先端教育機構理事長・東 英弥が取り組む【47都道府県での人材育成構想】「社会人教育を通し、47都道府県で〝人のちから〟を増やす取り組みを進めていきたい」

理念から教育へ─ 事業実践と学校法人の歩み

 ─ 混沌とした時代を生き抜く鍵として、東さんは「構想力」の重要性を訴えています。「構想力」がなぜ今必要だと考えますか。

 東 現在、技術革新や社会構造の変化が激しく、将来の予測が難しい混沌の時代を迎えています。だからこそ、一人ひとりが自ら未来を構想し、切り拓いていく力が求められます。「構想力」とは、未来の理想像を描き、それを社会に実装していく力のことです。わたしは一貫して構想力の社会実装をテーマに事業に取り組んできました。

 25歳で最初の企業を立ち上げて以来、これまでに19社の起業や事業経営に携わり、本学の設立もその延長線上にあります。

  構想を研究し実践する人材が増えれば、日本各地の創生や産業再生は、理念と実践が共鳴する形で着実に結実していくはずです。一人ひとりの構想が社会を動かす原動力になるとわたしは強く信じています。

 ─ 企業経営の傍ら大学院に進学して博士号を取得し、先端教育機構(当時は東教育研究団)を設立した目的や原動力は何ですか。

 東 学術と実務を結びつける教育研究機関の必要性を痛感したからです。実際、マーケティングやコミュニケーション分野の研究に取り組みましたが、当時は働きながら学べる社会人大学院は存在しませんでした。職場を離れずに専門性を深められる、実践的な研究の場を築きたいと考えたのです。

 そうした自身の事業と研究から、新たな未来を構築する「構想」の大学院をつくろうと決心しました。根底にあったのは、「社会を良くしたい」という志を持つ人々が集い、共に学ぶ場を作りたいという願いです。その志こそ、本学の教育理念の礎になっています。

 ─ 東さんは若き日に日本各地を巡り全国を旅していましたね。このことも大学設立の構想に影響したと聞いていますが。

 東 はい。学生時代に日本全国を旅して各地の現状を見聞きしたことが、わたしの原点の一つです。例えば、過疎化が進む農村や、シャッター街が目立つ地方都市など、地域ごとに異なる現実を目の当たりにしました。

 現場では懸命に地域おこしに取り組む方々の姿にも触れ、何とか力になりたいと強く思ったものです。各地域の課題の裏にある可能性も肌で感じました。  地方の活性化には欧米の成功例を単に模倣するのではなく、日本自らの地域オリジナルの構想を生み出し、実行することが重要だと悟りました。

 この青春時代の地方行脚で得た気づきが、その後の私の地方創生への取り組みや、のちにお話しさせていただく「47都道府県構想」に繋がっています。

 ─ 東さんの「自育」という教育理念と「構想力の育成」について改めて聞かせてくれませんか。

 東 「自育」とは、読んで字のごとく「自らを育てる」ということです。すなわち、他者から知識を与えられるのを待つのではなく、自分自身で学び成長しようという姿勢を指します。

 わたし自身、経営の傍らで大学院に通い博士号を取得するなど、生涯にわたって自己研鑽を続けてきました。本学でも、院生たちには受け身ではなく主体的に学び、自らの手で構想を練り上げることを促しています。

 教員が答えを用意するのではなく、学生自身が問いを立てて思考するプロセスを重視しており、この「自育」の精神を教育の根幹に据えています。自ら学び考える姿勢こそが、真に創造的な構想力を生み出す原動力になるのです。

『事業構想原論』とは

 ─ 26年1月に『事業構想原論』という著書を出されますが、その中で提唱している「構想学」の体系について話してくれませんか。

 東 『事業構想原論』は、わたしの48年間にわたる事業経験と、大学院設立から14年の研究成果を踏まえ、構想学の体系を示したものです。

 その中で強調しているのは、理念に基づく構想でなければ事業は継続しないという点に尽きます。理念なき事業は社会の支持を得られず、長続きしません。逆に、明確な理念に根ざした構想には、商品・サービス開発から顧客開拓、組織運営に至るまでの一貫性が生まれ、社会の一翼を担う力が備わります。

 近江商人の教えである、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」の精神にも通じる考え方です。

 事業には事業価値(経済的価値)と社会価値の両方が不可欠であり、社会価値を伴わないものは行き詰まります。ですから理念に基づく構想の実践こそが、日本の産業や地域を変革する原動力になると確信しています。

 ─ 『事業構想原論』では、これまでの経営学等の研究と構想学を結び付け、長期的視点に立った理念経営や社会価値の重視が大事だと書かれています。

 東 はい。理念や社会性を軽視すれば、社会からの信頼も得られず事業は持続しません。日本は戦後に米英型の株主資本主義を取り入れましたが、バブル崩壊以降、その短期志向の弊害が露呈しました。

 わたしは、欧米型のそういった考え方ではなく、合意形成と長期的利益の追求を重んじるドイツ型のライン資本主義や、近江商人の「三方よし」の教えに学ぶべきだと考えています。

 フランスの経済学者ミッシェル・アルベールも著書『資本主義対資本主義』(1991年)で同様の指摘をしています。企業が理念を掲げ社会価値を追求することは、単に道徳的なだけでなく、中長期的には顧客からの支持を得て事業が進化し続ける源泉となるのです。

 むしろ明確な理念を共有し社会に貢献する企業こそが、社員や顧客などステークホルダーからの厚い支持を集めて、長期的な競争力を発揮できる時代になってきています。こうした理念経営への転換が、日本の産業の持続的発展に繋がっていくと考えています。

卒業生の成果

 ─ 事業構想大学院大学と社会構想大学院大学の修了生たちは、産業界や社会でどのような活躍をしているか、例を挙げてくれませんか。

 東 本学は2012年の開学以来、日本全国から多様な社会人を受け入れ、構想を理論と実践の両面から磨いてきました。両大学院の修士課程修了生は1500名を超え、構想研究を修了した研究員は5000名にのぼります。

 修了生の多くが、在学中に練り上げた構想を新規事業や地域プロジェクトとして形にしています。企業内では社内ベンチャーの立ち上げ、事業承継の再構築、新会社の設立が相次ぎ、自治体では政策提言や地域プロジェクトに挑む修了生も増えています。大学で教育者として構想を次世代に伝える人材も育っています。

 ─ 大学院大学で学んだことを、会社や自治体で実践まで行っていると。

 東 ええ。大手企業では、修了生が自ら策定した構想計画をもとに新事業を起こし、経営者に就任した方、経営の中核を担う方も輩出されています。例えば、ポッカサッポロは広島県で農業法人「LEMONITY」を設立し、国産レモンの生産振興と地域雇用創出を両立させています。

 また、神戸市では「子育て支援・女性活躍・食文化」をテーマに新会社を設立し、産学連携のまちづくりを推進しています。鎌倉市では、放課後の子どもの居場所を創るNPOが生まれ、地域の共助を再生しました。

 このように、卒業生たちは全国で地域課題を題材に構想を策定し、地場産業のリブランディングや官民協働プロジェクトを実現しています。

 政策構想コースからは既に市長・副市長・県議・市議といった公共リーダーも誕生し、行政経営や政策立案に構想学の思考法を活用しています。

 ─ 企業でも自治体でも成果が出ていると。

 東 はい。こうした成果の背景にあるのは、構想を理論で終わらせず、社会実装まで伴走する本学の教育モデルです。修了後もアルムナイ・ネットワークを通じて連携し、官民を越えた協働の輪が全国で広がっています。構想が人を動かし、人が社会を変える。この連鎖が、全国で確かな形になりつつあります。

地域の潜在力を掘り起こす! 「47都道府県構想」の夢

 ─ 現在、東京、大阪、名古屋、福岡、仙台の5拠点で大学院を展開していますね。今後は全国47都道府県に普及していく予定ですか。

 東 はい。現在、本学は東京・大阪・名古屋・福岡・仙台の5都市にキャンパスを展開していますが、さらに構想教育を全国47都道府県へと広げ、地域の知と資源を生かす拠点づくりを進めたいと考えています。

 どの地域にもその土地ならではの課題と資源があります。それらを生かした地域発の事業構想を生み出すには、各地で構想人材を育成することが不可欠です。各地域が自らの知恵と理念に基づく構想を打ち立ててこそ、持続的な発展が可能になります。その積み重ねが、日本全体の活力につながっていくと確信しています。

 ─ 各地域に特色があるのが日本の強さでもありますね。

 東 おっしゃる通りです。政府も近年「リスキリング(学び直し)」支援に予算を拡充していますが、本学としても将来的に授業料の無償化を視野に入れています。事業構想や社会構想に関する企業へのコンサルティング収益を教育費用に充て、誰もが経済的負担を気にせず構想を学べる環境を整えたいと考えています。

 ─ 一般的に日本人は大人になると学びを止めてしまうということが言われます。大学院大学で学ぶときの経済的負担が少なくなれば、もっと勉強を続ける人も増えていきますね。

 東 そうなることを願っています。わたしの夢は全国47都道府県に構想拠点を展開することですが、これは本学だけの力では成し遂げられない大きな夢です。

 各地で企業や自治体の皆様と力を合わせ、地域の実情と理念に即した構想プログラムを共創していきたいと考えています。

 本学で学ぶことで、企業にとっては、社員が構想力を身につけることで新たな事業創出やイノベーションが生まれると。自治体にとっては、構想人材の活躍が地域政策や産業振興の推進力になります。

 わたしたちは、構想の学理と実装の型、実務家教員と全国ネットワークを提供したいと思っています。そして各地域が持つ現実と意志を受け止めながら、地元企業や教育機関とともに構想人材の育成に取り組みます。

 1人の構想が、社会を動かす原動力になる。この確信を共有し、47都道府県で〝人のちから〟を増やす取り組みを一緒に進めていきたいと思います。

 理念に基づく構想を全国に根づかせ、次の50年を支える人材の連鎖を、産官学の連携で築いていくことが、わたしたちの使命だと考えています。