『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美「AIネイティブ化という好機」

最近、スタートアップの企業経営者とお会いすると、話題の中心はもっぱら、「会社のAI(人工知能)ネイティブ化」だ。これまでの人中心に組み立ててきた会社の仕組みを、AIを前提に組み立て直し、人にしかできない部分を明らかにし、新しい形の枠組みに変えることで、経営のスピードとユニークネスを向上させようとしている。

〈この時期、気になるトップの言葉〉熊谷正寿・GMOインターネットグループ代表

 グローバルコンサルティングファームであるマッキンゼーのレポートでは、同社が対象とする情報通信系企業の顧客のうち、約半数が、すでにAIネイティブ化に着手していると報じており、AIネイティブ化のステップを次のように示している。

 まず業務ごとのユースケースを特定し、再利用可能なAIモジュールを設計。次に、データ基盤を整備し、業務フローを横断的に再設計。経営層の関与と現場浸透を促進し、ガバナンスと人材戦略を整備する。最終的にはAIが自律的に判断・実行する「エージェント型AI」へ進化させ、全社的な価値創出を目指す。

 2年前にLLM(大規模言語モデル)が登場し、毎月のように新たなAIが登場する中、スタートアップの経営者たちは、これを大きなチャンスと捉えている。なぜならば、この転換のためには、企業は大胆な文化改革と人事戦略の見直しが必要だからだ。これまでの仕事の仕方を根本から変え、求められる人材は、AIに指示を出し、判断できる人間となり、指示待ち族は、AIの指示のもとで動くことになり、その数は最小限になるだろう。

 こうした大胆な変革をスピーディーに行うことができるのは、デジタルに親和性があり、かつ強いリーダーシップが機能する会社であり、大企業にはハードルが高い。マイクロソフトやSAPといったグローバル企業も現在、大きく舵を切り、猛スピードでAIネイティブ化へと歩みを進めているが、そのスピードは、スタートアップには敵わないため、M&Aなどを活用し、スタートアップの力を取り込もうとしている。

 しかし、この流れは、スタートアップだけに有利さがあるわけではない。日本の企業の99・7%を占める中小企業のトップがAIネイティブ化を目指したならば、何が起きるだろうか。

 人にしかできないことに強みを持つ日本の小さな企業の経営者こそが、AIネイティブ化を目指したならば、日本の産業競争力は激変するだろう。さらに、零細企業が各社で対応するのではなく、複数で連携し、AIネイティブ化を進めることができたなら、それは面となる。経営者のAI知識の有無ではなく、取り組もうという意思の有無が未来を決める。

『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美「メディアが伝える真実とは」