サイボウズは6月20日、エンタープライズ企業向けに展開するkintoneの事業戦略について記者説明会を開催した。表計算ソフトや紙資料からの乗り換えといった既存の需要に上乗せして、基幹システムとの連携やエンタープライズ向けの新機能により、2023年度比で2028年までに2倍の成長を目指す。

エンタープライズ向け市場拡大を狙う背景

同社はエンタープライズ事業の対象を、従業員数1000人以上の企業と定義している。企業数で見ると、国内の177万社の中でエンタープライズクラスの企業はわずか0.23%だが、従業員数で見ると3割超がエンタープライズの従業員だ。

同社IR資料によると、2024年11月に実施した価格改定の影響もあり、各製品のARPA(Average Revenue Per Account:1アカウント当たりの平均売上高)は全社での導入が前提のGaroonに対し、ID単位で導入となるkintoneの単価が低く、課題となっている。

こうした課題に対し、より大規模なユーザーの利用に対応可能な高付加価値かつ高単価なプランを提供する。また、エンタープライズ企業への営業活動を強化する組織体制も整備した。

  • kintoneのARPAが課題だという

    kintoneのARPAが課題だという

エンタープライズへの販売を強化する施策とは

今後のグローバル市場およびエンタープライズ市場へのビジネス推進を強化するべく、「グローバル事業本部」と「エンタープライズ事業本部」が2025年1月に新設された。

新組織はエンタープライズ市場向けとして、パートナー企業を通さずに顧客と直接コミュニケーションを取り深い関係を築く「ハイタッチ営業」の手法に注力する。ABM(Account Based Marketing)アプローチで企業ごとにアカウントプランを作成し、顧客の信頼を得ながら大きな商談へと育てていく。

  • エンタープライズ向けのアプローチ戦略

    エンタープライズ向けのアプローチ戦略

具体的には、Tier1企業(超注力企業)50社はトップ合意の下でグループ全体の攻略を目指す。kintoneによる業務効率化が期待できる数千~数万ユーザー規模のエンタープライズ企業がターゲットとなる。

それに続くTier2~Tier4企業(注力企業)400社向けには、製造業など特定の業種や、SFA(Sales Force Automation)など特定の用途で顧客に刺さるテーマを探求する。ここでは、社内外の協業を活用してレバレッジを利かせるという。

  • エンタープライズ向けのアプローチ戦略

    エンタープライズ向けの営業活動

エンタープライズ事業本部の玉田一己氏は漁になぞらえて、「大海で網を張る漁ではなく、銛を使った漁のようなもの」と説明した。

  • サイボウズ エンタープライズ事業本部 玉田一己氏

    サイボウズ エンタープライズ事業本部 玉田一己氏

kintoneは企業全体の最適化を支援するプラットフォームへ

今後、企業が活用するITは部分最適なサイロ型の個別業務システムの集合から、全体最適化を支援するプラットフォームの組み合わせへと変わっていくと予想される。

そこで同社のエンタープライズ事業では、短期的な案件獲得や売上向上よりも、ブランドや信頼性といた長期的な影響力の構築を進める。また、直接的な現場の利用者ではなく、CIOをはじめとする意思決定者向けの情報発信も強化するという。

加えて、CIO層やIT / DX部門のマネージャー以上が集まるイベントやラウンドテーブルなどに積極的に参加する。これにより、サイボウズのプレゼンス向上や、登壇・情報発信・交流によるリレーション構築を図る。

  • CIOマーケティングを強化する

    CIOマーケティングを強化する

こうした活動と並行して、エンタープライズにおけるkintoneの活用を促進するため、社内外向けのコミュニティ作りも支援する。エンタープライズ企業内でのkintone事例の発表やユーザー同士の交流が可能な社内事例発表会や、企業をまたいだユーザー交流会の実施などを予定している。

  • ユーザーコミュニティ形成の例

    ユーザーコミュニティ形成の例