Amazon Web Servicesジャパンは6月25日・26日、千葉の幕張メッセで、年次イベント「AWS Summit Japan 2025」を開催している。初日は、代表執行役員社長の白幡晶彦氏が「ビルダーと描く新たな価値創造」というタイトルの下、基調講演を行った。
競合のMicrosoft、GoogleはイベントでAIについて積極的なメッセージを発信しているが、白幡氏はAIについて何を語ったのか。同社のAI戦略はどうなっているのか。
クラウドは価値創造を支える社会インフラに
白幡氏は、「われわれがクラウドを提供開始してから16年たつが、クラウドの役割は進化した。当初は、コスト削減や業務の効率向上のために導入されていたが、今では価値創造を実現するための社会インフラであることが求められている」と話を切り出した。
社会インフラであるからにはレジリエンスやセキュリティが不可欠であり、さらに、新たな価値創造の実現には 「ビジネスの変革、それを支えるDXとカルチャーイノベーションが不可欠と学んだ」と、白幡氏は語った。
そして、同社は日本に長期的にコミットするため、2027年までに日本に対し2兆2,600億円の投資を行う計画としている。その一環として、国内にデータセンターを新設し、2026年に稼働を予定している。
白幡氏は「当社は日本企業の変革を末永く支援する」と、力強く語った。
新たな価値創造を目指す「ビルダー」を支えるために
「価値創造」と並ぶ、基調講演のタイトルのキーワードとなる「ビルダー」について、白幡氏は「ビルダーとは、新たな価値創造を目指すすべての人、変革を起こすすべての人を指す。われわれはビルダーという言葉を大切にしている」と説明した。
同社はビルダーを支えるため、さまざまな取り組みを行っているが、その一つが既存の資産を未来の武器にするための機能拡張となる。白幡氏は3つのサービスを紹介した。
既存の資産を生かすためのサービス
1つはOracle Exadata環境をAWSのデータセンターで提供する「Oracle Database@AWS」、もう1つはVMwareワークロードをAWSのデータセンターで実行できるサービス「Amazon Elastic VMware Service」だ。いずれも国内での提供はまもなく開始されるという。
3つ目のサービスは、今年5月に一般提供が開始された、メインフレームアプリケーションを大規模にモダナイズするためのエージェント型AIサービス「AWS Transform for mainframe」だ。専用のAIエージェントによって、初期分析と計画から、コードのドキュメント化とリファクタリングまで、変換プロセス全体が効率化される。
レジリエンスを強化するためのサービス
白幡氏は、レジリエンスに対する日本の高い水準に対応するためとして、Amazon Connectの大阪リージョンの申し込みを同日より受付開始することを発表した。
また、分散SQLデータベース「Amazon Aurora DSQL」が今年5月に一般提供が開始された。同サービスでは、アクティブ/アクティブ構成の分散アーキテクチャが、単一のリージョンで99.99%の可用性、複数のリージョンで99.999%の可用性を実現するように設計されている。
セキュリティを強化するためのサービス
そして、白幡氏は「セキュリティは最優先事項として投資する」と述べた。これまで、顧客からクラウドに対するセキュリティに不安があるという声が上がっていたが、「AWS Nitro Systemがクラウドセキュリティの常識を変えた」と同氏は語った。
AWS Nitro Systemは、専用のハードウェアとソフトウェアから構成される、EC2インスタンスの基盤技術。セキュリティチップ「Nitro」を搭載し、ハードウェアレベルでのセキュリティ機能を提供する。「完全な管理を行うにはチップからという、われわれの判断は正しかった」と白幡氏。
また、AWS内部の脅威インテリジェンスツールは「Sonaris」は、EC2への脆弱性スキャン攻撃を年間2.7兆件阻止しているという。
インフラと人材の両面で生成AI活用を支援
同社の調査によると、生成AIを採用済みの国内企業は82%、CAIOを設置済み ・設置予定の国内企業は84%と、「世界レベルで最先端の取り組み状況」だという。
白幡氏は「日本企業は、AIに対して決してコンサバティブではなく、本気であることがわかる」と語った。
インフラへの投資
同社はAIサービスへの投資を継続しているとして、以下の具体例が紹介された。
- Amazon Bedrock:東京に加え、大阪リージョンでも提供開始
- Amazon Nova:東京リージョンを含むアジアパシフィックでクロスリージョン推論に対応
- Amazon Q developer:日本語対応を開始
人材への投資
また、白幡氏は「人こそが価値を生む」と述べ、人材育成に関する取り組みを紹介した。
同日、旭川工業高等専門学校および富山高等専門学校と、地域創生実現に向けたデジタル、AI(人工知能)人材育成に関する包括連携協定を締結したことが発表された。
これにより、「AIに関する実践的な教育支援」「全国の高等専門学校に対するAIに関する教育モデルの普及」「実践的なインターンシップ機会の提供」「地域創生に向けた共同事業の推進」において、連携を進める。
さらに同日、生成AI実用化推進プログラムに2つのプランが追加された。同プログラムは、生成AI活用の戦略策定段階から支援する「戦略プランニングコース」、生成AI基盤モデルの開発・カスタマイズを支援する「モデルカスタマイズコース」、汎用モデルを活用したシステム開発を支援する「モデル活用コース」の3つのコースから構成される。
今回、「モデルカスタマイズコース」に「GENIAC-PRIZE 応募者支援プラン」が追加された。同プランは、経済産業省とNEDOが主催する生成AIの社会実装と開発力強化を目指す懸賞金型プロジェクト「GENIAC-PRIZE」への応募者を支援するもの。同社は、GENIAC-PRIZE応募者に対し、計算リソースの調達から実装・事業化までのプロセスをサポートする。
また、「モデル活用コース」には「Agentic AI 実用化推進プラン」が追加された。同プランは、企業・団体や開発者の皆様のAgentic AI実用化への取り組みを総合的に支援するもの。
白幡氏は、「ビルダーとともに生成AIがもたらす価値創造を追求し、ビルダーの目指す未来に伴走する」と語っていた。