
日銀が12月の金融政策決定会合で利上げを決めた理由として、来春闘での賃上げ率が再び高い数値になりそうだという見通しがある。これは、労働組合の要求がやはり高いものになりそうだという点や、日銀が本支店を通じて行っている企業ヒアリングの結果によるものだと言う。2025年度は連合集計で定期昇給を含むベースで5.25%(ベースアップ率3.70%)という強い数字であった。来年度も近い数字になれば、おそらく実質賃金もゼロ%ないしプラス浮上があり得る。名目賃金の方が消費者物価の上昇率を上回ると、実質賃金はプラスになる。
これまで春闘に対する弱気論の根拠になっていたのは、トランプ関税が企業収益の重石になるという懸念である。25年度上半期決算では、特に自動車産業の収益悪化が目立っていた。理由は、自動車関税27.5%の負担である。9月に関税の交渉で関税率は15%へと下がる結果になったが、ここにはそれが織り込まれていない。下半期には関税率が15%に軽減される分、収益悪化は和らぐだろう。鉱工業生産でも、自動車は10月の生産が大きく回復していた。北米でもハイブリッド車の販売好調が伝えられている。
これに加えて、日銀短観12月調査で、中堅・中小企業の自動車が一気に9月比で業況判断DIを上昇させていた。このデータは、トランプ関税による国内への悪影響の広がりが事前に恐れていたほどではないということを意味している。春闘では、大手企業を中心とした賃上げ率が決まり、夏場以降は中小企業の賃上げが随時進むとされる。短観データは、悪化が心配された自動車産業での中小企業の賃上げが低調になりそうな不安を払拭するものだった。春闘の展望はこれで一気に明るくなった。物価上昇による生活苦が改善されるとすれば、政府の支援策よりもこの賃上げの方がより大きなプラス効果を及ぼすことになる。
もう1つ、物価を巡る環境として注目されるのは、原油価格の下落である。WTIの市況は、従来1バレル60ドル前後だったのが50ドル台半ばまで下がっている。背景には、ウクライナの停戦交渉がうまく行けば、和平合意に至るかもしれないという観測がある。トランプ大統領は、26年11月の中間選挙を前に外交成果を積み上げようと必死である。ウクライナ停戦となれば、ロシア産原油の輸入禁止が緩和に向けて動く可能性がある。日本では、ガソリン・電気ガス代の値下げに寄与する。ここには高市政権の支援策も加わるので、エネルギー・コストの引き下げが大きく進むことになる。企業の業績では、素材産業の収益増へと繋がり、中小企業の価格転嫁が進みやすい環境をつくることになる。ともに春闘にもプラスの要因である。
筆者は、新年度の春闘ベースアップ率が3%台に乗れば、実質賃金はゼロないし、わずかなプラスと見込んでいる。