ファインディは7月3日・4日の2日間にわたって「開発生産性Conference2025」と題して、海外・日本の開発生産性に関する最新の知見を集め、各企業のベストプラクティスや開発生産性向上への取り組みを通して、新しい時代の開発のヒントを提供するイベントを開催した。

同イベントは今回で3回を迎え、2023年の「開発生産性とは何か」、2024年の「事業インパクトにつながる開発生産性への向き合い方」に続き、「2025年の崖」に向き合い、「生成AIとの協働が不可欠な時代にいかに開発生産性向上に取り組み事業価値を高めていくか」をテーマの下、開催された。

本稿では、「大事なことは経営者の意識変革。トヨタグループKINTOテクノロジーズ代表が語るエンジニアが競争力の源泉である理由」というテーマで行われたKeynoteの模様をお届けする。

同講演には、KINTO/KINTOテクノロジーズ 代表取締役社長の小寺信也氏、ファインディ 代表取締役 山田裕一朗氏が登壇した。

  • 「開発生産性Conference2025」イベントの様子

    「開発生産性Conference2025」イベントの様子

ITの知識がゼロの状態からIT企業の社長へ

KINTOテクノロジーズは、トヨタグループのモビリティサービスの世界展開を実現する技術集団として、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。同社が内製開発に取り組み始めて5年が経つが、エンジニアの創造性を重視する開発体制を築き、大きく成長を遂げている。

Keynoteでは、小寺氏が「エンジニアが競争力の源泉」と考えるに至った背景をひも解き、日本の大手企業にありがちな「IT部門はビジネスの裏方を担うだけの存在」という考え方をどのように脱していくのかについて、山田氏との対談形式で語られた。

  • KINTO/KINTOテクノロジーズ 代表取締役社長の小寺信也氏とファインディ 代表取締役 山田裕一朗氏の対談の様子

    KINTO/KINTOテクノロジーズ 代表取締役社長の小寺信也氏とファインディ 代表取締役 山田裕一朗氏の対談の様子

トヨタグループが展開するモビリティサービスのシステム開発を行っているKINTOテクノロジーズ。同社は、「ソフトウェア資産を手の内化すること」「人的資産(=エンジニア)を最大限活用すること」を目的として、車のサブスクリプションサービスを展開するKINTOから分社化する形で設立された。

小寺氏は分社元のKINTOの立ち上げにも尽力したが、KINTOを設立した時は「ITについて全く詳しくなく何も知識がなかった」と語った。

「もちろん、トヨタ自動車にもIT部門はありましたが、『システムを作ってくれる部署』以上の認識はありませんでした。どんなスキルを持つ人が働いているのか、システムは内製開発なのか、それとも外部に委託しているのか……そんなことに興味を持つきっかけすらありませんでした」(小寺氏)

  • KINTOの立ち上げについて語る小寺氏

    KINTOの立ち上げについて語る小寺氏

そのため、サービスのリリースに向けて開発を進めている時も「技術の話をされても分からないから聞かなくても良い」「多少はお金がかかっても良いからとにかく早く開発を進めてほしい」という気持ちでベンダー会社に依頼をしていたそうで、「今思うとこのマインドが1番良くなかった」と当時を振り返っていた。

このようなITに関心を持っていなかった小寺氏だが、社員たちとの月次ミーティングでコミュニケーションを取ることで「エンジニア」という職種に理解を深めていったという。

「最初は専門用語が分からず、担当範囲によってエンジニアの職種が分かれていることも知りませんでした。そのため社内のエンジニアたちと会話がかみ合わず、たくさんの苦労をかけました。エンジニアたちは私にも分かるような言葉で解説してくれ、徐々にITに関する理解度を上げていき、次第に話がかみ合っていることを実感するまでに成長しました」(小寺氏)

エンジニアの自信が日本を救う

このように、エンジニアの活躍に深く理解する経営者となった小寺氏だが、山田氏からの「エンジニアに期待すること」という問いかけに対し、「エンジニアという職業に誇りと自信を持ってほしい」と答えた。

「エンジニアの皆さんは自分のことを過小評価する傾向にあると思っています。私は、エンジニアの皆さんはもっと良い仕事、もっとすごいことができると信じています。にもかかわらず、営業などの事業サイドに『どうせ言っても聞いてもらえない』『言われたことをやっていれば良いよね』と下手に出ているのを見ると、とても残念な気持ちになります」(小寺氏)

小寺氏曰く、この自信のなさが事業サイドから依頼された無茶な要件のシステムを請け負ってしまうことにつながり、結果的にプロダクトの完成度を低くしてしまう可能性も秘めているという。

それゆえ、「エンジニアに人たちに自信を持って頑張ってもらうことが今後の日本の産業を救うことにもつながる」と強いエールを送っていた。

イベント終了後、山田氏に「開発生産性Conference2025」のイベントの所感を尋ねたところ、「3年前にイベントを始めた時よりも『開発生産性』について取り組みを進めたり、関心を持ったりする人がかなり増えました。これが、大手企業だけでなく、ベンチャー・スタートアップの経営層の中でもそれが広まっているのが良い傾向。今後は『AI』との掛け合わせ方を模索するなど次の段階に進んでいきたいです」と語ってくれた。

  • 講演中の小寺氏と対談する山田氏

    講演中の小寺氏と対談する山田氏