【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「株主総会 出席のおススメ」

 7月、株主総会シーズンが終わった。各総会で承認された戦略の実行実現に大期待している。

 

 企業が株主と直接交信する大変貴重な機会であり、アクティビストの標的企業や不祥事や懸念経営課題にまみれている企業のみならず、全上場企業にとって株主総会は最重要イベントの一つである。企業は懸命に準備する。

 業況や重要経営戦略を簡潔に説明する映像を創作する。動議も含め株主からのあらゆる厳しい質問と、その模範回答を作成し、各役員は猛勉する。社員や外部コンサルが株主役を演じ、厳しい質問満載のリハーサルを何回も実施する。

 

 そんな企業の熱量を直接感じる為、社長らの生の声に直接触れる為に、出来るだけ総会に出席している。実は文学座の『シラノ・ド・ベルジュラック』や、ミュージカル『コーラスライン』鑑賞以来、映画よりも「役者が聴衆の目前で演ずるライブ舞台」を嗜好している。

 役者の呼吸が聞こえる、鼓動を感じる。舞台劇に比するのは些か不謹慎だが、同じノリで総会に出席している。

 

 多くの場合、株主質問も会社回答もほぼ想定通りで大きな驚きはないのだが、ライブショーならではの小さな感動を覚える時もある。大事件ではないが、少しホッコリした小さな経験談をご紹介したい。

 

 昨年、さる大商社だった。「議長、あなたは水を飲んでいるのに、我々株主には水も出ないのか」との抗議。

「大変失礼致しました。来年からは必ず用意します。是非来年もご出席頂き発言賜りたい」と回答。笑いを取り一気に会場全体が和んだ。社長の人となりが全株主を一瞬で掴んだ瞬間だった。

 不祥事に巻き込まれた某社ではQ&Aセッション冒頭から厳しい叱責・糾弾の声が多く投げ掛けられていた。1時間ほど経った頃、こんな株主発言が来た。

「社長、プレゼンが本当に下手。プロの指導とか受けて上手くやってよ。御社、応援しているんだから」。議長が実に素朴に応えた。「私、御覧の通り、飛んだり跳ねたり出来ません。やるべきことを、ひたすら頑張って参ります」。小さな感動の波を生んだ。

 この後の株主発言は主に会社への応援基調に大きく変わっていった。

 

 歌舞伎同様、筋書きはほとんど分かっている。役者についてもおおよそ理解している。歌舞伎での派手な装飾や団十郎の大熱演もないかも知れない。

 しかし、総会は企業にとっての真剣勝負の場だ。社長達の生の声から、真剣勝負ならではの意思・決意・熱情が垣間見える。いったん株主になった後は都度経費はタダだ。歌舞伎より安く面白い。総会出席、おススメです。