ハローキティに代表される自社IPを基に、物販事業、ライセンス事業、テーマパーク事業、エデュテインメント事業など多彩な事業を展開するサンリオ。同社は、顧客エンゲージメントプラットフォームとして「Sanrio+(サンリオプラス)」を立ち上げ、顧客データの活用とファンエンゲージメントの向上に取り組んでいる。

7月23日~24日に開催された「DCSオンライン×TECH+セミナー 2025 Jul. リテールDX データとITで変革する、顧客体験と店舗運営」に同社 デジタル事業本部 デジタル事業開発部 CX推進課 顧客体験プラットフォーム戦略推進担当の田口歩氏が登壇。Sanrio+を中心とした顧客エンゲージメント向上のための取り組みについて説明した。

独自の非財務指標「サンリオ時間」とは

講演冒頭で田口氏は、サンリオが「サンリオ時間」と呼ばれる非財務指標を設定していることを紹介した。同社は「みんな仲良く」という企業理念の下、あらゆる時間に笑顔というエンターテイメントを届けることを目指している。その達成度を測るため、キャラクターIPがファンに寄り添った時間を計測したものが「サンリオ時間」であり、これを少しでも増やすためにさまざまな取り組みを行っているという。

  • サンリオ時間の概要

またサンリオは、今後10年間の長期ビジョンとして、グローバルIPプラットフォーマーを目指すことも発表している。従来の内製開発によるキャラクターIPに加え、今後は他社のIPも同社が培ってきたIPビジネス基盤上で活用することを構想。その実現に向け、海外でのキャラクターIPの露出拡大、自社製以外のIPを扱えるビジネスプラットフォームの構築、そしてファンやパートナー企業とのエンゲージメント強化に取り組んでいる。

ファンの熱量を高めるエコシステム・Sanrio+

キャラクターIPの魅力を高め、ファンとのエンゲージメントを強化するための取り組みがSanrio+だ。これは「スマイル」と呼ばれる全社共通のポイントを介した顧客体験のエコシステムである。店頭のPOSデータやアプリの利用ログ、顧客のWeb行動データなどをCDPに集約し、顧客とのダイレクトなコミュニケーションを実現することを目的としている。このSanrio+について田口氏は、「ファンの熱量を高めるエコシステム」であると表現する。顧客がさまざまなかたちでスマイルポイントを獲得し利用するという行動を通じて、商品の割引購入や景品交換のほかにも、同社のテーマパークであるサンリオピューロランドへの優先入場やデザイナーサイン会、オンラインイベントへの参加など、多様な体験によってファンの熱量を高めることを目指している。現在、Sanrio+のID数は280万で、85%が女性、そして20代から40代が4割を占める。2020年7月の立ち上げ以降、広告は出稿せずにオーガニックな成長だけで、ここまで順調に拡大してきているそうだ。

  • Sanrio+の概要(© 2025 SANRIO CO.,LTD. 著作 株式会社サンリオ)

Sanrio+が単なるポイントシステムと異なるのは、キャラクターとのエンゲージメントが重視されている点だ。例えば会員証のデザインは、同社の22キャラクターから好きなものを選べるため、ファンは会員証を開くたびに自分の好きなキャラクターと出会い、笑顔になれる。また、貯めたスマイルポイントはクーポンに変換でき、チケット割引やイベント申し込み、テーマパークの優先入場券、寄付などに利用できる。クーポンを利用できる店舗には全て電子スタンプを導入しており、クーポンの消込時にスタンプを使うことで、かわいらしいキャラクターの印影を提供する。こうして顧客に体験を提供する一方で、電子スタンプを使うことでクーポンの利用履歴データを収集できるというわけだ。

電子スタンプを活用したスタンプラリーも実施している。店舗やイベントでスタンプを集めると、電子壁紙などの特典がもらえる。また、店頭の人気商品である「サンリオ当たりくじ」をスマホアプリで再現したインスタントウィン、寄付によってもらえるオリジナルのアイコンなど、Sanrio+ではサンリオの体験を楽しみながらポイントを活用する仕組みを数多く用意している。

特別な体験を強化するための取り組み

Sanrio+を通じて、商品購入者以外のユーザーともつながることができ、さまざまなデータを可視化できるようになった。その一方で、新たな課題も見えてきたという。こうした顧客接点での関与を高めるだけでは、とくにライトなファン層のロイヤリティ向上には必ずしも直結しないというのだ。

「メールなどでコミュニケーションをとればよいということではありません。データから見えてきたのは、お客さまがよりブランドに愛着を持っていただけるような『特別な体験』を強化すべきだ、ということでした」(田口氏)

そこでECサイトやピューロランドなどのID統合を進めるとともに、昨年からはコンテンツの強化やロイヤリティ向上を強く意識しながら新たなサービスの開発に取り組んできた。その1つが、コンテンツサービスである「Sanrio+ マイページ」だ。アクセスするたびに、キャラクターが365日朝昼晩、全て異なるメッセージで問いかけをしてくれる仕組みをつくり、カジュアルゲームやクイズなども用意。キャラクターがダイレクトに顧客に寄り添う体験を提供している。

田口氏が「ロイヤリティプログラムとしてとくに重要な取り組み」だと話すのは、2024年11月からスタートした「ハートあつめ」と呼ばれるアクションベースの会員ランク制度だ。同社のファンは、購買頻度の高い層と、頻度は少なくともキャラクターへの熱量が高い若年層に二分化される傾向がある。そのため、購買額に応じてランクが決まる一般的な制度では、後者の熱量を正しく評価するのが難しい。そこで、アンケートへの回答、サンリオピューロランドへのチェックイン、メールマガジンの登録といったアクションによって「ハート」が集められる制度を設計した。ハートを集めることでステージが上がり、特定ステージ限定の会員証デザインが使えたり、限定のサイン会に応募できたりするなどのインセンティブも用意した。

「こうした仕組みを使って、お客さまの熱量を上げるきっかけにしています」(田口氏)

さらに、ファンの投票でキャラクターのランクを決める全社イベント「サンリオキャラクター大賞」との連動も行っている。例えば、昨年まで店舗で行われていた商品購入でもらえるチップを店頭什器に入れて投票するアナログ方式を、Sanrio+上で投票するデジタル方式に変更し、投票者にはデジタルキャラクターカードをプレゼントする企画を実施。また、結果発表を兼ねたファンイベント「SANRIO FES」の入場券もSanrio+会員限定の抽選で入手できるようにするなど、キャラクター大賞に関連するさまざまなイベントをSanrio+に結び付けている。

「トライブ」に基づいてファンを育成

今後は、Sanrio+を活用することでさらなる顧客接点の拡大を狙う。例えば、ゲーム事業や昨年450万人が訪れたメタバース上のイベント「Sanrio Virtual Festival」、クリエイターとのキャラクターIP協創プラットフォーム「Charaforio」など、今後も多様なプロジェクトでSanrio+との連携を構想している。

サンリオの事業において、ファンを育成することは重要な課題だ。田口氏は「はっきりした答えはまだ見つかっていない」としつつ、同社が共通の興味や価値観を持つ集団を意味する「トライブ」に基づいたアプローチでファンの育成に取り組んでいると説明した。「新しいものに敏感なトレンドウォッチャー」、「とにかくカワイイものが好きな層」、「子どもや友人などの影響でファンになった層」、「“推し活”が趣味のファン」という4つのトライブにファンを分類し、トライブごとにファンになった動機やカスタマージャーニーを分析。そしてそのきっかけとなるものをSanrio+のコミュニケーションに埋め込んで提供していくことで、新たなファンを育み、既存ファンとのエンゲージメントをより深化させていく考えだ。

「Sanrio+はまだ発展途上ですが、こうした大きな設計図に基づいてさらに進化させていきます」(田口氏)

  • サンリオ時間の概要