" 採用が変わる! "  企業が学生にオファーするスカウト型へ アイプラグ・中野智哉の「学生と企業のミスマッチ解消を!」

企業による学生のスカウト

 東京都内の大学に通う3年生。ジャーナリズムを専攻し、新聞社や広告代理店などのインターンシップや説明会にも参加していた。しかし、途中で「学問的に興味があることを仕事にしたいのか?」と疑問を抱いた。

「私の長所は忍耐力があること。成果が出るまでは、苦しいことでも頑張り続けます」─。友人から教わった「オファーボックス」と呼ばれるサイトに自分のプロフィールや長所などを入力。すると、人材サービス会社から面接の打診メールが寄せられた。結果、その学生は同社に入社し、今でも営業部門の最前線で活躍している……。

 こんな新しい新卒採用が広がり始めている。これまでは就職ナビを通じて学生が企業にエントリーする「エントリー型」が主流だったが、今は就職サイトに登録する学生に対して企業が直接アプローチする動きが主流になりつつあるのだ。

   

       企業から学生に直接オファーを送れる新卒特化のダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」

 このエントリー型とは真逆の「スカウト型」の就活を実現しているのが中野智哉氏率いるアイプラグ。同社のオファーボックスに学生がプロフィールなどを登録・公開すると、企業が学生の情報を閲覧し、会いたい学生にオファーを送れる。〝企業による学生のスカウト〟だ。

「人手不足が深刻になっているが、30年以上にわたって企業と学生のミスマッチが続いている。もっと本質的なコミュニケーションを取る必要がある」と中野氏。要は、学生は必要以上に多くの企業と出会い過ぎており、1社とのコミュニケーションが希薄化しているということ。

 中野氏は2012年に同サービスを開発した。26年卒業予定学生のうちの登録者数は22万人以上。毎年45万人の卒業予定学生がいるため、2人に1人が登録している計算だ。登録企業はサントリーホールディングスやニトリホールディングスといった上場企業をはじめ、中小企業など2万社を超えている。

 企業にとってもメリットは大きい。厚生労働省などによると、新卒の3年以内の離職率は34.9%。数百万円単位の多額の採用費用をかけて採用しても、その学生が会社に定着しないという実態が浮かび上がる。この課題をいかに解決するかが共通の悩みになっていたのだ。

 中野氏は企業と学生のコミュニケーションの時間を増やすためにも「学生の情報を見える化し、1対1の形に近づけていく」と話す。テクノロジーが進化し、写真や動画など情報量が大きくなっても瞬時にやり取りができる通信環境が整った今だからこそ、同社のサービスが普及していると分析。

 オファーボックスには様々な入力項目がある。その項目数はプロフィール写真やスキル、卒業予定大学はもちろん、希望職種や希望の勤務地、過去のエピソードなど34。その組み合わせは約140億通りだ。企業側は条件を絞り込んで採用したい学生を掘り起こす。内定承諾まで無料で使える成功報酬型プランがある点も大きい。

「学生が登録できる情報が圧倒的に多いため、その学生が大手志向かベンチャー志向かも分かる」と中野氏が話すように、企業側は学生のことを詳細に把握できるようになる。ただし、企業側が同時に送ることができるオファーには制限があり、オファーボックスで1人採用予定の場合、企業は40人までしかオファーを送れない。学生側も最大15社までとしかやり取りできない。オファーを出すこと自体が目的にならないようにするためだ。

 足元では、DX化の流れもあってIT人材への引き合いが強いが、「新しいものを生み出そうとするチャレンジ精神を持つ人材が求められているのは今も昔も同じ」(同)だ。21年3月に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場したアイプラグの25年3月期の売上高は50.8億円、営業利益が5.7億円と9期連続の増収を継続している。

ニートを経験しての就職・起業

 中野氏の足取りはユニークだ。1978年生まれで中京大学経営学部に在籍していたが、就職氷河期での新卒就活は「説明会に1度顔を出しただけで終えてしまった」(同)という。兵庫県の実家に戻り、求人広告会社に就職したが、相性が合わずに退職。その後は「10カ月間のニート生活に突入した」(同)。

 その間に転機となる出来事が起こる。趣味のテニスで50代の男性に負けたのだ。20代で敗北したショックから半年で25キロ減のダイエットに成功。「周囲の反応が変わる経験をした。周りを変えたいなら自分を変えればいい」と一念発起した。

 02年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、10年間、求人広告市場で法人営業を経験。当初の営業成績は最下位だったが、中野氏はそこで終わらず、悔しさをバネに奮起し、全国トップ10入りを実現した。さらに自らのビジネススキルを上げるためにグロービス経営大院に通う。そこで出会った仲間とアイプラグを設立した。

「起業当初は新卒の人材紹介だったが、すぐに撤退に追い込まれた。次の一手として、ふと閃いたのがダイレクトリクルーティング型のサービスだった」と同氏は振り返る。今でこそ類似のサービスは存在するが、当時は唯一無二のサービスだったため、一気に広がっていった。

 今後はスカウト型で一強を目指すと共に、課題でもある「第2の柱」の開発・育成に力を入れる。例えば「大学1~2年時でも働くことを意識した大学生活を送れるなど、大学生活の入口と就職という出口に関する領域」(同)がある。「自分が世話になった人材業界を良くしたい」と語る中野氏。新卒の就活習慣を根本から変革できるかどうかは同社にかかっている。

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