弁護士・久保利英明の【わたし一冊】 『リベラリズムの捕食者  ~AI帝国で自由はどのように貪られるのか』

巨大テックが新帝国になるとき

 本書の訳者あとがきには、訳者に依れば「著者は学者と言うよりも国際政治の実務家だった」という。その実務家が「今日、現実の政治状況はフィクションよりも奇想天外な様相を呈するようになったから急遽、本書をエッセイとして書き下ろした」のが本書なら、現場感覚に基づくリアルなルポと考えて良いだろう。

 その本書の結論を一言で言えば「世界各地では解決すべき事は全て火と剣によって解決される」である。著者はこのままではリベラル民主主義は捕食され、貪られる他なくなるという危機感を巧みなレトリックと歴史知識を積み重ねて本書を構成している。

 アステカ帝国の崩壊も国連の機能不全も、サウジアラビア皇太子の逸話もマキャベリの君主論も、ボルジア家とトランプファミリーの類似性も、オリガルヒや巨大テックのコンキスタドール性(征服者)も、現在の政治権力の実相と誰が捕食者なのかを検証する舞台装置である。

 著者は第二次世界大戦から最近までの80年が合意とルール遵守の異常な時代であったと再定義する。現在の無秩序状態こそ、AI(人工知能)権威主義と相まった新たな常態として権力の永続的な新たな帝国の力学の原点になるのではないかとの著者の見解を我々は杞憂として片付けられるのだろうか。

 この国の政治状況は国政の混迷や、知事、市長選挙の結末を見れば社会の分断や、既存メディアの零落と軌を一にして、グローバルな何でもありの状況と通底する現状といわざるを得ないのではないか。

 国際政治が中国と米国の”G2”によって、世界の人々のコミュニケーションがGAFAM(米国のテック大手)のテクノロジーによって支配されるとき、我々が捕食者に抗して、アステカ人の辿った道を回避できるかどうか。ヨーロッパのリベラリズムがG2に対抗できるのか。日本はどうなるのか。拳々服膺すべき書物としてお勧めする。

【著者に聞く】フリー専務執行役員CHRO・川西 康之『freee 成長しまくる組織のつくりかた』