協業先の米半導体企業が破綻 ルネサスが約2500億円の減損

「時間総額10兆円」目標の達成時期を5年延期

 半導体市況を読むことは、かくも難しいのか――。

 ルネサスエレクトロニクスが、協業先である米半導体メーカーのウルフスピードの経営破綻に伴い、2025年1―6月期に約2500億円の減損損失を計上する。ルネサスは23年、ウルフスピードに20億ドル(約2900億円)を預託して、10年間の炭化ケイ素(SiC)ウエハー調達契約を結んでいたが、預託金の大部分が回収困難になる見通しだ。

 一般にSiCはシリコンよりも電力効率に優れ、SiCパワー半導体を電気自動車(EV)で活用した場合は、航続距離の延長につなげられる。

 だが、ドイツでの補助金打ち切りやトランプ米政権による環境政策見直しなどで、EV市場は失速し、SiCパワー半導体の需要が減少。EV拡大を当て込んで、積極的な設備投資をしてきたウルフスピードの業績は悪化した。中国のEVメーカーが、半導体を国内で調達する取り組みを強化したことも追い打ちをかけた。

 こうした環境変化はルネサスにも経営戦略の再考を迫った。

 同社は2030年に売上高を200億ドル、時価総額を22年比6倍の10兆円超(現在は約3.3兆円)にするなどとしていた長期目標の達成時期を5年延期すると発表。柴田英利社長は「中国勢と正面から戦って勝つのは容易でない」と唇を噛んだ。高崎工場(群馬県高崎市)で計画していたSiCパワー半導体の量産も事実上断念した。

    ルネサスエレクトロニクス・柴田英利社長

 今後、ルネサスはパワー半導体以外の分野で存在感を高められるかが焦点となる。24年に買収した米アルティウムとの協業で開発を進めるソフトウエアプラットフォーム(基盤)「ルネサス365」により、電子設計を効率化して最終製品の市場投入も早める考えだ。

「(顧客から)ルネサスを選んでもらえるよう強みに磨きをかけないといけない」と語る柴田氏の手腕がこれまで以上に問われる。

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