三井物産・安永竜夫会長が語る「AIとの向き合い方」

現場で揉まれることで人は育つ

 ─ 長期化するロシアとウクライナの戦争に加え、年明けから米国がベネズエラを武力攻撃するなど、世界が混沌としています。日本企業はこうした混沌期にどのようなスタンスで臨むべきだと考えますか。

 安永 これは商社のみならず、日本企業全てに言えることだと思いますが、日本人以外の人たちも含めて、いかにチームの中に多様性と包摂性を発揮できるコミュニケーション能力と説得力、実行力を持った人を育てていくかだと思います。

 もはや日本企業は自国市場だけでは成長できません。世界で戦うためには、日本人だけで事業を回せる時代ではなくなってきています。現地の人材もいれば、他の国々から来ている専門人材をも含めた多国籍チームが、全体感を持ちながら、いかに個別の現場、現場の組織目標を立てて、自ら行動していけるかが大事になってきます。

 そのために、当社で言えば、世界中に何百もの関係会社やプロジェクトがありますから、その現場で実地訓練をしていくことが大切です。わたしは現場で揉まれることで人は育つと思っていますし、耳学問でできるほど簡単な仕事などないと思うんですね。そんな仕事は遅かれ早かれ、AI(人工知能)に置き換わりますから。

 ─ AIではない、人間ならではの仕事の仕方をどう構築していくかと。

 安永 そうです。昔は若手なら稟議書や契約書のドラフトをつくれ、議事録を今日中に作成しろ、と言われて、われわれもそこから仕事を覚えていきました。ところが、現在、それらの業務はAIに代替されつつあるので、人間はビジネスのジャッジメントに関わる部分にどれだけ早く関与できるかが大事だと思います。

 でも、ビジネスの経験もないのに、いきなりジャッジすることなんてできません。例えば、ビジネスには対人折衝能力が不可欠ですが、それを鍛える機会が圧倒的に減っていると感じます。フェイス・トゥ・フェイスでお客さんに会おうと思っても、こちらがある程度のレベルでないと向こうも会ってくれないでしょうし、飛び込み営業で会ってくれる人もいません。

 昔のやり方が即仕事に繋がったとは思いませんが、経験を積み重ねることによって、臨機応変に応用動作ができるような素地があったとは思います。

 ─ その意味では、本当に人を育てることが難しくなっていますね。

 安永 世の中の不確実性が高まる中で、自分たちの経験則やそれに基づく思考方法が通じなくなってきています。今後はより現場レベルで、現場感がはたらく人間を育てておかないと太刀打ちできない。海外の現場において、今まで以上により素早い判断が求められる時代になっていると思うんですね。

 もちろん、最終的な決済は東京の本社にしなければなりませんが、米国なら米国で、中国なら中国で、アジアならアジアの現場で、きちんとしたマネジメントができないといけない。お客さんとの接点の最前線にいる人間が自分たちの判断や裁量で物事を決めていかないと、パートナーから相手にされなくなってくる。結局、単なるメッセンジャーだと見なされたら、今やどこにいようが簡単に繋がる世の中なので、相手にされませんから。

 前述したように、それぞれの現地で働いている多国籍チームを率いて、チームの総意をつくり、そこで出た結論を東京なり、シンガポールなり、ニューヨークに諮っていく。

 そういう風にしないと、本人たちも成長しないし、相手からも頼りにされない。本当の意味でのパートナーシップも生まれません。自分の頭で考え、自分の言葉でコミュニケーションをとり、自分で動き回った結果として判断ができる人材を育てないといけない。そういうことだと思います。

 ─ それは言い換えれば、人間力が試されると言っていいですか。

 安永 ええ。デジタルの時代になればなるほど、デジタルに依拠してオンラインだけで物事を済ませようとしてはいけない。それでは商社のみならず、どの世界にいても、AIに置き換えられてしまう。やはり、人間力を磨くのは、とにかく色々な人に会い、そして、自分の言葉で話すということだと思うんですね。

 会議に出ても何も発言しないでメモを取っているだけとか、パソコンをいじっているだけの人はもう必要ありません。情報共有や若手教育を目的とした会議が多すぎるし、長すぎる。これからはそんな仕事は全てAIに取って代わられます。チームワークという名のもとに仕事の重複やもたれあいのワークシェアリングがなされていないか見直す必要があります。

 大事なことは……。

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