サントリーは8月26日、大阪工場「スピリッツリキュール工房」の自動化に関する説明会を実施した。

ジンをはじめとするスピリッツ・リキュールの原料酒を製造する同工房は、従来の2.6倍に生産能力を拡大するとともに、原料取り扱い工程の大規模な自動化を実現。原料取り扱い作業にかかる時間を約3分の1に短縮し、年間で約2000時間の作業時間の削減を見込んでいる。

  • 新スピリッツリキュール工房の自動化について説明する、サントリー株式会社 大阪工場 工務部門設備グループ 高橋 大輔氏(左)と、サントリーホールディングス株式会社 グローバル技術戦略推進部 部長 澤﨑 純一氏(右)

    新スピリッツリキュール工房の自動化について説明する、サントリー株式会社 大阪工場 工務部門設備グループ 高橋 大輔氏(左)と、サントリーホールディングス株式会社 グローバル技術戦略推進部 部長 澤﨑 純一氏(右)

「自然の恵み」を生かすものづくり

サントリーのものづくりの基盤にあるのは、水や農作物といった自然の恵みへの敬意だ。その価値を最大化することで、安全・安心、美味、健康、豊かさを備えた商品を生み出し、顧客の喜びと幸せに貢献してきた。

同時に、従業員の成長や働きがい向上のため、製造方法や業務の変革も進めている。自然の恵みを生かした原料を用い、品質の安定や業務効率化を図ることで改善時間を生み出し、さらなる価値の追求につなげる。そのために、生産技術に加え、ロボティクス技術やデータ活用技術などの先端技術について、積極的に取り組んでいる。

今回の自動化は、効率化とともに“美味品質”の向上に向けて開発者と現場技術者の連携を深めることが期待されている。

  • 「自然の恵み」を価値に変え、安全・安心で高品質な商品を提供し続けることを目指すサントリーのものづくり

    「自然の恵み」を価値に変え、安全・安心で高品質な商品を提供し続けることを目指すサントリーのものづくり

100年超の歴史を持つ大阪工場

1919年に建設された大阪工場は、現存する最も歴史のある工場だ。創業者・鳥井信治郎が「日本で洋酒文化を創造したい」「世界に誇れる国産の製品を作りたい」との志で事業を始めた。

主要製品は、創業期に大ヒットし工場建設のきっかけとなった「赤玉ポートワイン」。100年以上経った今もなお大阪工場で造られている超ロングセラーブランドだ。

大阪工場はサントリー唯一の原料酒製造プラントであり、西日本全体に瓶製品を供給する重要拠点でもある。工場のシンボル「信治郎像」は、赤玉ポートワインを掲げ、一歩を踏み出す姿がデザインされており、サントリーのDNAである“やってみなはれ”精神を象徴している。

  • 1919年創設のサントリー大阪工場。創業者・鳥井信治郎の志と“やってみなはれ精神"を象徴する存在

    1919年創設のサントリー大阪工場。創業者・鳥井信治郎の志と“やってみなはれ精神"を象徴する存在

新たなスピリッツ・リキュール工房とは

スピリッツ・リキュール工房は、ジュニパーベリーや柚子、レモンピールなど多彩な素材を浸漬・蒸留し、製品の味の決め手となる「キー原料酒」を製造する施設だ。サントリーのジンをはじめ、多くの製品に欠かせない存在である。

新工房では、浸漬タンクを8基新設し、蒸溜器4基を更新して機能を向上させた。これによりジン原料酒の生産能力は約2倍、工房全体の生産能力は2.6倍へと拡大している。

さらに、建屋内には開発担当部署を併設し、開発と現場の技術者が密接に連携できる体制を整えた。今後は、製品の試しづくりができる「パイロットディスティラリー」の新設も予定されている。

新工房が目指す姿は、現場技術者が重筋かつ単純な作業から解放され、開発者と連携しながら“美味品質"を追求できる状態を実現することだ。そのために原料取り扱いの自動化に挑戦し、工房の設計においても工夫が凝らされている。

例えば、製造の流れを高い階層から低い階層へと構築することで、浸漬タンクへの原料投入や、タンクから蒸留窯への移動を、重力を利用して行えるようにしている。

  • 新設されたスピリッツ・リキュール工房。生産能力は従来の2.6倍に拡大

    新設されたスピリッツ・リキュール工房。生産能力は従来の2.6倍に拡大

原料ハンドリングの全工程を自動化

今回特に注目されるのが、製造プロセスの最初にあたる原料ハンドリングの自動化だ。従来は保管から投入までをすべて人の手で行っていたが、新工房ではこれをロボットや自動搬送機(AGV)に置き換えた。

原料は上位システムの指示で自動出庫され、AGVが搬送。搬送先ではロボットが荷下ろしから開梱までを担当する。冷凍原料は高周波解凍設備で適温に戻され、その後、開封と容器への移し替え工程へ。容器に移し替えられた原料は、重量測定やAIカメラによる外観チェックを経て、合格したものだけがAGVで投入ロボットへ搬送され、自動的に浸漬タンクに投入される。空容器は回収後、自動で洗浄・乾燥される。

このように、保管から投入までをシームレスにつなげる、まさに“一気通貫の自動化”が実現した。

  • ロボットがジュニパーベリーを袋から取り出す様子

    ロボットがジュニパーベリーを袋から取り出す様子

こうした“一気通貫の自動化”を支えているのは、「柔軟性」と「品質保証」という2つの技術的な柱だ。

まず「柔軟性」。クラフト袋、バケツ、段ボールなど多様な梱包形態に対応し、サイズの違いや歪みをカメラ画像で自動検知。最適なカット経路を生成することで、個体差に左右されない開梱を実現している。さらに、こうした多様な梱包に対して専用設備を増やすのではなく、同じロボットで対応できるよう設計されており、限られたスペースでも効率的な自動化を可能にした。

続いて「品質保証」。原料表面の撮影データをAIが解析し、色や異物を検知。加えて、揮発物質の測定によって腐敗の有無を判断し、人と同等以上の感度で品質チェックを行える仕組みを備えている。

  • 新工房の原料取扱フロア。AGVとロボットが連携し、自動化が進む

    新工房の原料取扱フロア。AGVとロボットが連携し、自動化が進む

今後の展望としては、まず自動化設備への理解を深め、安定した稼働を実現することを最優先とする。

その上で、自動化の対象をより多くの原料や他工程へ拡大していく方針だ。さらにサントリー全体としても、新規技術の探索と開発を加速させ、得られた成果をアップデートしながら自動化の範囲を広げ、国内外の拠点へ展開していく考えだ。

  • 大阪工場の展望。安定稼働を最優先に、自動化対象の拡大や他工程への技術展開を目指す

    大阪工場の展望。安定稼働を最優先に、自動化対象の拡大や他工程への技術展開を目指す

  • サントリーグループ全体の展望。新技術の探索と開発スピードを高め、国内外の拠点への展開を目指す

    サントリーグループ全体の展望。新技術の探索と開発スピードを高め、国内外の拠点への展開を目指す