グローバルに展開する金融機関のHSBCは9月25日(現地時間)、アルゴリズム債券取引における問題を解決するために、現在の量子コンピュータが持つ潜在的価値について、世界初となる実証的証拠を発表した。

実証の概要

社債市場では、アルゴリズム取引が顧客からの価格提示依頼(RFQ)に対して、リアルタイムの市場状況やリスク評価をもとに自動的に価格を提示する。これにより、トレーダーは複雑な取引に集中できるが、こうした要素の複雑さが予測精度の限界となっていたとのこと。

今回の研究では、量子プロセッサ「IBM Heron」を活用し、欧州社債市場における実際の商用規模の取引データを用いて、提示価格で取引が成立する確率を予測。古典的手法では捉えきれない市場データのノイズの中に潜む価格シグナルを、量子コンピューティングが効果的に抽出できることが示された。

両社の共同実験では、現在の量子コンピュータが店頭取引市場における価格提示依頼(RFQ)を最適化できるかを検証。店頭市場では、債券などの金融資産が中央取引所や仲介業者を介さずに当事者間で取引される。

同プロセスでは、アルゴリズム戦略や統計モデルが、提示価格で取引が成立する可能性を推定。両チームは、IBMの複数の量子コンピュータ上で、実際の商用規模の取引データを用いて、欧州社債市場における顧客問い合わせの成約確率を予測した。

IBMとの共同研究により、量子と古典の計算資源を組み合わせた手法が、提示価格で取引が成立する確率の予測精度を最大34%向上させることが確認されたという。

今回の結果は、金融サービス業界が直面する動的な課題に対して、量子コンピュータを統合することで得られる価値を示しており、古典コンピュータのみを用いた標準的手法よりも優れた解決策を提供できる可能性も示しているという。

実用化に一歩前進

HSBC Group Head of Quantum TechnologiesのPhilip Intallura氏は「これは債券取引における画期的であり、世界初の成果だ。現在の量子コンピュータが現実のビジネス課題を商用規模で解決し、競争優位性をもたらす具体的な事例が得られた。量子コンピューターが進化するにつれて、この優位性はさらに拡大していくだろう。われわれは量子技術の短期的な応用に執念を持って取り組んできた。今回の実験が現在の量子ハードウェアで好結果を示したことから、量子コンピューティングが金融サービスにおける新たな地平を切り開こうとしていると確信している。これは遠い未来の話ではない」とコメント。

米IBM フェロー 兼 IBM Quantum バイス・プレジデントのジェイ・ガンベッタ氏は「この刺激的な取り組みは、専門領域の深い知識と最先端のアルゴリズム研究が融合し、古典的手法の強みと量子コンピュータが提供する豊かな計算空間が組み合わさることで、何が可能になるかを示している。こうした研究は、量子コンピュータのスケールアップに伴い、産業を変革する新たなアルゴリズムと応用を解き明かすために不可欠だ。コンピューティングの未来が形作られていく中で、重要な役割を果たすだろう」と述べている。

量子コンピューティングは、量子力学の法則を用いて情報を表現・処理する新しい計算分野であり、古典的システムではアクセスできない、指数関数的に広く動的な空間を活用する。これにより、量子コンピュータは、最も強力な古典的スーパーコンピュータでも単独では解けない問題を解決できる可能性を持つ。

今回のケースでは、IBM Heronが古典的な計算ワークフローを補完し、HSBCが従来使用していた古典的手法よりも、ノイズの多い市場データに潜む価格シグナルをより効果的に解明することができ、債券取引プロセスにおいて改善をもたらしたという。

量子コンピューティングは、量子力学の法則を用いて情報を処理する新しい計算分野であり、スーパーコンピュータでも解けない問題に挑むことができる。IBMの量子コンピュータはクラウド経由で利用可能であり、オープンソースの量子ソフトウェアスタック「Qiskit」も提供されている。

今回の成果は、量子コンピュータが金融サービス業界において、実用的かつ競争力のあるソリューションを提供できる可能性を示す重要な一歩になったとのことだ。