データの利活用が期待したような成果に結び付いていないとしたら、その理由はどこにあるのか。AIコンサルタントのマスクド・アナライズ氏は「その背景には『3無い問題』がある」と話す。そのうえで、データの利活用を成功させるためには3つのステップ、生成AIを活用方法には3つの型があり、組織は「3つの立場から3方向に変革すべきである」と言う。

8月26日~29日に開催された「TECH+フォーラム データ活用 EXPO 2025 Aug. データを実装し、ビジネスを駆動させる時代」に同氏が登壇。“3”をキーワードに、データと生成AIの利活用を成功に導く方法について語った。

データの利活用が進まない背景にある「3無い問題」

講演冒頭でマスクド・アナライズ氏は、3年前にChatGPTが登場した当時、生成AIが生産性や省力化などの課題を全て解決するものとして期待されたが、現在のところ必ずしもそうはなっていないと指摘した。その理由として同氏が挙げたのは、データがない、データ基盤が整備されていない、データをまとめる人がいないという「3無い問題」だ。まずデータがなければ分析もできないしAIも使えない。データベースがあっても基盤が整備されなければ利用できない。またそれを主導して解決する人材がいなければ状況は進展しないのだ。

ではなぜこのようなことになるのか。同氏はこれを三国志に例えて、魏、呉、蜀の3国と同じように、データ分析や生成AIの推進派、反対派、無関心という3つの勢力が対立しているからだと説明する。三国志の「三顧の礼」のように実績のある外部の人材を迎えるのも有効だが、その前に、志を持つものが結束した「桃園の誓い」のように、まず社内の意思を統一しなければならない。同氏が取材した大手家電量販店では、外部から人材を招聘してデジタル専門チームを立ち上げたが、社内の意思統一ができていなかったために、その人材は短期間で辞めてしまったそうだ。

データの利活用成功のための3ステップ

データの利活用を成功させるためにマスクド・アナライズ氏が提案するのは、知る、使う、落とすという3つのステップだ。これは、生成AIやデータ分析、データ基盤を理解し、理解したものを業務で使うことでノウハウを蓄積し、さらにそれを個人と部門に落とし込みながら全社へ展開するという考え方である。

  • データの利活用を成功させるための3つのステップ

    データの利活用を成功させるための3つのステップ

「知る」ためには勉強が必要だ。同氏が「信頼できる情報をまとめて学べる」として推奨するのは本を読むことだ。根拠や信頼性に乏しいSNSの情報を追う必要はないし、高額な教材や怪しいセミナーにも注意したい。

重要なのは次の「使う」ステップだ。使ってみれば、生成AIで何ができるか、自分の業務にどう役立つのか、あるいは役に立たないのかが分かる。ここで注意すべきは、常に最新情報にアップデートすることだ。例えばChatGPTは登場時からここまで飛躍的に進化し、精度も向上している。最新のものを業務で使用し、ノウハウを獲得することが重要なのである。

「落とす」には、雷を落とすという意味もある。上層部が「データ活用すべし」と雷を落とすように命令することで意思統一を図る。プロジェクトチームを立ち上げるなど、経営者が明確に意思を示して“幕を切って落とす”のも重要だ。そしてデータの利活用を業務に落とし込むことも必要で、業務で腹落ちするまで試せばさまざまな発見がある。生成AI活用の可能性や予算が分かれば具体的な計画に落とし込むことができ、会社のプロジェクトとして進めることも可能になる。

こうした3つのステップを踏んでデータの利活用を全社に展開した例としては、ダイハツ工業がある。同社では「小さく始めて大きく広げる」というコンセプトの下、まず興味や実力に合わせた幅広い社内研修を用意して知ることから始め、現場の要望から課題を集めてAIの事例をつくり、DX推進室を立ち上げて幕を切って落とすことで社内に広めた。その結果、品質検査や工場の水質予測と浄化薬品量、ロボットの異常検知といった、AIをもっとも効果的に活用できる業務を見つけ出した。

「3つのステップを意識すれば、皆さんならではのAIの活用計画を立てられるようになります」(マスクド・アナライズ氏)

生成AI活用を「3つの型」と「6つの系統」で考える

実際の生成AIの活用方法は、「3つの型と6つの系統がある」とマスクド・アナライズ氏は言う。生成AIで何をしたいか、目的を当てはめるのが「型」だ。AIが人間の代わりをするものは「代行型」、人間でもできるがAIの能力のほうが上回るものは「強化型」、そしてルールや規則に従うのが「自動型」だ。この3つの型を考えれば、生成AIでできることをイメージしやすくなる。

そして6つの系統は用途、つまり生成AIにできることを当てはめて考える。何かを調べる「調査系」、資料や文章などをつくる「生成系」、質問に回答する「対話系」、ミスを調べる「チェック系」、データや文章を分析する「分析系」、そしてプログラムを生成する「プログラム系」の6つが、現在生成AIにできることだ。これらの型と系統を組み合わせることで、業務の改善につながる。

  • 生成AI活用のための3つの型と6つの系統

    生成AI活用のための3つの型と6つの系統

意思統一のために「3つの立場」で「3方向に変革」

組織を変革して意思統一をするには、3つの立場で3方向に変革することが重要だ。3つの立場とは経営者、管理職、現場のことで、変革のためにそれぞれが異なる方向に動くのだ。経営者は、管理職や現場がデータ活用しやすい環境をつくるために、トップダウンで会社の文化を変えていく。管理職は、部署間の連携をとり、複数の現場と組織をつなげるために部門間の連携をとる。そして現場がすべきことはボトムアップ、つまり下からの突き上げだ。上がつくった環境のなかで成果を出し、「もっと活用すべきだ」と上に対して変化を促すのである。

「異なる立場が3方向から会社を変えることで文化がつくられて、データ分析や生成AIを使いこなせる環境につながります」(マスクド・アナライズ氏)

社内だけで課題を解決できないこともある。そのときに思い出すべき言葉が「三人寄れば文殊の知恵」だ。社内外のさまざまな立場の人と意見交換し、社外の事例も参考にする。そして必要に応じて外部の人材の登用も検討すべきだ。外部の人間なら、第三者の視点からしがらみにとらわれない活動が期待できるからだ。

「3無い問題」を解決し、2つの三角形をつくる

こうしてデータ分析や生成AIを活用する環境が整ったとしても、やはり「3無い問題」は解決しておかなければならない。そのうえ、「この解決は以前より容易になっている」とマスクド・アナライズ氏は話す。データ収集や基盤の整備については、現在多様な製品やサービスが登場しており、技術の進歩によって手間も費用も以前ほどかからなくなっている。始めることが容易になっているため、まず小さく始めてから広げていけば良い。人材については、社内での人材育成と外部からの招聘で対応するしかないが、これについても最近はさまざまな外部サービスを利用できるようになっている。

「以前に比べるとハードルが下がってきていますので、『3無い問題』はぜひ解決していただきたいのです。これを解決しないと生成AIもデータ分析も始まりません」(マスクド・アナライズ氏)

最後に同氏は、こうした取り組みの成功のカギになるのは「組織と技術、2つの三角形をつくること」だと話した。組織の三角形とは、経営者、管理職、現場の3つがそれぞれの立場の違いを乗り越え、組織全体が一丸となって取り組むということを指す。そして技術の三角形は、データ、AI、ノウハウの3つの要素全てが重要であり、1つも欠けることがないように取り組むということだ。

  • 組織の三角形

    組織の三角形

  • 技術の三角形

    技術の三角形

「組織と技術における三角形という一体感がなければ、生成AIもデータ活用も進みません。出社したら、この三角形をどうつくるかを考えて、実行してください」(マスクド・アナライズ氏)