富士通は7月16日、クロスインダストリーで社会課題の解決に貢献する事業モデル「Fujitsu Uvance」の進捗に関する説明会を開催した。

執行役員副社長 COO 高橋美波氏は、2024年度のFujitsu Uvanceの売上が4828億円と好調であり、2025年度に7000億円の売上を目指すと述べた。また、同氏は「AIエージェントを活用して、社会へのインパクトを出している事例が出てきている。AIが企業活動を支える雰囲気が出てきており、AIと人間が協働する時代が来ている」と語った。

  • 富士通 執行役員副社長 COO 高橋美波氏

高橋氏はAIエージェントについて、「会議の支援などで利用されている印象があるが、われわれが目指すのは一歩上であり、業務特化型のAIエージェントを準備する」と述べた。

「Fujitsu Uvance」のAIエージェントの戦略

「Fujitsu Uvance」におけるAIエージェント戦略は、「業務特化型エージェント」「マルチエージェント化、マルチベンダー化」「信頼性の担保、適切なガバナンスの構築」という3つの柱から構成されている。

「AIエージェントは人と同じ能力を持っている必要がある。富士通は業界の深い知見において利点がある」(高橋氏)

業務特化型エージェント

業務特化型エージェントに関しては、業務特化型LLM「Takane」や企業データを正しく読み解く生成AIフレームワークなどを自社開発する。高橋氏は「当社はテクノロジーカンパニーだからできる」と述べた。

マルチエージェント化、マルチベンダー化

富士通はAIエージェントの未来として、役割や専門性の異なる複数のAIエージェントが連携し、単独のエージェントでは難しい課題にも対応することを描いている。それには、他社のエージェントとも連携可能な仕組みが必要だ。

現在、Microsoft TeamsおよびSalesforceと連携して、余剰在庫対策から販促施策立案までのプロセスを自動化する仕組みを構築しているという。「それぞれのシステムに特化したエージェントがつながるエコシステムを作ることが重要」と高橋氏は述べた。

信頼性の担保、適切なガバナンスの構築

AIエージェントを連携しようとすると、信頼性の確保が必要となる。高橋氏は「当社は10年以上、AI倫理に取り組んでおり、当社のAIエージェントは安全性とガバナンスを効かしている」と説明した。

  • 「Fujitsu Uvance」におけるAIエージェント戦略

説明会では、AIエージェントによって自律的な在庫管理を実現するソリューション「Autonomous Inventory Management by AI Agents」のデモが披露された。

同ソリューションは在庫の欠品リスクに対し、在庫、生産、販売など複数のAIエージェントが連携して、最適な施策を提示する。デモでは、4つの業務特化型エージェントとそれらをとりまとめる2つのエージェントが連携して動いていた。エージェントは人からのフィードバックを学習し、自律的に進化する。高橋氏は「結果から学び成長し、現場で磨かれる。これがわれわれが考えるAIエージェント」と語っていた。

  • 「Autonomous Inventory Management by AI Agents」の画面

システムの保守にAIを利用している住信SBIネット銀行

システムの保守にAIを利用している企業として、住信SBIネット銀行の執行役員 システム本部長の相川真一氏が説明を行った。同氏はAIを活用する背景について、次のように述べた。

「システムが大規模になることで開発期間が延び、納期やコストに影響を及ぼしている。また、ITエンジニアの不足からエンジニアの単価が高騰しており、多くの課題がある。私が社会人になって20数年経つが、根本的な開発プロセスは変わっていない。生成AIの登場に革新性、開発プロセスを変える可能性を感じている」

部分的にAIを活用したものの、根本的な活用は進まず、富士通に相談したとこと話が進んだそうだ。

AI戦略・ビジネス開発本部長 岡田英人氏は「新しいものを作ることにAIが活用されているが、プログラミングだけで十分なのか。一部の生産性向上にとどまらず、システム開発を変革したい」と語った。

相川氏は当初、どの程度AIによって課題が解決できるか疑問を感じていたが、富士通と協働を進める中で、「期待できると思った」という。

同行は設計書をAIにインプットしてテストを実行。最初は精度が低かったが、設計書の書き方を変えたり、RAGやルールベースを改善したりすることで、精度が上がった。相川氏は「富士通と活動を続けていけば精度が上がる、あらゆる業務に生成AIが活用されると感じている」と語った。

相川氏はAIによって既存システムの開発・保守が一気通貫で自動化されたら、提供するサービスの世界観が変わると述べた。

「自動化されたことで、コストと時間のハードルが下がると、やりたいことがどんどん実現される。サービスが次々とリリースされ、フィードバックを受けて改善される。サービスそのものが変わる」(相川氏)

  • 左から、住信SBIネット銀行 執行役員 システム本部長の相川真一氏

骨格認識AIの活用で病気の早期発見を目指す台湾Acer Medical

富士通は、パートナーのソリューションに組み込むFujitsu Uvanceを組み込む「Powered by Uvance」に力を入れている。その一環として、台湾Acer MedicalとAI活用により高齢者の歩行パターン異常を検知し、将来の疾病リスク評価に向けた基本合意書を締結したことが同日に発表された。

具体的には、「Fujitsu Uvance」のオファリング「AI Technologies and Solutions」から提供する「Fujitsu Kozuchi for Vision」の骨格認識AIの活用により、高齢者の歩行パターンの異常を検出し、医療従事者に定量化した歩行情報を提供することで、認知症やパーキンソン病などの早期把握を支援するソリューション「aiGait(エーアイゲイト)」powered by Uvanceの開発に取り組む。

Acer Medicalの会長であるAllen Lien博士は、AIを利用する意義について、次のように説明した。

「医師が患者の動作を測定する場合、ストップウォッチを持って目視するが、定量化することが難しい。客観的に評価するためにセンサーを使うことができるが煩雑。ヒューマンモーションアナリティクスを利用すれば、歩行を分析できる」

  • Acer Medical 会長 Allen Lien博士

Acer Medicalは、台湾の台北栄民総病院併設のデイケアセンターで実証実験を予定している。実証実験では、椅子から立つ、座る、歩くといった人の動作をカメラで撮影し、骨格認識AIを用いて認知症などの疾病の患者特有の動作との共通点の有無を検証する。同ソリューションは、2025年中にAcer Medicalより台湾全土の高齢者ケア施設への導入が予定されている。

Lien博士によると、健常な人が歩いたデータと疾患がある人のデータを比較するが、健常な人も不安定な動きを示しているという。そうした小さな動きを人間は気付くことができないが「AIは気付ける」と同氏。認知症に関しては、測定結果をチャートでまとめることで進行状況を解析できるという。

Lien博士は「富士通と協働することにより、医療現場でAIを活用したい。健康寿命を延ばしたい」と語っていた。