「無印良品」の店舗やネットストアを展開する良品計画は、顧客体験の向上と業務効率化を目指してDXを推進している。7月23日~24日に開催された「DCSオンライン×TECH+セミナー 2025 Jul. リテールDX データとITで変革する、顧客体験と店舗運営」に同社 ITサービス部 コンシューマーサービス 個客サービス推進課 課長の高林貴仁氏が登壇。ネットストアの改善や店舗で使用するWebカタログの刷新、会員プログラムの刷新など、具体的な取り組みの内容を紹介しながら、顧客とブランドをつなぐためのDXについて説明した。
実質本位の考えで“感じ良い”オンラインを目指す
無印良品といえば、商品のイメージなどからシンプル、丁寧、自然といった言葉が連想されることが多いが、その本質は真っ白で何もないこと、「『空っぽ』こそが無印らしさである」と高林氏は話す。創業当時からあった「空っぽ」の発想は、近代西洋の合理主義的な「シンプル」とは異なり、日本の伝統的な「簡素」に根差すものだ。「空っぽ」であるからこそ、ユーザーの使い方や関わり方により新たな価値が生まれるという考え方だという。
「創業当時から、自然、天然といった部分を常に磨き込み、コツコツと積み重ねてきたところに、無印良品というブランドの価値があるのだと思います」(高林氏)
同社は1980年の無印良品ブランドの創設以来、3つの視点からモノづくりを続けてきた。それは素材の選択、工程の点検、包装の簡略化である。この実質本位の考え方は、同社のITサービスにも活かされている。例えばオンラインサービスについては、“感じ良い”オンラインの提供を目指している。これはオンラインの利便性と、人と人との直接接点による情緒性を、同時にちょうど良く実現しようというものだ。
「素材の選定から物流、販売、リサイクルまで、私たちは全てを担っています。お客さまとお店、お客さまと生産者をつなぐための場になることを目指しています」(高林氏)
ネットストアの改善、店舗のWebカタログと会員プログラムの刷新を実施
良品計画のIT組織は、ITの面からこうした「つなぐ」役割を担い、DXを推進している。そのためにこれまで取り組んできたのが、ネットストアの改善、Webカタログの刷新、そして会員プログラムの新アプリ開発だ。
ネットストアは2020年に全面リニューアルを実施。グローバル化、会計を含めたMDシステムへの移行、AWSによるインフラのクラウド化、Reactを活用したフロントエンドの刷新とマイクロサービス化などを行った。しかし直後に障害が発生し、1か月ほどサービスを停止した。また2022年には、会員が1割引きで買い物できる「無印良品週間」に、通常の数十倍を超えるアクセスがあったため、やはりサービス停止に陥っている。サービスの拡充のために、さまざまな機能を次々に追加してしまったことがその理由だった。
そこで同社ではシステムの刷新に取り組んだ。不要な機能やサービスを削減することを基本として、新旧のシステムを共存させたうえで機能ごとのリプレイスを図った。この「スクラップアンドビルド」方式は当初うまくいき、ボトルネックも大幅に改善された。しかし、2025年春の無印良品週間では、急にトラフィックが増えた際に顧客が待機できる「仮想待合室」を用意したにもかかわらず、障害が発生した。予想をはるかに超えるアクセスにより、顧客が在庫を確保するシステムのレスポンスが大幅に劣化、在庫を確保できない顧客があふれ、10万人以上の待機列ができてしまった。
しかし、障害が起きながらも対策を重ねてきたことでボトルネックは少しずつ改善に向かい、その結果インフラコストも大幅に削減できた。現在は、数十倍のトラフィックに耐えられるような基盤になっている。そして今後のさらなる改善に向け、部を横断するチームも組成した。これにより、在庫引き当ての大幅な高速化を実現できる見込みだ。
Webカタログは、店舗で顧客からの問い合わせに対応し、商品の詳細情報や在庫の有無などを検索するものだ。高林氏によると、従来のものは検索の方法がやや分かりにくく、時間もかかるなど課題が多かったという。また、DBサーバやミドルウエアを使わずLinuxマシンとシェルスクリプトだけでつくられたシステムは旧態依然たるものだったし、無印良品週間のように負荷が高くなると動作が遅くなるなど、システムにも問題があった。
そこで、「はやさ」をコンセプトにWebカタログを刷新した。起動後はメニューなどのステップをたどらず、すぐに文字やバーコードを認識できるようにし、在庫情報は最初の画面で表示できるようにした。また、従来は店舗番号による認証が必要だったが、安全性を担保したうえで入力による認証を省けるようにするなど、スピーディに顧客対応ができるよう改善した。一人の顧客への対応時間の短縮は数秒でしかなくても、全店舗、全従業員の顧客対応を合計すれば膨大な時間になる。実際、この刷新により年間で数千時間もの人時削減ができたそうだ。
会員プログラムの刷新にも取り組んでいる。2013年にリリースしたアプリ「MUJI Passport」は、マイルやポイントの活用、店舗と顧客のコミュニケーション、配送リストの登録による待ち時間の短縮といった機能も持っていた。2700万以上ダウンロードされ、店舗のフォロワー数も1500万人を超えるというアプリだが、マイルを貯めてポイントに変換するというシステムが分かりづらいなど不満の声も上がっていた。
そこで現在、このアプリに代わるものとして内製で開発しているのが、2025年9月からのサービス開始を予定している「MUJI GOOD PRODRAM」だ。とくに改善したのはマイルプログラムで、マイルからポイントに変換するシステムを廃止してポイントに一本化、マイル数に応じたステージ制度や1年ごとのマイルリセットも廃止する。買い物をすればポイントが貯まり、貯まったポイントを次の買い物や寄付などに使えるというシンプルなシステムへ刷新される。ポイントの使い道を直感的に理解できるようにすることで、ブランドとの継続的な関わりを促進するのが狙いだ。
周回遅れでもトップランナーと同じ位置を走る
講演冒頭で高林氏が話した通り、良品計画のモノづくりの原点は素材の選択、工程の点検、包装の簡略化だ。これはDXについても同じで、今あるものを見直し、プロジェクトのリリース後にも改善を続けることで、「これで良い」と言える高品質の商品やサービスの提供を目指している。
同社のDXは、インフラやネットストアの仕組みの見直しに始まり、そこからECと店舗、顧客と無印良品をつなぐフェーズを経て、現在は一人ひとりの個客と店舗をつなぐ第3フェーズの目前に来ている。自信を持った「これで良い」を個客に提供することを目指す第3フェーズで重視するのは、良い情報、良い商品、良い売場で個客とつながり、体験を促す情報を発信することだ。共感・納得できる良い商品をつくり、それを揃えた、買いやすい良い売場を整備する。そしてコミュニケーションはしつこくプッシュするのではなく、適切なタイミングで適切な良い情報を届ける。
「無印良品ブランドに共感してもらい、お客さまと共に創っていけるようなブランドになることを目指しています」(高林氏)
グラフィックデザイナー・田中一光氏の言葉のなかに、無印良品というブランドは「1周遅れと同位置のトップランナーのようなもの」という表現がある。時代の流行を追わず、周りが皆やっていてもそれが本当に意味のあることなのかを考えながら、できることを地道に積み上げる。そうすることで、周回遅れであってもトップランナーと同じ位置を走ることができる、という意味だ。
「システムも同様に、トップランナーを目指さなくとも、コツコツと積み重ねていった結果、自然にトップランナーと同じ位置にいる、それが私たちの目指すところです」(高林氏)

