EYストラテジー・アンド・コンサルティングは1月28日、AIエージェント、デジタルマネー、フィジカルAI、量子コンピューターなど、企業活動の前提を大きく変えつつあるテクノロジーの潮流を整理し、今後の成長戦略および投資判断に向けた示唆をまとめたレポート「Next in Tech 2026」を公開した。同日には記者説明会を開催した。

レポートでは2026年におけるテクノロジーのテーマとして6分野を紹介しており、産業横断的なインパクトと社会的影響、技術成熟度などを基準に評価。6分野は「Agentic Web」「デジタルマネーが再定義する企業アーキテクチャ」「フィジカルAI」「自律型エンタープライズ」「顧客体験の再定義」「暗号の常識を覆す量子脅威」だ。

このうちAgentic Web、デジタルマネー、フィジカルAIについて、EYストラテジー・アンド・コンサルティング デジタル・エンジニアリング ディレクターの城田真琴氏が解説した。

Agentic Webとデジタルマネー - 自律型経済圏の基盤

はじめにAgentic Webとデジタルマネーについて、同氏は「レポートでは別々の分野になっており、関係ないような印象を持つかもしれないが、興味深い点としてAgentic Webによる自律型経済圏の中で一番フィットするものがステーブルコインだ」と述べた。

  • EYストラテジー・アンド・コンサルティング デジタル・エンジニアリング ディレクターの城田真琴氏

    EYストラテジー・アンド・コンサルティング デジタル・エンジニアリング ディレクターの城田真琴氏

まずは、Agentic Webから見ていこう。同氏によると、PC Web、Mobile Webに続く第3の転換点として、AIエージェントが主体的にWeb操作を担うAgentic Webの時代が到来するという。Agentic WebはAIエージェントが検索・購入・入力・認証など、従来はユーザーが担っていたあらゆる操作を自律的に遂行することを前提に再構築されたWeb空間を指す。

城田氏は「Webはあくまで人間が操作する空間だったが、AIエージェントが自律的に活動する空間に変化していく。ただ、当然ながら現状の仕組みでは実現できず、新たな仕組みが必要。具体的にはInterface Layer、User Layer、Economy Layerの3つのレイヤがある」と話す。

Interface Layerは人間向けに設計されたUIではなく、エージェント向けに設計された新しいインタフェースとなり、AIが目的(Intent)を直接やりとりする「Intent API」が鍵を握る。Intent APIはエージェントが意図を構造化データで明示的に伝える仕組みとなる。特徴としてはUI変更に強く、高速であり、意図と権限を記録できる点にある。

User LayerはHuman as UserからAgent as Userとして、エージェントがWeb上で“ユーザー”として振る舞うためには、人間と同様にID・認証・権限委任が必須となり、行動履歴が記録される必要がある。すでにMicrosoftの「Entra Agent ID」、Googleの「A2Aプロトコル」など、AIエージェントを人間の従業員と同様にビジネス上の主体として扱えるものが登場している。

Economy Layerは、AIエージェントがWeb上の取引を自動で完了させるようになることで、“人間のクリック中心”から“APIによる自律取引中心”へ移行するという。ここでは、エージェント同士が互いを探し出す仕組み(Agent Indexing)、行動ログを元にした信頼スコア(Trust Scores)、安全に決済できる標準プロトコル(Visa TAPやGoogle AP2)が必須となる。

  • Agent Webを構成する新たな仕組み

    Agent Webを構成する新たな仕組み

エージェント経済を支えるステーブルコインの必然性

これにより「AIが勝手に注文した」などのトラブルを防止するほか、決済手段としてステーブルコインが“デジタルネイティブな財布”として最有力となっているというわけだ。

理由としてはスマートコントラクトで自動実行でき、24時間365日で即時・低コスト、実行内容をブロックチェーンで監査可能なほか、1円以下のマイクロ決済に対応できるからだという。

  • デジタルネイティブな財布としてステーブルコインが最有力である理由

    デジタルネイティブな財布としてステーブルコインが最有力である理由

城田氏は「2030年に向けて、企業ではレガシー資産のIntent API対応などの『システム(API整備)』、AX(AIトランスフォーメーション)データの意図的な蓄積といった『データ/信用(デジタル信用の蓄積)』、KYAgent(Know Your Agent)規定の試験運用をはじめとした『組織/ルール(人間とエージェントの協働ルールの整備)』の3つの領域で準備を進めるべき」と提言している。

  • エージェント経済圏への適応に向けたロードマップ

    エージェント経済圏への適応に向けたロードマップ

フィジカルAIがもたらす“実行領域”の革新

続いてはフィジカルAIに関して。レポートでは、2026年にAIがデジタル空間だけでなく、これまで人手に頼らざるを得なかった“実行”の領域を担いはじめるという。城田氏は「フィジカルAI元年」と位置付けており、その要因として3つのポイントを示した。

1つはAI基盤モデルの進化であり、マルチモーダル処理能力の獲得で物理空間の状況を推定・把握できるようになり、次の行動の生成・選択を可能としている。VLA(視覚、言語、行動)や模倣学習で「見て覚える」が実現されつつある。

次にハードウェアの成熟と低コスト化を挙げており、ロボット本体やセンサ、アクチュエータの低コスト化、「身体」「五感」「筋肉」の技術革新、既存の機械設備にセンサ、高性能エッジAIチップを後付けする仕組みが登場している。

そして、最後は社会的要請だ。先進国の構造的な労働力不足やサプライチェーン強靭化の必要性、危険作業からの人間の解放と安全性の確保などがある。同氏は「これまでを実験フェーズとすれば、今年は社会実装に大きく舵を切るだろう」と予測している。

  • 2026年は「フィジカルAI元年」と位置付けている

    2026年は「フィジカルAI元年」と位置付けている

フィジカルAIの主要ユースケースと普及への壁

主なユースケースとしては、製造・物流においてAI搭載ロボットアームによる製造・組み立て(変種変量生産の実現)、自律型ロボットによる不規則な商品・荷物のピッキング、ドローン/AMR(自律走行搬送ロボット)による在庫の予知保全と棚卸しなどだ。

ヘルスケア・介護では転倒リスクを予測する見守りAI、ベッドからの起き上がりや車いすへの移乗を物理的に支援するロボット、小売り・サービスでは自律走行ロボットによる在庫スキャンと自動発注、外食産業における調理プロセスの一部代替、混雑状況を判断して最適ルートを選択する配膳ロボットなどを挙げている。

建設・インフラ管理では高所や危険地帯を自律的に点検するドローン・四足歩行ロボット、高解像度カメラ・センサによるインフラデータの収集と分析などへの適用が想定できるという。

  • フィジカルAIのユースケースと産業別インパクト

    フィジカルAIのユースケースと産業別インパクト

すでに、Boston Dynamicsの「Atlas」やSimbe Roboticsの「Tally 4.0」など、一部のフィジカルAIシステムは実用段階に到達している。

一方、フィジカルAI普及にはROI(投資利益率)算定の難しさなどの「経済合理性」、バッテリーや通信、責任問題をはじめとした「技術・安全性」、業務の再定義といった「組織文化」の3つが大きな障壁となる。

  • フィジカルAIの普及を阻む壁は3つに集約される

    フィジカルAIの普及を阻む壁は3つに集約される

しかし、AI推論プロセスの説明可能化や、既存設備のレトロフィットによるPX(Physical Transformation)など、克服に向けた技術も進展しているとのことだ。