ノーコード業務アプリ開発ツール「kintone」などを手掛けるサイボウズは10月27日~28日の2日間、幕張メッセ(千葉県 千葉市)で年次イベント「Cybozu Days(サイボウズデイズ)」を開催した。2025年は記念すべき10年目の開催となる。

2024年のテーマ「ノーコードランド」からさらにパワーアップし、今年は「ノーコードAI(アイ)ランド」へと変わったことからもうかがえるように、展示内容はまさに"AI目白押し"となった。本稿では同イベントの基調講演より、サイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏と、関西電力の理事でIT戦略室長を務める上田晃穂氏との対談をレポートする。

  • (写真左から)サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏、関西電力 理事 IT戦略室長 上田晃穂氏

    (写真左から)サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏、関西電力 理事 IT戦略室長 上田晃穂氏

揺らがないDXを実現するために重要な要素

基調講演のステージに登場した上田氏はまず、DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速して成果を出し続けるために必要な要諦として、以下の8つを紹介した。

1.危機感の共有と好奇心をベースに機会を捉える
2.顧客志向
3.ワクワクするビジョンを描く
4.課題×デジタル=価値→成果→成長・変革
5.AIは良い「データ」を浴びて成長する
6.DXを「実行」できる人材の育成
7.安心して挑戦・失敗できる組織風土を戦略的に作りこむ
8.強力な両利きのリーダーシップ(変革型 / 共感型)

これらのうち、青野氏が注目したのが、3つ目の「ワクワクするビジョンを描く」だ。これに対し上田氏は「ワクワクは未来への原動力であり、未来への架け橋である」と解説。

関西電力はデジタル技術によって競争優位性を築くことを目的に、2018年よりDX推進を開始した。2030年に向けたDXビジョンおよびロードマップを策定したほか、2025年6月にはOpenAIとの連携を開始。「AIファースト企業を目指している」(上田氏)という。

上田氏はAI活用のスタイルを陸上競技に例えて、「日本の伝統的な企業のスタイルはフルマラソンの走り方に似ている。ゴールやコースを事前に設定し、ペースを守りながら走り切るようなもの」だと紹介した。対して関西電力が目指すのは、100メートル走を422回走るようなスタイルだ。走る距離は同じでも、ゴールや方向性を見直しながらより本質的な目的に近付くアプローチとなる。

  • 日本の伝統的な企業と関西電力が目指すAIファースト企業の比較

    日本の伝統的な企業と関西電力が目指すAIファースト企業の比較

これと同時に、同社ではDXが目的にならないよう、「DXはあくまで中期経営計画を達成するための手段」であると伝えているという。DXを建物に例えると、人材やデータ、セキュリティはDXの基礎・土台となる。その上で事業部やオフィス業務のDXが実現される。

さらに重要なのは、建物の土台を築く土壌だ。いくら頑丈な建物であっても、軟弱な地盤の上では沈んでしまう。企業においては組織風土が土壌に相当し、安心して挑戦し、安心して失敗できる組織風土があるからこそ、関西電力ではDXに関する取り組みが進められるのだという。

  • 企業のDXと建物づくりの模式図

    企業のDXと建物づくりの模式図

AIは良い「○○」を浴びて成長する

青野氏は続いて、有効なAI活用を促す要素について上田氏に質問。上田氏は会場の参加者に対し「草花は良い水と光を浴びて成長する。人は良い言葉を浴びて成長する。では、AIは何を浴びて成長するのだろう」と問いかけた。

「8つの要諦」として紹介してしまったが、その答えは「良いデータ」である。AIは鮮度と精度の良いデータで学習することで、より良い成果につながる。

関西電力では良いデータを収集するため、社内にデータマネジメント通達(社内規定)を提示した。上田氏が自らデータ管理者になり、各事業部門にデータスチュワードを配置した。

データスチュワードとは、企業のデータを責任を持って管理し、品質を確保する担当者だ。各事業部門でデータのニーズを検討し、どこにデータがあってどのように活用するのかを考える役割を持つという。

「データがあるから分析するのではなく、目の前のビジネス課題を解決するためにはどのようなデータが必要なのか仮説を立てて収集する必要がある。そのために大事なのはデータのニーズ管理」(上田氏)

  • 関西電力 理事 IT戦略室長 上田晃穂氏

ビジネスの課題を良く知っているのは現場の社員であるため、各事業部門にデータスチュワードを配している。データスチュワードはデータマネジメントに関する研修を受けた上で、安全かつ柔軟なデータ利活用を進めている。

  • 関西電力ののデータマネジメントの全体像

    関西電力のデータマネジメントの全体像

関西電力が挑戦するDX人材育成と人事制度の同軸化

データスチュワードの育成から、話題はDX人材の育成と活用へと移った。上記の8つの要諦の中では、「6.DXを『実行』できる人材の育成」に相当し、戦略やビジョンを示して満足するのではなく、成果を出せる人材になることを意図して、「実行」と表現されているそうだ。

関西電力のDX人材戦略では、「タテの一貫性」と「ヨコの整合性」を重視しているという。タテの一貫性とは、ミッション、ビジョン、バリュー、事業戦略、DX戦略、組織風土が一貫していることを示しており、ヨコの整合性とは組織、DX人材戦略、人事制度の整合性が取れていることを示している。

ヨコの整合性が取れていないと、せっかくDXスキルを磨いて実行しても、評価されずに給料が上がらないといった状態になってしまう。

  • 関西電力のDX人材戦略の全体像

    関西電力のDX人材戦略の全体像

ヨコの整合性を確保するために、関西電力ではDX人材像を定めて目標人数を決定し、具体的な研修などの施策を実行している。この際に参考にしたのが、情報処理推進機構(IPA)などが定めるDSS(デジタルスキル標準)だ。

同社はDSSをアレンジし、スキルやマインドセットを定義したDX人材戦略を策定。求める人材像や習熟度に応じて必要な施策として、全31講座の研修コンテンツを提供している。

具体的な人材像としては、デジタル技術を用いて新サービスを開発する「デジタル新規事業・サービス創造人材」、ビジネス課題をDXで解決できる「ビジネス変革人材」、データを用いて課題を解決する「データ活用人材」に分けられる。それぞれの役割について育成目標人数を定め、実務経験を通じたスキルアップを支援する。

  • DX人材育成の施策例

    DX人材育成の施策例

こうしたスキルアップを人事制度に反映するため、同社が現在注力するのは、評価・報酬制度だという。社内外の表彰制度を利用してスキルを自信に変え、さらなるやる気ややりがいにつなげている。

上田氏は「将来的には関西電力のDXの取り組みと評価・報酬制度が社外にも伝わり、学生や社外の方が関西電力に興味を持ってくれるポジティブなフィードバックサイクルにしていきたい」と語り、対談を結んだ。

  • 社内外の制度を利用した評価制度を整備中だという

    社内外の制度を利用した評価制度を整備中だという