運び、いろいろな人と議論してみると、今、世界を理解しようとしたら極という構造で世界を捉えたらダメだ、と。わたしが以前から全員参加型の秩序と言っていたように、無極と言うか、多極の時代になって、もう米国一極支配や極で世界を議論していては見誤るということなんです。
─ これは無極化時代と言っていいですか、あるいは多極化時代?
寺島 今年のキーワードで面白いと思うのは、「ワールドマイナスワン」です。マイナスワンのワンは米国です。分かりやすく言うと、米国無き世界。米国抜きで行こうという一種の目配せが、世界の大きな潮流になりつつあるのです。
例えば、グリーンランドの問題を見てもそうですが、欧州ではいくら何でも最近のトランプ大統領は横暴を通り越して、狂気の沙汰だという空気になってきたといえます。でも正面切って彼の言動に反応してもエネルギーがいるから、一見言うことを聞いているように見せながらも、実際はもうこれ以上真剣に向き合っていられるか、とも思っている本音が見え隠れします。
そういうことで、欧州は今、アジアとの関係を一段と深めようとしています。例えば、英国はアジアの自由貿易協定の仕組みに入ってきました。
─ EU(欧州連合)を離脱した英国が、CPTTP(包括的・先進的環太平洋経済連携協定)に加わりましたね。
寺島 はい。そのEUはブラジルを中心としたメルコスール(南米南部共同市場)との自由貿易協定を結ぶことになりました。また、今度はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国等)の枠組みにインドネシアやUAE(アラブ首長国連邦)までが参加するようになっていて、世界は米国の一極支配やドルの一極支配という構造から静かに脱却をしていこう、と。あたかも反米ブロックの形成みたいに捉えがちですが、そんなに単純な話でもありません。