2024年に引き続き、2025年もIT業界はAIの話題でもちきりだった。2025年は、プライベートでもビジネスでもAIが身近の存在となった一年だったといえよう。
個人向けのAIとしては、テキスト・画像・音声などを扱う「マルチモーダルAI」の実用化が進んだ。例えば、Googleの画像生成AI「Nano Banana」は性能の高さから注目されている。ビジネス向けのAIとしては、自律的にタスクを実行する「AIエージェント」が注目を集めた。
2026年になってもAIは衰えを見せることはなさそうだが、どのような進化を遂げるのか。ガートナージャパン ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏に話を聞いた。
2025年のAI市場予測の答え合わせ - 生成AI、AIエージェント、AGI
小誌では、昨年も亦賀氏に2025年のAI市場の予測について取材を行った(記事「ガートナー亦賀氏に聞く、2025年AI予測 - AGIがもたらすインパクトを洞察し産業革命に備えよ」はこちら)。その際、同氏は、AIに関わる2025年の予測として以下5点を挙げた。
- 生成AIはハイプ(お祭り)から幻滅期に移行する可能性
- AIエージェントはリアリティが試される
- AGI(Artificial General Intelligence:人工汎用知能)の先駆けが登場し、アーリーアダプターの感度はさらに高まる
- 多くのユーザーは、AI活用で成果を出すプレッシャーを受け、模索が続く
- AI共生時代が当たり前となり、AIを駆使できる人、組織、企業と、そうでないところのギャップが拡大する
せっかくの機会なので、これらの予測が実際にどうだったのか、亦賀氏に聞いてみた。
生成AIは幻滅期に移行したのか
同社は2025年8月、「日本におけるクラウドとAIのハイプ・サイクル:2025年」を発表した。これによると、生成AIに関連する「LLM (大規模言語モデル) プラットフォーム・サービス」「RAG」は幻滅期の境に位置している。本稿は発表から5カ月経っているので、幻滅期に差し掛かっていると解釈することもできる。
亦賀氏は、「ChatGPTの活用など、うまく使えている人は過度な期待をすることなくリアリティを見て生成AIを活用している。一方、成果が出ない人は幻滅してしまう」と話す。
そして、「生成AIはこれからが本番。しっかりとリアルに向き合いながら使いこなすことが大切」と亦賀氏は生成AIの今後の方向性を示した。
AIエージェントはリアリティが試されたのか
先にも書いたが、企業に関連したAIとしては、とにかくAIエージェントの注目度が高かった。ただし、本格活用できている企業はそれほどないように感じる。
亦賀氏は「1年前に見ていたAIエージェントとは様相が異なる」と指摘する。これはどういうことか。同氏は「AIエージェントはもっと単純な話だったが、だったが、今議論と実践されているAIエージェントは相当に複雑化、多様化している」と語る。
確かに、AIエージェントを実装する仕組みに関する説明を聞いていると、APIやら連携やら、簡単には行かなそうだ。もっとも、「前進したことには違いない。とらえにくくはなったが、新しいイノベーションの機運であり、活発になった結果」と亦賀氏はAIエージェントの動向を前向きに捉えている。
AGIの先駆けは登場したのか
2025年の初めにはちらほら耳にした「AGI」だが、2025年が進むうちに聞かれなくなってしまった。AGIはどのような状況にあるのだろうか。
亦賀氏は「AGIまだ明確に市民権は得られていない。入り乱れて進化しているが実態は見えない。また、それがAGIといえるかもわからない」と話す。OpenAIやGoogleはAGIの開発を進めているが。もともと、AGIの解釈は曖昧だという。
今後の展開について、亦賀氏は「この種のテクノロジーは一気に登場するというよりは、気づいたら進化しているもの。いわば、今は卵のような状態で、カオスを通り抜けた結果、登場するのでは」との見方を示した。
AI活用による成果に対するプレッシャー、ギャップはいかに
4番目と5番目の予測は近しい内容のものと言える。プレッシャーについては「大当たりだった」としながらも、「Microsoft CopilotやChatGPTなどを入れて、成果を上げている企業もいれば、そうでもない企業もあり、このあたりは企業によって分かれている」と亦賀氏は語る。
また、亦賀氏は「個人の生産性と組織の生産性は別物」と指摘する。生成AIによって個人の生産性が上がったとしても、組織の生産性向上に直結するとは限らない。「組織全体の生産性は今年のチャレンジとなる」と、同氏はいう。 さらに、「AIに限らず、まったく何もやったことのない人が新しいことを始めたからといって、すぐに結果は出ません。すぐに結果を求める人がいるからプレッシャーになる」と亦賀氏は語る。そして、「AIはあくまでもPeopleセントリックのために使うべき」と同氏は提言する。
「米国の大手企業が大規模な人員削減を行っている例が見られるようになっているが、あれがすべてではない。これをやると、人は追い込まれる。AIで筋肉質を進めすぎると、会社はボロボロになるかもしれない。極端な話、経営者だけが人で、残りはAIやヒューマノイドになるというシナリオも描けるが、これでHappyなのだろうか」(亦賀氏)
亦賀氏は「本筋はAIを使って人が元気に活躍する世界を作ること。元気な会社は経営者がメッセージを出している」と話す。
2026年、フィジカルAIは来るのか?
2025年の終わりから、NVIDIA、ソフトバンク、日立製作所などが相次いでフィジカルAIについて発表を行い、盛り上がりを見せた。ガートナーは、フィジカルAIについて「物理的なデバイスにインテリジェンスを融合させ、複雑なタスクを自律的に実行できるようにする技術」と定義しており、「ロボット、ドローン、スマート・デバイスなど、現実の環境を検知・理解・行動するマシンやデバイスを強化し、現実世界にインテリジェンスをもたらす」ものとしている。
ロボットと言えば、日本のお家芸の一つともいえ、日本企業の活躍を期待したいところだ。ただし、中国はヒューマノイドの大会を実施するなど、一歩先を行っている。
亦賀氏は「日本はロボットへの取り組みの手法を変えなければいけない」と指摘する。「今までメカニカルの視点で取り組んできたが、AIの視点でビハインドしている。本質的に競争力のあるAIをどうするかを決めなければいけない。これは武器のようなスーパーパワー(想像を絶するテクノロジー)になっているため、自社で作るか、それとも他社から調達するかは相当に大きな意思決定が求められる」(同氏)
加えて、亦賀氏は「他社から買った技術をそのまま導入すればいいという話ではない。育てて継続して進化させる。今は厳しい時だが、それを理解して腰を入れて取り組まなければいけない。今こそ勝負の時」とも話す。
AIをチャンスに世界の土俵に立て
亦賀氏は、「歴史を振り返ると、日本は常に弱かったわけではない。きっちりと状況を認識してアップデートすればいい」とアドバイスする。実際、トヨタは世界の新車販売台数で世界首位を維持している。
そして、亦賀氏は「戦い方をよく考える必要がある」と話す。「現在、『産業革命』『デジタル戦争』という状況にあり、大局的かつ戦略的に動く必要がある。競争という認識を持たなければいけない」と同氏。
さらに、亦賀氏は「AIはつくったものが勝つ。だから、動くものをつくらなければいけない。ないものをつくって市場をつくる必要がある」という。
しかし、今の日本は世界競争、時代変化への対応と言う意味で大きくビハインドしている。それは、「日本がエンジニアリングを軽視した結果」と、亦賀氏は語る。
「日本では手を動かす人が下位レイヤーに入ってしまう。ITエンジニアも米国などと比較して十分な報酬を得ているとは言えない。日本では手を動かす人が報われない。今まで目先の利益ばかりを追求し、モノを自ら生み出すことを軽視してきた。その結果、ソフトウェアは特に新しい能力が失われた」(亦賀氏)
では、どうすれば日本は世界で戦えるようになるのだろうか。亦賀氏は「日本はハードウェアとソフトウェアがバラバラだが、これらをシームレスに連携する必要がある。それには、マインドセットを変えなくてはいけない。江戸末期のように、すべてをリセットするくらいの変化が求められている」とアドバイスする。
そして、「生成AI、エージェントは時代の変化をとらえるきっかけとなっている。AIが当たり前の時代に自分の能力を再点検して再定義する。それができる人は生き残ることができる」と亦賀氏はいう。
米国、中国が国を挙げて、AIに投資している。これが何を意味するのかを考え、会社といった小さな枠組みを越えて、AIというテクノロジーを武器に戦っていく必要があるといえるだろう。
