三菱UFJフィナンシャル・グループ社長・亀澤宏規の「強靭な金融力でAIも活用し、新事業領域の開拓を!」

米トランプ政権・高関税策によって世界経済秩序が揺さぶられ、また、AI(人工知能)の登場で経営領域も変革が迫られている中で、『金融』の果たすべき使命と役割とは何か─。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の亀澤宏規氏は、「金融として、しっかりした力を持っていないと、選ばれなくなる時代が来ている」という認識を示す。そして「わたしたちは日本で一番大きな金融機関なので、この環境変化の中で日本の成長をつくっていく使命があると思っています」と語る。これまで米国のほか、アジアへの拠点整備を進めてきており、アジアの成長も取り込んでいく戦略。また、AIをも活用した総合金融サービス『エムット』を6月に開始。2026年度後半には、本格的な”デジタルバンク”を設立、事業を開始する計画。「デジタルとリアル(対面)の融合を図っていく」考え。さらに大企業とスタートアップの協業で新事業を掘り起こす『事業共創投資』も推進。グローバル、内需両面で成長を図る亀澤氏の基本哲学とは─。

日本最大の金融機関として新しいサービスを!

「金融としては、しっかりした基盤を持っていないと、選ばれなくなるという時代が来ると思います」

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長、亀澤宏規氏は世界中が混沌とした状況の中、一方でデジタル化や生成AI(人工知能)の登場で世の中がガラリと変わる時代にあって、金融の使命と役割についてこう切り出し、次のように述べる。

「MUFGとしては、日本で一番大きい金融機関なので、この変化の中で日本の経済をつくっていき、日本の成長をつくっていくという使命があると思っています。またグローバルな会社なので、グローバルな変化潮流にはしっかりとついていって、われわれとしての役目を果たしたい」(インタビュー欄参照)。

 亀澤氏は1961年(昭和36年)11月生まれで63歳。東京大学理学部数学科を卒業、東大大学院理学系研究科を修了したあと、1986年(昭和61年)に三菱銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ)に入行。

 2020年にMUFGの取締役代表執行役社長に就任。5年余が経つ。氏は入行以来、39年余が経過。約40年の金融人生を振り返って、新しい仕事の開拓にチャレンジする人生で、「はい、新しいことばかりやってきました(笑)」と自認。

 その亀澤氏は今年に入って、2026年度後半には本格的なインターネット事業の『デジタルバンク』を開業する計画を発表。

 ビッグデータとAIの人工知能を駆使して、一人ひとりに合った資産運用を提案していくほか、グループ共通のポイントサービスを導入して、個人客を囲い込む戦略に打って出た。例えば、個人向けの総合金融サービス『エムット』(6月2日開始)がそれである。

 傘下に銀行、信託、証券、カード、消費者金融と一気通貫の金融機関を持つMUFG。銀行の口座数約4000万と日本最大規模を誇り、個人預金も約90兆円と個人顧客とのつながりが深い中で、デジタル技術やAIを活用して、新しい個人向けの総合金融サービス『エムット』をスタートさせたということ。

 AIなどの最先端技術を活用し、グループ一体で顧客の取り込みを図るというもの。

 このために、MUFGは昨年、ロボットアドバイザーによる個人資産運用サービス会社『ウェルスナビ』を買収して完全子会社化、今年はネット証券の『auカブコム証券』を完全子会社化して、『三菱UFJeスマート証券』に社名変更したりしてきている。

 デジタルとリアル(対面)のいいとこ取り、融合を進めていくという方向性を亀澤氏は明示し、「大体、基盤整備は終わった」として、これから攻めの時代に入るという認識を示す。

 他のメガバンク、例えば三井住友FGはPayPay(ソフトバンクグループ)と提携しての総合金融サービス『Olive(オリーブ)』を先行して展開。また、みずほFGはネット証券の楽天証券や楽天カードに出資し、『楽天経済圏』に接近を図っている。

 三井住友、みずほの他社との連携と違って、MUFGの場合はあくまでも自社グループでサービスを展開するという自前主義の戦略。

「MUFGの強さはネットワークの強さにあります。金融というか銀行が強いので、このネットワーク力を使って、個人、企業向けに様々なサポートをしていきたい」と亀澤氏は語る。

 

人とAIが一緒に仕事をする時代に

 何より、AIが登場し、生活領域にも浸透してくる時代。モノの思考がAIに取って替わられ、〝思考の外部化〟、つまり人の劣化が起こるのではないかという懸念もある。

 このことについて亀澤氏は、「人がシステム、AIと一緒に仕事をするという世界が来ると。なので、今われわれは、我が社をAIネイティブな会社に変えようという取り組みをしています」と次のように続ける。

「AIと一緒にするときの指示の出し方とか、指示の受け方みたいなものは、当社の中の意思決定メカニズム、それに替えておかないといけない。その取り組みをやっと始めています。これが10年後には、そういう世界になっていないといけないので、今からそれをつくっていくと」

 そうした戦略を担うのは『デジタル戦略統括部』。DX(デジタルトランスフォーメーション)の到来以前は「機能がバラバラだった。AIとデータを別の部でやると非効率なので、デジタル戦略統括部で両方やっていく」と亀澤氏は語り、さらに続ける。

「機能がバラバラの時は、お客様も住宅ローンを借りようと思ったら、銀行に行くし、証券で投資をしようと思ったら証券会社に行くというふうに、自分が分けて対応しておられたんですけど、今はもうアプリでネット上で全部できるというようになりました」(インタビュー欄を参照)。

 各機能を横につなげて、一つのパッケージでいろいろなニーズが満たせる『エムット』を例証に亀澤氏はデジタルバンク時代の到来を強調する。

エムット

〝唯一無二〟の金融集団をつくり上げるまでの航跡

 2005年(平成17年)10月に三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが合併して今の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が発足して、今年は20周年に当たる。

 MUFG発足時、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ証券も誕生し、銀行、信託、証券会社を傘下に持つ総合金融サービスを担うホールディングス(持ち株会社)になった。

 金融界は1990年代初頭のバブル経済崩壊の中で苦闘し、2000年代初頭までに再編成を繰り返してきた。2000年代初頭には、三菱UFJの他、三井住友FGとみずほFGのいわゆる3メガバンクが誕生。

 金融界は日本経済再生という社会課題解決を担う中で、自らの金融変革も強いられ、グローバリゼ―ションの中で自らがどう生き抜くか、さらには最近のデジタル化、AIの活用にどう対応していくかという課題を抱えてきた。

 そうした再編が起き、MUFGが誕生して20年後の現在の金融業界の状況を数値で捉えると、どうか─。

 2025年3月期の業績は純利益でMUFGが約1兆8629億円、三井住友FGが約1兆1780億円、みずほFGが約8854億円。MUFGが他の2つのメガバンクを大きく引き離している。

 MUFGは今期(2026年3月期)に初の2兆円超えとなる純利益を目指す。資金量はMUFGが約300兆円と三井住友FG(約180兆円)、みずほFG(約200兆円)を引き離す。

 個人との関わりにおいても、個人口座数4000万、個人預金90兆円、住宅ローン残高14兆円と、圧倒的な国内基盤・日本一を誇る。

 亀澤氏が、「MUFGとしては、日本で一番大きな金融機関なので、この変化の中で日本の経済に貢献し、日本の成長をつくっていく使命がある」と語るのも、同社にこうした経営基盤があるからだし、その経営基盤をグローバルな潮流変化に対応させ、有効活用しなければならないという問題意識からである(インタビュー欄参照)。

 亀澤氏は、先述の通り、理学系の出身。当時、理学系の金融機関への入社は珍しい時代。デジタル企画や関連会社のGlobal Open Network社長、会長を務めるなど、新領域の開拓に努めてきたという経歴。

 

 金融機関に職を得て今年は40年目に当たる。これまで再編やグローバル化とデジタル化などの職務にチャレンジしてきた経験を生かし、MUFGの将来ビジョンをどう描いていくのか─。

日本の成長をつくっていく!

 日本の成長を創っていく─。亀澤氏は、〝日本一の金融集団としての使命として、この命題を掲げる。

 今、日本は〝失われた30年〟から脱却し、インフレ率2%程度の成長軌道を確実に実現できるかどうかの大切な分岐点にある。グローバルには米トランプ政権の高関税策があり、世界経済減速の懸念もある中で、どう日本再生、日本経済の成長を図るかという命題を日本は抱える。

「日本がこのような課題を抱える中で、われわれも金融として、どういうソリューションができるのか」という亀澤氏の問題意識である。

 日本経済の再生だけではない。そういう状況下、MUFGが年間約2兆円近い純利益をあげる態勢を構築できた背景には、米投資銀行・モルガン・スタンレーとの戦略的提携がある。

 同社は2008年、モルガン・スタンレーとの戦略的資本提携に踏み切った。2008年といえば、世界的な金融危機、リーマン・ショックが起きた年。リーマン・ブラザーズが破綻し、米有力投資銀行のモルガン・スタンレーも苦境に立たされた。

 MUFGはこの時、モルガン・スタンレーに約90億ドル(当時の為替相場で約9000億円)を出資し、同社の危機を救う役割を担った。また日本の金融界全体が再興を目指している段階で、体力は疲弊している時でのMUFGの決断であった。

 この決断を行ったのは当時の三菱東京UFJ銀行頭取を務めていた、永易克典氏(1947―2021)であった。

 三菱UFJフィナンシャル・グループのトップはこの永易氏(社長在任は2010年から2013年)の後、平野信行氏(1951年生まれ、現三菱UFJ銀行特別顧問)が務め、この後、三毛兼承氏が2019年から1年間社長を務めた。その後、亀澤氏が2020年4月に社長に就任、現在に至る。

 永易氏がリスクを取って、モルガン・スタンレーへの出資を決断し、それを平野氏らが支え、また当時若手の亀澤氏らが現場で支えてきた。

 こうやって、MUFGが2兆円の純利益を上げるほどの高収益態勢を築き上げてきたことについて、「個人の功績云々ではなく、三菱が人の集団としての力を発揮した好例」と某金融関係者は語る。

 同社はいろいろな専門性を持つ人材を集め、その集大成としてリスクを勘案しながら、新事業領域開拓にチャレンジしてきたという金融関係者の見立て。

混沌とした今、これからの新事業領域の開拓は?

「わたしたちは、事業共創投資という仕事を始めています。宇宙分野や半導体のラピダスなどにも出資してきています」と亀澤氏は先述の事業共創プロジェクトについて語る。

 取引先の企業と共に、事業リスクを負いながら新事業や産業の創出を目指すという〝エクイティ投資〟である。エクイティ(資本)を投じる形での新事業領域の創出を担う『事業共創投資部』の創設。新事業領域の開拓では、『ネットワーク力』がキーワードである。

 先述のように、同社は米モルガン・スタンレーとの戦略的資本提携に踏み切り、日本国内では三菱UFJモルガン・スタンレー証券を2010年に設立(出資比率はMUFG60%、モルガン・スタンレー社が40%)。

 モルガン・スタンレーは見事に立ち直り、グローバルな投資銀行として、ゴールドマンサックスと共に投資銀行の双璧を成す。そのモ社との提携で、投資銀行部門や関連部門がMUFGの大きな収益源になっている。

 投資銀行は、預金機能を持たず、取引先企業に対して、証券引受や発行を通じて資金調達を行う。これに対して、銀行は預金を集めて、融資を行い、それに伴う金利収入を得るというビジネスモデル。

 MUFGは、このモルガン・スタンレーとの提携によって、内外での投資銀行業務のノウハウを蓄積していったということ。

 この投資銀行業務では、銀行系証券会社を持つみずほフィナンシャルグループも強い。みずほは社債発行ではモルガン・スタンレーなどと鎬を削る。この領域での内外での競争はこれからも切磋琢磨が続きそうだ。

 日本経済の成熟化に伴って、今後の成長を図るには、海外市場での成長機会取り込みも不可欠。そういう認識の下、MUFGは2010年代の前半から、海外での事業拠点づくりに本格的に着手。

 2013年にはタイ国の大手商業銀行・アユタヤ銀行(現地呼称・クルンシィ)を子会社化。ベトナムのヴィエティンバンクと資本・業務提携を結んだ。

 2016年には、フィリピンのセキュリティバンクと資本・業務提携。2019年にはインドネシアのダナモン銀行を子会社化、さらには豪州のFirst Sentier Investorsを子会社化とM&Aを矢継ぎ早に実行。

 こうして、米国とアジアの成長を取り込み、引いては米国、アジアの成長を糧に自分たちの新事業領域の拡大につなげていくという同社の戦略である。

日本で圧倒的、アジアでもナンバーワンの基盤

 MUFGがスタートして、今年は20周年。この20年を振り返って、どういう思いなのか?

「やはり、極めて他にない唯一無二の金融グループになっているなと思います。それは何かというと、グループ力が強くて、グローバルも強くてということなんですが、ユニークなポートフォリオ(事業構成)で、日本国内で圧倒的に強いと。

 アジアでもナンバーワンの金融機関になっています。またモルガン・スタンレーとの提携があり、アメリカのマーケットでもわれわれのプレゼンス(存在感)が高まっています」と亀澤氏も手応えを感じている様子(インタビュー欄参照)。

 現実に収益力を見る数値でもROE(自己資本利益率)は8月14日時点で9・29%と高い(ちなみに三井住友FGは8・02%、みずほFGは8・57%)。

 ひと頃、ROEは8%以上が収益力の高い企業とされたが、最近は10%以上のレベルが良いとされる。同社も高収益企業域に達してきているということ。

 亀澤氏は、「足元で構造改革をやってきて、収益の額もいつもより大きくなってきました。2兆円の収益(純利益)でROE10%のレベルに到達するところまで来たので更に頑張りたい」と自らを鼓舞する。

 ちなみに、市場のマーケットの評価を見るPER(株価収益率)は13・7倍(三井住友FGは12・12倍、みずほFGは11・64倍)。

 また、株価が割高か割安かを示すPBR(株価純資産倍率)は1倍以上が良いとされるが、MUFGは1・28倍と他グループより高い(三井住友FGは1・09倍、みずほFGは1・12倍という数値)。

 日本企業の時価総額ランキングでは1位トヨタ自動車(45兆円強)に続き、MUFGは28兆6487億円と2位につけている(ちなみに3位のソニーは26兆円強、4位のソフトバンクグループは24兆円強、5位の日立製作所は19兆円強、6位の任天堂は18兆円強となっている)。

 金融界では三井住友FGが16兆円強で7位、みずほFGが12兆円強で16位というポジション。

 産業界では、今年4月、経団連会長に日本生命保険前会長(現特別顧問)の筒井義信氏が就任。また現実の事業基盤力で、MUFGが時価総額ランキングで2位の座を保持するなど、金融界の存在感が高まる。

 それだけ、日本再生、引いてはグローバルに経済の中で『金融』の果たす使命と役割が重くなってきていることの反映でもあると言える。

まだ2合目、3合目『先義後利』の生き方を

 これまで20年の事業構造改革を振り返って、「最初の3分の1でモルガン・スタンレーとの戦略的提携をやって基礎ができ、次の3分の2の真ん中の所でアジアへの展開ができた」と亀澤氏は総括。

「デジタル投資も相当増やしてきて、ポートフォリオを塗り変えてきたし、ユニークな唯一無二の組織ができつつあるということですね」

 亀澤氏は、未来の世代への責任と自覚しながらいうことも自覚しながら、「ここから10年、20年後という視点でいくと、それはまた来年のことにも絡むんですけど」と次のように語る。

「やはり、われわれはパーパス(存在意義)をつくって、世界の力になるパーパスを持って、10年後にはそれを体現している会社になっていたいと思います」

『先義後利』─。

〝義〟を先にして、〝利〟は後にする。つまり、人として企業として、道理・道義などを重んじ、社会(公=おおやけ)のためになる生き方をしていれば、利益は後から付いてくるということ。この『先義後利』の考え方、生き方を大事にしようと亀澤氏は訴える。

 もっとも、物事は全て順調に進むわけではない。

 2024年には銀行と証券会社間の『ファイアウォール違反』が起きた。利害相反の防止のため、銀行と証券間には情報の隔壁(規制)が設けられているが、これに違反する行為がMUFGグループ内で発生。同社は法令順守違反を認め謝罪。

 一方で、銀行と証券の連携で「自分たちの投資をサポートしてほしい」との個人の要望も強い。法令順守の中で、どうサービスを充実していくかという課題。

 また、元銀行員が貸金庫内の顧客の資産を窃取する事件も発生。貸金庫の在り方を巡って論議も高まった。いずれにせよ、信用・信頼をつなぎとめるためのシステム再構築が不可欠。

「まだまだ2合目、3合目だと思います。これからが勝負だと思うのでやるべき事をやっていくと。そのためには人事制度も変えて、みんなが手を挙げて、自分が次に行きたい所を希望するやり方とかですね。チャレンジへ向けて結構みんなのメンタリティも変わり、成長してきたと思います。やはり人材が鍵です」

「変化の時代、もはや上意下達で組織が動くのは無理」という亀澤氏の金融改革への挑戦だ。