三井住友FG社長・中島達が進める「銀行変革」とは?「オリーブを軸にビジネスモデルを変える」

「競争に勝つためにサービスを拡充させる」─こう力を込めるのは、三井住友フィナンシャルグループ社長の中島達氏。同社が提供する個人向け総合金融サービス「オリーブ」。2023年の開始から5年で1200件の獲得を目標としてきたが、25年末で700万件と、前倒し達成も視野に入る。ただ、他の2メガも個人向けサービスを強化しており、競争は激しい。その中で勝ち残るためにも、新サービスや提携を駆使する考えだ。

 リスクがある中でも経済は堅調

 トランプ関税の影響による米国及び世界経済減速への懸念、AI(人工知能)関連株の調整懸念、プライベートクレジット(銀行以外の貸し手によって提供される融資)のデフォルト懸念といった経済的リスク、さらには日本と中国の関係悪化、米国と中国の緊張関係、ロシア・ウクライナ戦争といった地政学リスクなど、世界には様々なリスクが横たわっている。

 こうしたリスクに対して、三井住友フィナンシャルグループ社長の中島達氏は「これらのリスクが顕在化する可能性はそこまで高くないのではないか。2026年も25年に続いて、世界経済は堅調で、我々のビジネス環境としても、いい状態が続くのではないかと見ている。

 ただ、リスクは多いので、そこはよく見ながら経営する必要がある」と冷静に分析する。

 また、日本銀行の利上げによって、日本でも久方ぶりに「金利ある世界」が戻っている。金利が上がれば、例えば銀行にとっては預金が力となり、収益拡大につながる。

 ただ、中島氏は銀行の収益拡大以上に金利が上がった背景を重要視している。「日本経済が成長を始め、それが力強くなってきたからこそ、日銀は金利を上げてきている」と指摘する。

 しかも、2025年10月に高市政権が誕生したことも大きかった。この政権以前、市場は政策金利の最終到達点を1~1・25%と予想していた。それが高市政権発足後は成長投資、景気対策の実施で、日本経済が強くなるという期待が出てきた。

 それによって今は、到達金利が1・5%を超えるという予想も出てきている。

 「日本の成長に対して、みんなが自信を持ち始めており、日本経済の〝体温〟が上がってきている。金融機関からすると預金で収益が上がることもありがたいが、日本経済が成長軌道に乗ってきたことがありがたい」

 足元で企業の資金需要は旺盛。多くの経営者は戦略的な設備投資や、成長に向けたM&A(企業の合併・買収)の実行にカジを切っている。その結果、銀行に融資やアドバイザリーの相談が来ている。「日銀が金利を上げられるくらい、日本経済がしっかりしてきた」(中島氏)ことを重要視している。

 逆に、経済の実力が伴わない金利上昇は悪い金利高。国にとっては国債の利払い費が増加し、企業・個人も借り入れ金利の増加が負担となる。

 今はそうではなく「経済の実体が強くて、それに伴う金利上昇はマクロで見た時にはいいこと。しかも、まだ長期金利は低い水準にある。経済実体に伴って上がる金利については心配しなくてもいいと考えている。ミクロでお困りの企業や個人には、我々がきちんと寄り添う」

 マクロ、ミクロの動向をきちんと見据えながらの対応が続く。

 店舗、資産運用のサービスが変わる

 三井住友FGのサービスは今、個人顧客を強く惹きつけている。それが23年に提供を開始した、個人向け総合金融サービス「Olive」(オリーブ)。このオリーブは、三井住友FGにとって「金融サービスの新スタンダード」との位置づけ。

 銀行口座、カード決済、ファイナンス、オンライン証券、オンライン保険などの機能を一括で搭載。1枚でキャッシュカード、クレジットカード、デビットカード、ポイントカードの機能を切り替えられる「フレキシブルペイ」という機能もある。ビザワールドワイドとの共同開発で、世界初の機能。

 さらに25年にはソフトバンクと「ポイント事業」などで包括提携し、ソフトバンク系のスマホ決済「PayPay」を連携させた。ポイントサービス5強のうち2強が大連立を組んだと話題を呼んだ。

 23年の開始から5年で1200万件のオリーブアカウント獲得を目標としているが、25年末時点で700万を超える見通し。中島氏は、ここまでの手応えをどう感じているのか。

 「オリーブは『便利』で『お得』という2つを提供しようというキーコンセプトで進めてきたが、これをお客様に受け入れていただけた。標準進捗を上回るペースで進んでいる」と話す。

 前述のように、様々なサービスとつながることができる便利さと、三井住友FGが進めるポイントサービス「Vポイント」は「Tポイント」と統合してポイントとしての魅力を高めて提供。

 これによってお得感を感じて利用する人が増えているということ。

 「1200万という目標を増やすんですか?と聞かれるが、まずは1200万を前倒しで達成したい。そして1200万が最終到達点とは思っていない。次はさらに高い水準を目指す」

 顧客にとっての高い利便性に加えて、三井住友FGにとってはオリーブによって「従来型のビジネスモデルを変えることができている」と中島氏。

 第1は「店舗」。顧客が銀行アプリを通じて手続きなど行うようになったことで来店数が減少、従来型のフルバンキングサービスを備えた大型店舗の必要性は低下してきた。

 ただ、オリーブ以前は、それでも店舗がないと、新しい口座を獲得できないと言われていた。それが今は、オリーブを通じて口座開設をする顧客が増え続けている。

 一方で中島氏は、「デジタルのサービスでも、フィジカルのプレゼンスがないと浸透しない」と強調する。全国約400店舗のうち、約250店舗を商業施設内などに出店する業態「ストア」に転換する方針。

 三菱UFJ銀行、みずほ銀行とも店舗数を減らす方向で進めてきたため、両行とも全国で約320店舗と、三井住友銀行よりも少ない。三井住友銀行は店舗の数は減らさず、その中身を大型店から小型店へとシフトさせてきた。

 第2には「資産運用コンサルティング」。このビジネスは「極めて伝統的なビジネス」。グループ全体で約4000人のコンサルタントがいる。優秀な人材を集め、教育をして育成。

 その担当者が顧客に質の高いサービスを提供するというのが、従来のビジネスモデルだった。

 「これは今後、デジタルに変わっていくし、変えなければいけない。それは『オリーブ』の枠の中でやるのが一番いい」(中島氏)として進めているのが新たな資産運用サービス「オリーブコンサルティング」。三井住友FGとSBIグループとの合弁で会社も設立した。

 「オリーブがプラットフォームとして確立したからこそ、できる事業。この事業がうまくいけば、銀行の他のリテール(個人向け)ビジネスもオリーブに乗せていけば、結果としてデジタル化が進む。リテールビジネスを変えるドライバーとして位置づけている」

 また、オリーブを通じてSBIグループやソフトバンクなど、他社との連携も進んだ。「WIN・WINの関係になる提携提案を歓迎している。今もいろいろな方から『オリーブと一緒にやりたい』というご提案をいただいている」。今後もオリーブを軸に、新たな提携、新サービスを展開していく考え。

 今後のさらなる普及に向けては「お客様にとって『便利』な部分を常にレベルアップさせなければならない。競争に勝つためにサービスを拡充させる。そのために提携を活用する」

 オリーブは始めから、様々な事業者のサービスを取り込むオープンなプラットフォームとして構想されており、顧客のためになるサービスであれば取り入れるというコンセプトだけに今後も領域の拡大が続く。

 他の2メガバンクも個人向けサービスの充実を図っている。三菱UFJフィナンシャル・グループは個人向け金融サービス「エムット」を開始、みずほフィナンシャルグループは楽天グループとの提携を進める。他メガの動きをどう見ているのか。

 「我々も気を抜いていたら、どうなるかわからない。ただ、他の銀行グループがそれぞれ独自性のあるサービスを提供するようになってきたことで、その比較としてオリーブも注目され、プラスになっている」

 オリーブの提供開始は3年前だが、そこに至るまでの積み重ねも大きかった。その5年以上前から、三井住友銀行のアプリに資金を投じて、顧客にとって使い勝手のいいものにすべく取り組んでいた。

 また、グループの三井住友カードも、ビザとの提携の中で新たなサービス展開を進めてきた。この延長線上にオリーブがある。「このことは競争上の優位性となっている」

 AIとの共存をどう考えるか?

 三井住友FGのみならず、各メガバンクが試行錯誤を繰り返してきたのが中小の法人向けサービス。現状を打破すべく25年5月に提供を開始したのが法人向けデジタル総合金融サービス「Trunk」(トランク)。

 その特徴は、メガバンクで初めて、最短で翌営業日にはネット口座開設ができ、ネット銀行と同等の、業界最低水準の手数料で利用が可能であること。それ以外にもファイナンス、ビザと連携したビジネスカード、決済プラットフォ―ム、法人口座、経理のDX化を実現。

 「手応えを感じている。開始6カ月で2万5000口座を超えており順調」。当初はきちんと仕組みが回るかを確認しながらの「安全運転」が続いてきたが、その中でもこれまで取引のなかった企業との口座が開けていることに手応えを感じている。

 これまで、三井住友銀行などメガバンクはなかなか中小法人に経営資源を割くことが難しかった。それでも、この領域を開拓しようと、中小企業向け融資「ビジネスセレクトローン」を展開した時期もあったが、融資が焦げ付くなど苦い経験もした。

 だが今回は、課題だった与信も、テクノロジーの進歩で人手を要さずに見ることができるようになった。26年からは、さらなる機能の拡充を進め、いわば本格始動となる。

 また今、全産業的にAI(人工知能)をいかに活用するかが問われている。三井住友FGでも様々な分野の業務効率化の他、中島氏の考え方、発言を学習した「AI-CEO」を開発、社員が相談することで、経営の考え方に触れることができる。

 だが中島氏は「本当にやりたい、やっていかなければいけないのはビジネスモデルの変革。世界中の銀行グループが挑戦しており、まだ成功モデルには至っていないが今後、環境は相当変わってくる」

 AIに関するプロジェクトも40~50個が進行中で、生成AI投資枠として500億円を確保しているが、「まだトライ&エラーの段階。これを繰り返すことで、どのAIがいいのか、どの企業と組めばいいのか、我々にとって効果的なものは何かがわかってくる」と話す。

 海外戦略は 「意志ある踊り場」

 三井住友FGの海外戦略の現状はどうか。米国では、提携関係にある米大手投資銀行・ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループに追加出資し、持ち株比率を14・5%から最大20%に引き上げることを決めた。

 併せて、27年1月にはグループのSMBC日興証券が過半数を出資する形のジェフリーズとの合弁子会社、「SMBC日興ジェフリーズ証券」を設立し、日本株事業を統合する。

 またアジアにおいては、インドネシア、インド、ベトナム、フィリピンを対象国として「マルチフランチャイズ戦略」を展開している。だが今、中島氏はグループ内で海外戦略について「意志ある踊り場でいい」と伝えている。

 これまで日本がデフレ、低金利・マイナス金利で苦しんだ時期は海外事業が成長を牽引してきた。しかし今、日本経済が回復し、金利が付く世界が戻った。三井住友FGが厳しい時期にコスト削減など筋肉質な企業体質をつくったことを今、生かせる環境になってきた。

 「海外事業の規模は大きくなったが、収益性、ROE(株主資本利益率)では国内事業に見劣りする。このROEをどう上げていくかが課題。そのためにもビジネスモデルを変えていく」

 次期中期経営計画(26-28年度)の前半まで構造改革を進め、その後に再成長するというシナリオを描く。

 海外でのM&A(企業の合併・買収)についても「今は新規投資ではない」として、これまでの投資効果を最大化すべく取り組む考え。国内では攻め、海外では守りという両睨みでの経営が続く。