2025年はIT業界にとって明確な転換点となった年と言える。生成AIは実験的な導入フェーズを越えて本格的な実装フェーズへと移行し、日常のソフトウェア開発業務に深く組み込まれ始めている。Googleが10月に公開した2025年版DORAレポートによると、調査対象となった約5,000人の技術専門家の90%がすでに業務でAIを活用しているという。この数字は2024年から14ポイントの上昇である。

  • 技術専門家の90%がすでに業務でAIを活用している 出典:2025年版DORAレポート

    技術専門家の90%がすでに業務でAIを活用している 出典:2025年版DORAレポート

このレポートからも分かるように、AIはもはや一部の先進的チームだけのものではなく、すべての開発者にとっても無視できない前提技術となっている。本稿では、開発者視点で2025年に注目を集めたAI関連ニュースを整理する。

AIコーディングツールの爆発的普及

2025年、開発者に最も強く影響を与えたのはAIコーディングツールの進化だろう。AI支援機能を組み込んだ開発ツールは、もはや多くの開発者にとって不可欠な存在となっている。Stack Overflowの「2025 Developer Survey」では、84%の開発者が開発プロセスでAIを使用しているか、使用を計画しており、47%は毎日これらのツールを使っていると回答した。主要なツールとしては、Cursor、Claude Code、Windsurf、GitHub Copilotなどが台頭し、AIを活用したIDE(統合開発環境)の市場が急速に拡大した。

  • 84%の開発者が、開発プロセスでAIツールを使用しているか、使用を計画している 出典:2025 Developer Survey

    84%の開発者が、開発プロセスでAIツールを使用しているか、使用を計画している 出典:2025 Developer Survey

特徴的なのは、「バイブコーディング」と呼ばれた自然言語中心のラフな開発スタイルから、「エージェンティックエンジニアリング」と呼ばれるタスク分解型の開発スタイルへ進化しつつある点だ。バイブコーディングとは、自然言語でやりたいことを記述してAIにコードを生成させる手法を指す。

今年前半にこの手法が注目を集めたが、後半になるとより構造化された「コンテキストエンジニアリング」や、複数のAIエージェントを協調させる「エージェンティックエンジニアリング」へと発展した。これを後押ししたのがClaude Codeや、OpenAIのCodex CLI、Gemini CLIといったコーディングエージェントの登場だ。AIはコード補完だけでなく、テスト実行や修正の反復まで、複雑なタスクを自律的に行えるように進化している。

この進化と並行して注目を集めたのが「仕様駆動開発(Spec-Driven Development)」である。仕様駆動開発では、コードを書く前にまず仕様(Specification)を定義し、それを「信頼できる唯一の情報源」として扱うことで、AIによる成果物の品質のばらつきや保守性の低さを改善する。ツールとしては、GitHubのSpec Kit、AWSのKiro、JetBrainsのJunieなどがこのアプローチを採用している。

AIコーディングツールの導入によって、多くの開発者が生産性の向上を実感している。DORAレポートでは80%以上の開発者がAIにより生産性が向上したと回答し、59%がコード品質の改善を報告している。一方で、AIツールへの信頼度には課題が残っている。Stack Overflowのレポートでは、AIの出力を信頼する開発者は33%にとどまり、46%は積極的に不信感を示している。AIが生成したコードのデバッグに従来以上の時間がかかるという回答も45%あった。

若手開発者への影響も深刻だ。ジュニア開発者が担っていた基礎的な実装をAIが代替できるようになったことで、今後は若手開発者の雇用が減少する可能性があると指摘されている。ツールを使いこなす力と、基礎的な原理を理解する力の両立がこれまで以上に重要となっており、開発者の教育にも新たなアプローチが求められている。

コーディングモデルの進化

AIコーディングツールの進化の背景には、基盤となるLLM(大規模言語モデル)の急速な高度化がある。2025年時点では、汎用モデルとコーディング特化モデルの境界が曖昧になり、実務で使える品質が標準化しつつある。

代表的な汎用モデルとしては、GPT-5系、Claude 4系、Gemini 3系などが挙げられる。これらはコード生成だけでなく、設計意図の理解、テストコード生成、既存コードの読解と改善提案まで一貫して対応できる点が強みだ。特にコンテキストウィンドウの拡大によってコードベース全体を前提とした修正指示が可能になったのは大きな変化と言える。

一方で、独立したコーディング特化モデルも大きな存在感を示している。各ベンダーが汎用モデルの派生版としてコーディング特化モデルも積極的に展開し始めているほか、Qwen 3 CoderやDevstral 2、GLM-4.7のような独立系のコーディングモデルも大きく進化している。

AIモデルの進化は日進月歩であり、もはや最も高性能なモデルを選ぶことは開発者にとってそれほど重要ではなくなってきている。重要なのは、汎用モデル、派生コーディング特化モデル、独立系特化モデルを目的に応じてどう組み合わせるかだ。最近では、IDEやAPIによってモデルの切り替えを簡易化していることも多く、開発者は細かなモデルの差を意識せずに済むようにもなってきている。

MCPが業界標準へ

2025年はModel Context Protocol(MCP)の普及も業界に大きなインパクトを与えた。AIエージェントの相互運用性を確保する標準規格として2024年11月にAnthropicが提唱したこのプロトコルは、「AIのUSB-C」とも呼ばれ、AIモデルと外部ツールやデータソースを標準的に接続する仕組みを提供する。今年に入ってOpenAIやGoogle DeepMindなどが続々とMCPを採用しており、業界標準への道が大きく開かれた。

  • MCPの概念図 出典:Anthropic

    MCPの概念図 出典:Anthropic

そして12月、AnthropicはMCPをLinux Foundation傘下の新団体「Agentic AI Foundation(AAIF)」に寄贈した。AAIFはAnthropic、Block、OpenAIが共同設立した組織で、Google、Microsoft、AWSなどの主要ベンダーもプラチナメンバーとして参加している。

開発者にとって、MCPの普及はきわめて大きな意味を持つ。AIモデルとAIツールが大量に登場したことで、これらを利用するシステムではN個のAIモデルとM個のツールを個別に統合する「N×M問題」が発生していた。MCPを共通のハブとすることによってこのN×M問題が大きく緩和される。IDE、Slack、GitHub、データベースとの連携も比較的容易になり、エージェント開発の敷居は大幅に下がった。

2025年は「AIエージェント元年」となるか

さまざまなレポートが、2025年は「AIエージェントの年」と位置づけている。McKinseyが11月に公開した「The State of AI: Global Survey 2025」では、105カ国1,993人を対象とした調査で、62%の組織がすでにAIエージェントの実験を開始しており、23%が少なくとも社内のどこかでエージェント型AIシステムを採用済みだと回答している。PwCが5月に公開した「AI agent survey」でも、79%の企業がすでにAIエージェントを採用しており、導入企業の66%が生産性向上を実現したと報告している。

ただし、好意的な評価ばかりではない。先に挙げたMcKinseyのレポートでは、約3分の2の組織がいまだにAIエージェントは実験または試験段階にとどまっており、エンタープライズ全体でスケールさせている企業は約3分の1に過ぎないと伝えている。Gartnerは、6月に公開したレポートで、2027年末までにエージェンティックAIプロジェクトの40%以上が中止されると警告している。原因はコストの増大、ビジネス価値の不明確さ、そしてリスク管理の不備だという。

「エージェント・ウォッシング」と呼ばれる問題も発生している。これは、本質的なエージェンティック機能を持たないにもかかわらず、既存のAIアシスタントやRPAなどを単に「AIエージェント」と呼び替えてリブランディングする傾向を指す。これらのプロダクトは本来AIエージェントが備えるべき自律性を持たないため、導入しても期待する効果が得られない可能性がある。

いずれにしても、現在のAIエージェントはまだ発展途上であり、人間なしに複雑な判断や長時間のタスクを遂行する能力は限定的だ。過剰な期待は避け、適切な範囲で活用する姿勢が求められる。

まとめ

2025年は、AIが開発者が使用する日常のツールとして定着した年だった。コーディングツールの普及、AIモデルの進化、MCPによる標準化、エージェンティックAIへの期待など、さまざまな要素がソフトウェア開発の常識を塗り替えようとしている。

2026年はこの流れがさらに加速する可能性が高い。開発者にとっては、AIを最大限に活用しながらも、その限界や信頼性を常に意識し、適材適所で使い分ける能力が必要だ。また、AIが基本的なコーディングタスクを代替する時代では、問題の明確化、アーキテクチャー設計、AIの出力を評価・修正する能力などがますます重要になってくる。引き続き最新動向のキャッチアップを継続し、変化に適応していく姿勢が求められる。