「日本一訪れたい街」に進化!東急・渋谷再開発がいよいよ最終章へ

計11の再開発プロジェクト

 渋谷は、すり鉢状の地形で谷底に駅がある。そのため、東西南北を行き来する回遊性が大きな課題だった。それを大きく変える東急の渋谷再開発。会長の野本弘文氏が掲げた「日本一訪れたい街 渋谷」はインバウンドの6割弱が訪れるという形で現実のものとなっている。

「『渋谷スクランブルスクエア』は渋谷のハートとして地域のハブ機能を担い、新たな価値とにぎわいを創出する」と意気込むのは東急社長の堀江正博氏だ。そんな「100年に一度」と言われる渋谷の大改造が最終章を迎えることになった。

「これからの100年も渋谷と真っすぐ向き合い、人と文化を真ん中にヒューマンフロント・渋谷のまちづくりを続けていく」と語るのは執行役員都市開発本部渋谷開発事業部長の坂井洋一郎氏。1927年に東横線の渋谷駅が開業してから始まった同社の再開発は渋谷を国内有数の都市に進化させてきた。

 食やファッション、音楽、スポーツ、アートなどの文化の面で人々の関心を寄せてきたからだ。また、渋谷川の再生や展望施設の「渋谷スカイ」といった地域再生や観光名所の創出も手掛けた。加えて、渋谷の弱点と言われてきたオフィス環境も変えた。残る3つのプロジェクトを含めた計11の再開発によって生み出されるオフィスの延床面積は約120万平方メートルと東京ドーム約26個分に相当する。

 オフィス仲介大手の三鬼商事によると、5月の渋谷区のオフィス空室率は3.05%と都心5区では千代田区(1.9%)に次ぐ2位。賃料は2万4500円超と千代田区(約2万2000円)を超える。渋谷で創業したHRテックの社長は「創業時から渋谷にオフィスを構え、社員も渋谷周辺に住んでいる。今更移転する必要もない」と語る。

 一方、足元で来街者に不便を強いているのが駅通路。再開発に伴って幾度となくルートが変わっている。「行く度に迷路に迷い込んだ感覚に陥る」(50代サラリーマン)といった声も上がるように、そこに不便を感じる利用者がいるのも事実だが、最終章ではこれが改善される。

 30年度にはJR線と東京メトロ銀座線の改札が3階レベルで結ばれ、地上や2~4階レベルでの高さでデッキがかかり、歩行者通路ができあがる。「ストレスなく縦横無尽に平行・垂直移動ができるようになる」(別の東急関係者)ことで渋谷周辺の回遊性の向上が期待される。

 中でも銀座線渋谷駅ホームの直上にできる空中回廊「4階東口スカイウェイ(仮称)」が整備されると、宮益坂から駅を通り抜け、道玄坂や桜丘、中央街方面に移動する場合、上下の移動がほぼなくなる。更に33年度にはスクランブル交差点にも一度の上下移動で済むようになる。

        

               スクランブル交差点から見た2031年度の渋谷駅周辺のイメージ

 そして残る3つの再開発では、商業やホテル、文化交流施設、神社といった新たな要素も加わる。31年度に完成予定の「渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期」は中央棟(地上10階建て)と西棟(地上13階建て)で構成。商業施設のフロア面積は最大6000平方メートルで、都心型駅直上ショッピングセンターとしては日本最大級。中央棟の屋上には各国大使館などと連携した「10階パビリオン(仮称)」が整備される。

 駅西側では東急百貨店本店の跡地で進行中の「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」が29年度の竣工を予定する。商業のみならず、東急文化村が運営する「Bunkamuraザ・ミュージアム」が拡大移転。加えて、スモールラグジュアリーホテルや渋谷の楽しさと松濤の落ち着きの両面を兼ね備えた賃貸レジデンスも登場する。

神社を再建する 宮益坂地区再開発

 さらに駅周辺の風景を変えそうなのが「渋谷ヒカリエ」の北側に隣接する「宮益坂地区第一種市街地再開発事業」だ。戦後、闇市が立っていたこともあり、権利関係が複雑で雑居ビルが立ち並んでいる場所を東急とヒューリックが再開発組合と整備する。「地権者はおよそ30。権利関係や要望・意見をまとめ上げる点でも、これまでの再開発とは違う」と担当者は話す。

 ここではヒカリエとほぼ同じ高さとなる180メートルの複合施設が計画されており、商業、ホール、産業育成支援施設、オフィス、ホテルができる。また、室町時代から続く「渋谷宮益御嶽神社」を建替えて再整備する。三井不動産が日本橋で福徳神社の再建を行ったが、渋谷でも神社という新たな要素が加わる。

 この宮益坂の再開発が、これまでの再開発と異なるのは、東急単独、あるいは複数の大手企業での再開発ではないという点だ。「具体的な成功事例としてヒカリエがあるので地権者も自分たちの土地がどのように変わるのかイメージしやすい」(東急幹部)。また、東急不動産ホールディングスが更に多くの地権者を束ねた「渋谷サクラステージ」を完成させた点も大きい。

 その一方で、渋谷再開発で手を組むJR東日本は山手線の東側に位置する品川・高輪・浜松町エリアで攻勢をかける。また、同じ西側でも池袋と新宿では駅周辺の大規模な再開発が控える。都市間競争が熾烈化する中で、渋谷の存在をより一層際立たせる必要がありそうだ。

【最終章を迎える渋谷再開発】すり鉢の上に何層ものデッキが掛かる! 東急などが手掛ける「渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期」の工事着工へ