Broadcom傘下のVMwareは2025年8月26日(米国時間)、年次イベント「VMware Explore 2025」において、「Tanzu Platform 10.3」と「Tanzu Data Intelligence」を発表した。
同社は「両サービスの活用により、企業はデータからAIアプリケーションまでを一貫したプラットフォーム上で開発・運用できるようになる。従来サイロ化されていた開発・データ環境を統合し、次世代のアプリケーション開発基盤を実現できる」としている。
アプリ・データ・AIを統合する「Tanzu」の新サービスとは
Tanzuはアプリケーション開発、データサービス、AIサービスを統合的に提供するプラットフォーム群。企業がプライベートクラウドやマルチクラウド環境でモダンアプリやAIアプリを迅速に開発・運用できるよう設計されている。今回発表された両サービスはVMware Cloud Foundation(VCF)9.0上で動作し、「vSphere Kubernetes Services」を基盤技術として採用している。
Tanzu Platform 10.3は、ライフサイクル自動化やマルチクラウド対応に加え、エンタープライズレベルのセキュリティと管理機能を備える。最大の特長は、従来の仮想マシン環境とクラウドネイティブアプリを統合的に扱える点だ。Tanzu部門のプルニマ・パドマナバン(Purnima Padmanabhan)氏は「私たちの使命は、顧客のアイデアをコードに変え、それを迅速に本番環境に届けることです」とアップデートの意義を語った。
AI導入は加速しているものの、成果を出せる企業は限定的だ。調査会社Gartnerは2024年7月、「2026年までに実施される生成AIプロジェクトの30%は、データ品質やリスク管理の不備によりPoC段階を超えられない」と予測している。一般的に「企業データの80~90%は非構造化データ」とされ、データ活用のハードルが高いことも指摘されている。
パドマナバン氏は「6カ月前まではAI専門家や機械学習エキスパートがAIアプリを構築していました。しかし今の課題は、『JavaやSpring Bootで書かれた既存の退屈な企業アプリに、いかにAIを組み込むか』という点です。開発者とデータ担当者が分断され、フレームワークや技術スタックの違いが障壁となっています」と指摘。そのうえで「AIをメインストリーム化するには、既存資産の活用と、アプリ・データ・AIを統合したスタックが欠かせません。勝者となる企業は、統合スタックを前提に安全性とガバナンスを徹底できる組織なのです」と強調した。
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VCF 9.0に統合された「vSphere Kubernetes Service」の全体像。CNCF準拠のKubernetesランタイムと標準パッケージ(Harbor、Prometheus、Istioなど)を基盤に、マルチクラスタ管理やデータサービスを提供。その上でTanzu PlatformやサードパーティPaaSを展開できる
既存Java資産を使い倒す「Tanzu Platform 10.3」
アプリケーション開発基盤の「Tanzu Platform 10.3」は、企業が持つ既存のJava資産を活用しながら、AI機能を簡単に統合できる仕組みを提供する。Tanzu Platform 10.3では「Spring AIフレームワーク」が統合された。これにより開発者は新しい技術を覚える必要がなく、これまで使ってきたJava環境のままAI機能を組み込める。チャットボットやAIモデル連携といった機能も、慣れ親しんだJava APIで利用できる。
Broadcom Tanzu事業部 製品管理・マーケティング部門責任者のバート・トーマ(Burt Toma)氏は「開発者がAIコードを書く際、企業のルールに合っているか、適切な技術を使っているかを自動チェックする機能も重要です」と説明した。一時的なコードではなく、長期間使い続けられる品質を保つためだ。
新機能「Tanzu Platform Marketplace」では、開発チームが作ったAIツールを他のチームと共有できる。「あるチームが開発したAIエージェントを、他のチームも活用できる仕組みです」とトーマ氏。AIの利用状況やコストも一元管理できるため、企業全体で安全にAIを運用できる。
またセキュリティ面では、開発者の作業を止めずに安全性を確保する「ガードレール機能」を搭載した。古いライブラリや脆弱性のあるコードを使おうとすると、開発環境が即座に警告し、修正方法を提示する。トーマ氏は「開発効率を落とさずに、セキュリティを向上できます」と、安全性を強調した。
トーマ氏はAIを含むモダンアプリを「マイクロサービスの集合体」と位置づけた。「アプリもAIも、最終的にはマイクロサービスの一部です。私たちはそれを統合的にオーケストレーションすることで、プラットフォーム全体に責任あるAI運用を組み込んでいます」と述べ、Tanzu Platform 10.3の戦略的意義を語った。
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Tanzu Platform 10.3で実現する開発者の自律性とIT部門の統制。開発者はGitやVS Codeを用いて迅速にアプリを展開でき、IT部門はセキュリティポリシーや利用状況を統制・監視しながらサービスを提供できる
オンプレ環境でAI活用を加速する「Tanzu Data Intelligence」
もう1つの柱となる「Tanzu Data Intelligence」は、GreenplumやGemFireといった技術を基盤に構築されたデータレイクハウスである。構造化データと非構造化データを統合的に管理でき、数テラバイト規模から50ペタバイト規模までシームレスに拡張可能である。さらに、フェデレーテッドクエリにより、複数環境に分散したデータを単一のSQLで横断的に検索できる。
技術的な独自性として挙げられるのが、フェデレーテッドクエリシステムだ。これによりレイクハウス内部のデータに限らず、外部に存在する多様なデータソースにも統一的にアクセス可能となる。また、データ取得や変換を制御するワークフローオーケストレーション、インメモリ処理によるトランザクション対応、コンテナベースの動的なコンピューティングスケーリングなど、包括的なデータ処理機能を標準で備えている。
特徴的なのは、オンプレミス環境において「コスト予測可能性」を確保できる点である。パブリッククラウドの従量課金モデルではコストの変動が大きく、長期的な見通しを立てにくい。一方、Tanzu Data Intelligenceはプライベートクラウド基盤上で統一的なインタフェースを提供し、データ主権やコンプライアンスを維持しつつ、AIアプリケーションへの活用を可能にする。この特徴は実務面でも重視されており、トーマ氏は次のように語った。
「開発者にデータを解放する際には、ガバナンスやセキュリティを効かせながら、コスト予測可能性を確保することが欠かせません。私たちは自動化されたガードレールを組み込み、スピードと安全性を両立できるようにしています」(トーマ氏)
さらに、Tanzu Data Intelligenceはストリーミングデータを取り込む際にベクトル化を行い、取り込んだデータをリアルタイムでAI推論へ活用できる機能を備えている。ベクトル化したデータはデータウェアハウスに保存され、さらにキャッシュされることで素早く取り出せるようになる。その結果、アプリケーションでの推論処理が高速化され、チャットボットの応答や商品レコメンドといったリアルタイム性が重要なAI機能を実現できる。
さらに、Tanzu Platformと連携することで、コンテナやバッチ処理の実行環境としても利用できる。これにより、データの処理からアプリケーションの実行までを一つの流れとしてまとめて管理できるようになる。トーマ氏は「リアルタイムアプリやエージェント型アプリを支えるには、データを安全に製品化し、全体を統合的に運用できる基盤が欠かせない」と述べている。

