三井不動産が進める「半導体プラットフォーム」戦略の姿とは?

1980年代に世界を席巻した「日の丸半導体」。だが、米国との摩擦、台湾や韓国の台頭などを受けて凋落した。それを今、有力企業の誘致や、政府の支援による新会社設立などで復活の道を探っている。そんな中で、企業の枠を超えてイノベーションを生む仕掛けが必要とされている。その1つが、三井不動産が主導して設立した「RISE―A」。企業だけでなく学会、半導体ユーザーも集う、これまでにない「場」。この新たな場を生かすことができるか。

 サプライヤーとユーザーが融合することで…

「半導体は世界の潮流で『水平分業型』に変わってきている。役割分担が進んでおり、リスク分散、フレキシビリティがもたらされているが、コアとなる技術が生まれにくく、日本のオリジナルを生み出す時に難しい問題がある」─

 こう話すのは、名古屋大学教授で未来材料・システム研究所未来エレクトロニクス集積研究センター長の天野浩氏。天野氏は2014年に青色発光ダイオード(LEDD)の研究でノーベル物理学賞を受賞した人物の1人。

 2025年7月16日、三井不動産は天野氏を理事長とする一般社団法人「RISE―A」を設立したことを発表した。

 この団体は現在、日本の国家的課題となっている「半導体」の産業創造に向けて、設計・製造を担う企業だけでなく、活用するユーザー企業や官や学、支援する人たちによって「エコシステム」を構築することを目指している。

 天野氏は「サプライヤーとユーザーが融合することで、新たな価値創造ができるのではないか」と期待を語る。業界の様々な関係者が集うことで、知識や資金、人材、素材など様々なものが「融合と循環」(天野氏)することで、新たな価値が生まれるのではないかということ。

「私達は単なる不動産開発にとどまらず、産業の成長を支える場と機会を提供することで社会全体の発展に寄与することを目指している」と話すのは、三井不動産常務執行役員イノベーション推進本部長で、RISE―A副理事長の山下和則氏。

 三井不動産は16年に、歴史的に薬問屋が集積していた日本橋を拠点に、産官学連携によるライフサイエンス領域でのオープンイノベーション促進やエコシステム構築、新産業創造支援を行う「LINK―J」を立ち上げ。

 現在までに約1000社が加入している他、23年には宇宙産業のオープンイノベーション推進、宇宙ビジネスの拡大を目指す「CROSS―U」を設立、現在までに約300社が加入。

 現在の三井不動産社長・植田俊氏は、不動産の枠を超えてオープンイノベーションのプラットフォーマーを目指す姿を「産業デベロッパー」と称している。

「コミュニティ」を構築し、そこに賃貸型のラボなどの「場所」を提供、さらにはベンチャー企業への投資などで「資金」を提供するなど、産業発展のためのエコシステムをつくるというのが「産業デベロッパー」の1つの形。

 ライフサイエンス、宇宙に続いて、三井不動産が半導体のコミュニティを立ち上げたのは「半導体はデジタル社会におけるあらゆる産業の『根幹』であり、『付加価値の源泉』と位置づけられている」(山下氏)から。

 すでにベルギーに本拠を置く世界最大級の半導体研究機関「Imec」や、台湾に本拠地を置き、世界を代表するファウンドリー・TSMCを生んだ機関である「ITRI」ともパートナーシップを結んでいる。

 さらに、三井不動産は東北大学との連携で「サイエンスパーク」構想を進めているのに加え、TSMCが立地する熊本でのサイエンスパーク整備も進める方針を持っている。こうした動きとRISE―Aがどう連携していくかも注目される。

 世界を席巻し、凋落した「日の丸半導体」

 1980年代、日本の半導体産業は「日の丸半導体」と呼ばれ、世界を席巻していたが、日米半導体摩擦で打撃を受けた後、韓国や台湾勢の台頭に押され、凋落していった。

 そして今、熊本へのTSMCの誘致や、政府の支援を受けて先端半導体の量産を目指すラピダスなど、復活を目指した動きが加速している。

 その中でこれまでも、半導体サプライヤーが集まる業界団体などは存在したが、それらとRISE―Aは何が違うのか。

 通商産業省(現経済産業省)出身で、RISE―Aの理事を務める東京大学公共政策大学院教授の鈴木寛氏は「今までは学会、サプライヤー、ユーザーがバラバラだった。それが今回は混ざっている。これは初めてのこと」と話す。

 前述の通り、RISE―Aは、サプライヤーだけなく半導体ユーザーや政府、自治体、学会など立場を超えた多様な関係者が集える形にしている。

 鈴木氏は「業界団体は20世紀型。21世紀型は『オープンイノベーション』が大事。半導体はかつて、既存企業が強かったこともあってオープンイノベーションが進んでこなかったが、いよいよここに来て、進めることができるようになった」と話す。

 さらに天野氏は研究者の立場から、三井不動産のような半導体業界に属さない、いわば「第三者」が場所や機会を提供することのメリットについて「投資のスパンへの考え方が大きい」と指摘する。

 一般に、半導体に関わるメーカーは投資から3年、長くて5年で次を探しにいかないといけないが、研究者の目線とはズレがあるのだという。三井不動産は、業界に属していないことに加え、不動産開発という長期目線が問われる事業を手掛けていることがプラスに作用することが期待されている。

 鈴木氏は「オネストブローカー」(公正な仲介人)という概念を示す。経済活動や政治・外交において、中立で、信頼ができる仲介人のことを言うが、三井不動産に期待されているのは、まさにこの役割。

 一度凋落した産業を復活させるには並大抵のことではできない。ライベルも手をこまねいてはいない。その意味でRISE―Aで生まれる化学反応に寄せられる期待は大きい。三井不動産のインテグレート能力も問われる。